急転直下3
「なるほど…。それは由々しき事態ですが、ここにいるメンバーならどうとでもできますね。さあ、早速対処を始めましょうか」
翌朝、グレースは朝一番で昨夜見た光景をクリスタに伝えた。ただ、最初に言った際はやや半信半疑だったのだが、ルナの権能でグレースの記憶をクリスタの魂魄に転写することで事実であることを理解させたという寸法だ。
そして、数分もしないうちにクリスタは対処法を思いついたらしく、冒頭に至るというわけだ。ちなみにリリスはまだ寝ている。
「うん、私達じゃ力押ししか思いつかなかったし全部君に任せるよ。ルナもそれでいい?」
「そうじゃな。儂等より考えが回るのならそれが一番良いに決まっておるからの。して、どのような案なのじゃ?」
グレースとルナもクリスタの案に乗り気なようだ。二人だとかなり無茶な方法しか浮かばなかったので、この流れは必然と言えるだろう。
「では簡潔に概要だけ説明しますね。まずは、私とグレースが聖都に移動。グレースが時間を停止し、聖堂内の人員を聖堂の外に転送。その後、グレースは兵が攻め込んでくるポイントに移動する用意をしてください」
クリスタはまずはグレースに向けた説明を淡々と行っていた。内容自体は分かりやすく、グレースの能力の可能な範囲内。今は自分の出番では無いと判断したルナは未だに眠りこけているリリスを起こしに向かった。
「なるほど。それでその次はどうすればいいんだい?」
「私が聖堂の火薬庫にこっそり侵入し、私の操作で聖堂がふっ飛ぶように術式を仕込みます。爆破する前に合図を出すので時間を停止して私を回収してください」
サラッととんでも無い事をクリスタは事もなげに言った。国の元首が国の中枢機関を爆破しようと言っているのだから、普通なら気狂いでも起こしたのかと取られる発言であり、グレースもやや引いていた。
「それってマッチポンプってやつじゃない? ていうかそれで良いのかい君は」
「ええ。所詮は建物でしかありませんし、こうしておけば聖都炎上は回収できますでしょう? 外敵にやられるくらいならば自分でやった方が幾分マシですから」
つまり、壊されるくらいならいっそ自分でというやつだ。しかし、一度『君の方針に従う』と言ってしまった手前もう意見をコロコロ変える訳にも行かないのだ。
「でも、万一バレたら君が処刑されるだろう。あの騎士団長とかは君に仕えてはいるけど実際は君に仕えてはいるが、教義もとい神の意志を優先するタイプに見えるし」
「はい。ですので貴女は攻め込んでくる軍勢を十人ほど五体満足で残して塵殺。その十人に放火とスパイの容疑を吹っかけて処刑しましょう。ついでに宣戦布告して隣国も滅ぼす口実ができますし」
そこでクリスタは暗い微笑みを浮かべた。人道的にかなりアウトのような気はするが相手方も宣戦布告無し、国家元首不在の隙をつく、それも首脳会談に相手を呼んでおきながらとアウト行為をしているので一切問題ないのだ。仮に何か言われても滅ぼせばいいだけの話である。
「まあ、君がそういうのならそれが多分ベストか。わかった、私はそうする。終わったら君を回収して転移すればいいだろう?」
「その通りです。次はルナとリリスに説明しますので、グレースは武装などの用意をしておいてください」
「了解、また後で」
グレースが準備に行ったのと入れ替わりでルナがリリスを連れて戻ってきた。リリスはやや寝ぼけ眼だったが、話を聞く気はちゃんとあるようだ。
「ふぁぁぁ。私の眠気は気にしなくて大丈夫よ・・・」
とは言っているが本人はすさまじく眠そうだ。鼻提灯まで浮かべかけている。
「・・・。仕方ないのう、アヤツの分も儂が聞くから、話してくれて構わぬぞ」
それを見てリリスを起こすのは諦めたルナは後から自分がリリスに説明するという事で先に話を聞くことにした。
「わかりました。朝食などの時間も含めると中々に時間が押していますので、こちらは手短に行きます。いいですね?」
時計を見ると朝もそこそこに時間が経っている。今の彼女らは身だしなみは整えたが朝食などは摂っておらず、オルディナに出発する時間も差し迫っている。なので手早く説明してしまう必要があった。幸い二人に頼むことはあまりハードな物ではないため、注意点を含めても短く終わる点だろう。
「貴方方の任務は簡単単純。リリスさんは私に変装し、私の代わりに会議に出てください。ルナは護衛としてリリスさんがボロを出さないようサポートしてあげてください」
「うむ、承知したが・・・。儂らは会議でお主が何を述べるかも知らぬのだ。適当に流すだけなればできよう。じゃが流石にそうは上手く行くまいよ」
