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黎明開きしウィッチクラフト  作者: ラキューム
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急転直下2

「教皇様? 入ってもいいかしら」


「はい、構いませんよ」

 グレースとルナが温泉で酒盛りをしている時、リリスはクリスタの部屋を訪れていた。コンコンとノックして部屋に入り、ベッドに腰かけていたクリスタの隣にリリスも座った。二人共入浴を終えて現在はバスローブ姿だ。肌も紅潮して少し火照っている。

「ねえ教皇様、グレースとルナ知らない? さっきあの子たちの部屋に行ってもいなかったのよ」

 先程から二人を探し回っても見つからなかったので、若干困り顔のリリス。

「さぁ・・・。居場所は私も知りませんが、先程どこからか私に結界術を施したことだけは確かです。まぁ、結界というよりは自動迎撃魔術のようなものですが」

 対するクリスタも困惑しているが、彼女は落ち着き払っていた。

「それって私相手に発動したりしないわよね…? 彼女達お手製の魔術結界なんて絶対えげつなさそうだし…」

 自分の種族や立場も相まって顔を青くするリリス。

「多分大丈夫だとは思いますけど…。一応、何も手出ししない方がいいとは思いますよ?」

 クリスタはくすくすと笑いながらそう言ったが、実際それはその通りであり、もしリリスが何かしらのちょっかいを出せば結界が発動して彼女はお陀仏している。

「わかったわ。じゃあ、これ以上あなたに用は無いし、部屋に戻るわね。おやすみなさい」

 何かの拍子でおっ死ぬわけには行かないのでリリスはそそくさとその場を立ち去ろうとしたが、クリスタはソレを許さずに、ガシッとリリスの腕を掴んで話さなかった。

「いえ、一つあなたに用があるのを唐突に思い出しまして。もう少しお話しませんか?」


「話す前に離して貰えないかしら? 結構締まって痛いんだけど」

  リリスの細腕にそれなりにクリスタの爪が食い込んでおり、声も割と切実のようだ。だが、クリスタにもやすやすと離せない理由はある。

「霧化や時間停止で逃げられても困りますので。あなたの種族的に、魔力を吸った相手の能力なら使えるんでしょう?そして、あの二人の魔力を吸ってるなら相応に厄介ですから」


「まあね。あんなに美味しそうな魔力持ちで体つきもエロい相手なら食べちゃってもしょうがないわよ。しかも能力も極上の物だし、一石二鳥だったわね」

 そこで、クリスタはニヤリと顔を歪めて笑った。まるで、獲物を見つけた猛禽類のように。人に見せれない類の笑顔である。

「そうですか、あの二人の魔力が『美味しそう』と言いましたね? それには間違いないですか?」


「ええ。確かにそう言ったけど、何かおかしなことでも言ったかしら」


「いえ、下級淫魔如きが超高純度の魔力を持つデミゴッドの魔力を吸って無事なのはおかしいと思っただけです」

そう、生命体が持つ魔力には純度というものがあり、グレースやルナなどのデミゴッドは真性の神々にはやや劣るが、古龍、大精霊に高位の悪魔や天使以上に凄まじい純度を持つ。そして、純度の高い魔力はそれ相応に強い器か特殊な器でもない限り取り込んだ時点で体が自壊し死亡するのだ。

「そして、さっき触れた際に貴女の魔力器を精査して見ましたが魔力の質によって変動するなどと言った特殊性も見られない、デミゴッド二人分の魔力を吸って扱える器。低く見積もっても上位の悪魔ですよね?」

 そう、先程腕を強く握ったついでにバレない程度の微量の魔力をリリスの全身に巡らせて器の精査をしていたのだ。その結果が今クリスタが放った言葉だった。

「悪魔だって生命体、当然イレギュラーも起こり得るわ。それで偶々私がそういう体質だってだけの話…と言っても、もう誤魔化せなさそうね」

 大きくため息を付き、リリスは降参した。その表情は心底面倒くさそうな顔をしており、ベッドに腰掛ける座り方もまた気だるげに崩れている。

「で、なにを話せば満足してくれるかしら? ああ、流石にあんまりプライベートな事は無理とだけ言っておくわ」


「そうですか…。では、貴方が使える魔術や技能などを教えていただけないでしょうか? 相手の手の内を知っておけばいくらでも対策できまので」


「そんなに対策されるような大層な物は使えないのだけど・・・。まあいいわ、これ以上減るものでもないし」

 そんなに信用ないのかしらとぼやいたリリスだったが、いきなり馬車に乗り込んできて好き勝手してたものに信用などあるはずもなかった。

「私が使えるのは、幻術と吸精とそれに伴う能力コピー。後は魔術が多少扱えるくらいね。コピーと言っても今は少しの時間停止と霊体化くらいしか使えないのだけど。昔は他にも色々使えたんだけどね、わけあって根こそぎ剥奪されちゃったのよ」