いまさら拒否権も無いので了承こそしたが、流石に彼女もそれは厳しいと怪訝な顔をしてしまっている。
「ご安心ください。リリスさんとルナさんには私の方から視覚共有と聴覚共有の魔術を使い、テレパスでその都度指示を送りますので。それに、私の要件が済み次第グレースにリリスと私を入れ替える様に指示は出してありますから。あっ、それならグレースとも思考共有しておく必要がありますね」
そうあっけらかんと言ってのけるクリスタ。本来、二人以上との感覚共有はかなりの高度なテクニックであり、他種族との共有ともなれば脳や魔術回路の規格の違いで脳が焼き切れてもおかしくない。ましてやグレースとルナは限りなく神に近いため、感覚以外にも膨大な情報が共有相手に流れる上に、悪魔のリリスの分の情報も一人の脳で並行処理するとクリスタは言っているのだ。
「アホかお主は。そんな事をやってみよ、いくらお主でも脳が爆裂して死ぬぞ」
なのでルナも驚きを通り越して呆れ顔。無理だからやめろとその表情が物語っている。
「お忘れですか? 私、不死なので多少の負荷なら再生に力を割けばどうとでも無視できるんですよ。今回の場合は脳を常に再生し続ければ問題はありません」
えっへんと胸を張ってそう返すクリスタ。どうやら不死鳥の再生力で脳にかかる負担や精神的なダメージを帳消しにしてゴリ押しするつもりのようだ。ただし、それでもこのメンツの場合だと自分含めた四人同期が限界ではあるようだが。
「不死を活用しておるようでなによりじゃが、無理はするでないぞ・・・。まあよい、それで行くとするか。聞いたかリリスよ」
「ふぁぁ。ええ、まだまだ眠いけど聞いてたわ。私は常に幻惑使って教皇様に化けておけばいいのよね? それで教皇様が言う通りのセリフを言えばいいと」
今もあくびをしながらやや眠そうにしているが目は覚めて来たらしい。話の内容もある程度把握しているようだ。
「ええ。その通りですリリスさん。では、それぞれ朝食を取って準備ができ次第それぞれ行動に移りましょうか」
そうクリスタが言うとウェイトレスが食事を持って彼女たちの部屋へと食事を持ってやってきた。朝食はトーストに目玉焼き、それにサラダとスープといった簡素な物だったが流石高級旅館という事もあって凄く美味しい物であった。材料にどのような物を使っているのかまで判別する舌はもっていないがそれでも相当良質な物を使っているという事は理解できる。
「へぇ・・・。中々美味しいじゃない。ねぇ、特別なレシピか何か使っているの? もしそうなら私に教えてくれないかしら」
リリスはそう言ってコックを呼んで貰って素材などを聞き、
「ジャムが甘くて美味しい。紅茶にも合う」
と、グレースは語彙が壊滅しながらもかなりの勢いで食べており、かなり気に入っているのだろう。ただし、決して下品に食べているのではなくあくまで上品な作法で高速で口に食べ物を運んでいる。口数は少なくなっているが、それだけ食事に夢中になっているという事だろう。
「そうじゃのう。確かにこれは美味い」
ルナもまたそう言った後は黙々と食べている。どうやらデミゴッド組は美味い物を食べると口数がガクンと減るようだ。ついでに語彙力も減るらしい。
「マナーは大事ですが、できるだけ早く食べちゃってくださいね? 割と時間も押していますので」
クリスタは食べなれているのか反応は普通そのものだった。
「さて、準備はいいですね、皆さん」
食事や準備を済ませた面々にクリスタは聞いた。彼女の顔は士気に満ちていて生き生きとしている。今から自分で作り上げた聖都をファイヤーしようとしている人物なのに滅茶苦茶明るい顔であるが、まあ何事も始める時は明るく始めたほうが良いのは間違いないだろう。
「私は大丈夫」
「儂も問題ない」
「もちろん私も」
グレース、ルナ、リリスの順で、そして全員が問題なしと答えた。ならば作戦開始だ。
「では、作戦開始です。グレース、転移行きますよ?」
「了解、教皇様!」
転移術式を即座に起動し、グレースとルナはヒュンと音を立ててその場から消え失せた。
「じゃあ、私達は王宮に行きましょうか。と、その前に変身しとかねいとね♪」
「儂は護衛じゃからの。喋る事はお主に任せる」
こちらの二人は外に待っている馬車に乗り込んで王宮へと向かってゆく。ただし、リリスは幻惑でクリスタに化けるのは忘れずに。ルナは怪しまれない様にキリッと表情を作っているがまあ、なにはともあれミッションスタートである。