「なるほど・・・。思ったより大したことは無いのですね、少し安心しました」


「そう言い切られるのはちょっと残念だけど、単純に事実だから何とも言えないわね。ああ、貴方の精気も少し吸わせてくれないかしら? ほら、話した対価ってことで」

 一瞬肩を落としたリリスだが、直後にはクリスタにしなだれかかり今にも押し倒そうという体制を取っていた。流石は淫魔なのだが…。

「丁重にお断りさせていただきます。本来なら警吏に突き出して牢に送っていた所を不問にして同行まで許しているのですから、それで十二分に対価は支払っているという事で良いでしょう?」

 当然拒否された。リリスも本気で言っていたわけではなさそうで、普通に座り直してそれもそうね、とうなずくリリス。

 だが、基本的に狡猾な悪魔種にしてはやけに物わかりが良いので不信感が少々増すクリスタだった。

「あー、やっぱり私のことは信用できないかしら? 嘘も偽りも無しで話してるんだけど」


「いえ、それが逆に不気味なんですよね。私の部下にも数名ほど悪魔はいますが、皆中々の曲者ばかりですので誠実に話される方が違和感と言いますか…」

 クリスタは苦笑いでそう言っているが、それもまた事実。聖堂で働いているインプ等は皆厄介者揃いなのだ。リリスはそれには納得いかないと態度で示して発言した。

「いや、ある程度の誠実さはないと社会は築けないでしょう? ソイツらが知性に欠けるアホなだけで、ある程度の地位がある悪魔は人とそう変わらないわよ」

 リリス曰く、悪魔の社会構造は暴力を至上としている点以外は人間と似通っているそうで、悪魔らしく策謀を巡らせて競争相手を蹴落とすことはあれど、正直さと誠実さは無いと社会が回らないとのことだ。

「なんと。それは初耳です。文献には悪魔は社会など持たない野蛮な種族だと書いてありましたし、部下からもそういった事ばかり聞いていたので」

 クリスタは少々驚いているが、やや失礼な事を言っていた。リリスはそれは特に気にとめてはいないが、少々不満げな様子。それなりに地上との交流はあるにもかかわらず情報が全く更新されていないことは気に食わない様だ。

「んー、その文献って多分数百年は前の奴じゃないの? そりゃそういう認識よね…。……ねぇ、そっちが問題ないなら新しい文献、用意してあげましょうか?」


「それは助かりますが、良いんですか? 今はこちらにおられますが、魔界にも居場所があられるのでしょう?」

 それはクリスタなりに気遣って言った言葉だったが、当のリリスは特に意に介していない様子。

「別に今更帰ったところで居場所なんて無いし、別に構わないわ。ただ、故郷の事をあまり誤解して欲しくないってだけ」

 少し切なげな笑顔を浮かべているリリス。既に居場所はないそうだが、それでも魔界という場所に愛情や愛着自体はあるようだ。人も魔族も故郷とは切っても切れぬものがあるのだろう。

「それは失礼いたしました。私も勉強しなおしたいので、文献はタイミングを見て寄贈なさってください」


「了解したわ、用意しておく。ちなみに補足していくけど、野蛮なのはどちらかと言えば天界の奴らの方・・・。でもそれはまた今度の機会ってことで良いかしら? 私もそろそろ眠いわ」

 何やら気になるワードも出てきたが、とりあえず文献もかくほできることになったのでひとまずよしとすることにした。夜ももう遅く、リリスもふあぁとあくびを上げて眠そうにしていた。話しているうちに眠気の方が勝ってきたようだ。

「かなり興味深い話ですが・・・。私もそろそろ眠らないと明日がキツそうですし、今晩はこれでお開きにするとしましょう。では、おやすみなさい。」


「ええ、お休みなさい。いい夢を」

 そう言って部屋を出て自室に戻ろうとしたリリスにクリスタは一応釘を刺しておくことにした。

「念のために言っておきますが、私にはグレースとリリスが施した謎の凄そうな結界が施されているので私が眠っているからと言って、手を出そうなんて思わないでくださいね?」


「わ、わかってるわよ。いくら私でもそこまで命知らずじゃないわ」

 リリスは一瞬動揺したが、流石に手は出さないと言った。恐らく二人の敷いた結界さえなければ普通に手を出すつもりだったのだろう。サキュバスらしいと言えばサキュバスらしいのだが、こんな事で粉微塵になって死ぬのはお断りなのだ。

「私も教皇様みたいにやっていれば、こうはならなかったのかしらねぇ。ま、今更そんな事を思ったってしょうがないのだけど」

 自室に戻ってベッドに寝転がり、リリスは一人呟いていた。彼女の脳内に浮かぶのは過去の記憶。自らが多くの仲間に囲まれ、圧倒的な力を振るっていた時の事。その頃の彼女は今より少しだけ驕りが強く多少高慢にふるまっていた。いたのだが、

「うん。やっぱり教皇様みたいにやっても駄目ね。結局は自分が変わらないと何も進むことは無いか」

 実際にそうホイホイ変わることができれば楽なのだが現実で自分が変わるのはすさまじく難しい事。リリスはそのことをよく知っている。今も軽く自分がリリスのように貞淑に振る舞っていたらどうなったかと考えてみたが、あくまで「リリス」がクリスタのように振舞っているだけに過ぎないので、結局はどこかで駄目になるとすぐに結論が出てしまった。

(いや、やめやめ。今日は寝ましょう。考えたってキリが無いわ)

 もう少し思案するのも良かったが、これ以上は自己嫌悪やら自己否定やらでキリが無くなると判断したリリスは大人しく思考を放棄して眠ることにした。夢魔らしく人々の夢中を渡り歩いて気晴らしすることも考えたが、今日はそれをしようとは思わなかった。


「おい、吞み過ぎじゃぞ愚か者。そのへんにしておくのじゃ。明日に障るぞ」

  所は再びルナとグレースが酒盛りをしていた秘湯に移る。大分時間も過ぎたので、そこらでやめにしてそろそろ上がれと促しているルナだが、グレースは中々動こうとはしていない。酒が回って顔は赤らんでいるが、まだまだ余裕は保っているみたいだ。

「大丈夫大丈夫。クリスタには何も起きないし、いざとなれば暴力で解決できるさ。まあ、別の問題が目下進行中だけどね」

 言っていること自体は難しい事をぶん投げて暴力で解決しようという事だが、後半は看過できることではなかった。リリスもやや詰め寄ってグレースを問いただす。

「別の問題じゃと? 明日は公的な会合じゃと言うのに浴びるように呑んでおる以上の問題があるのか?」


「うん。さっき未来がちょっと見えたんだけど、私達が宮廷に入って会合が始まった瞬間にセレスティアの首都が明日行く国に奇襲攻撃受けて戦火に包まれてた」

 グレースの未来視は今はふとした時に発動する程度のものだが、見える未来はかなり重要な場面が見える・・・らしい。本人曰く慣れたらある程度任意で使えるようになるかもとのことだ。

「まことか!? うむ、そうなれば敵方には伝令のための通信手段がある事は間違いない。恐らくは既に行軍は済んどるか近郊まで迫ておるじゃろうが、どうする?」

 問いかけている形だが、ルナの表情は期待に満ちている。彼女的には早いところ見つけて手早く始末する算段なのだろう。だが、グレースは一旦それを否定した。

「いいや、ここで始末すること自体は簡単だけど多分それはしない方が良い。私の勘でしか無いけど、それをやったところでどこかのタイミングで首都は燃える。それなら前倒しの方がいくらかマシさ」

 それを言うグレース本人は落ち着いた顔をしているが、言っていることは何もしないで町が焼かれるのを見過ごそうということ。ルナは不服を示しているが、コレにはちゃんとわけがある。

「待つのじゃグレース。ならばお主は首都の人間を見殺しにするのか? デミゴッドではあるが今の儂等は国民でもあるのじゃ、防げるのならば目先の粉は払うべきじゃろう? 違うか?」

 ルナはずいっと顔を近づけて真剣な表情で訴える。

「いや、そうだけどそういうわけにはいかないんだって。まずは話を聞いてよ」

 対するグレースも表情を少し引き締めてルナの説得を試みた。

「……こうしておるうちにも行軍自体は進んでおる。手短に話すのじゃ」

 ルナは渋々だが、ちゃんと話自体は聞いてくれるようだ。グレースは聞いてもらえないのなら空間を歪曲させてその場に拘束などするつもりだったので、手荒な真似をしないでいいことに安堵し、話し始めた。

「えっとね。今ここで燃えるのを止めても、時の修正力が働いてどこかのタイミングで絶対にしっぺ返しが来るんだ。一般人の生死みたいな些細なことならともかく、こういう大きな事故は無かったことにはできないんだ」

 そう、人や生き物の生死とは関係なくどこかで『王都が燃える』などという事象は一度止めても要因を新たにして必ず起こるのだ。つまり、『人の生き死に関わらず教科書に載るような事件は形を変えて必ず起こる。要因を一つ潰したところでそれは変えれない』という事だとグレースは続けて説明をした。

 礼を一つあげるとするなら、『①ある時に王が暗殺された光景を観測する。②その下手人や目論んだ組織を潰して要因を消す。③その日は暗殺は防げたとしても、翌日毒殺された状態で発見される』といったようになるのだ。この場合は『王の死』が事象として確定してしまっているため、その結果を覆すことは不可能だ。しかし、今回の場合は『首都が燃える事』と『首都が侵攻される事』のみ観測しているため、それ以外は不確定。つまりいくらでも変えようがあるという事とも付け加え、グレースは余っていた酒をグイっと流し込む。

「つまり、民はどうとでもできるという事か。クリスタにも後で話すが、ひとまず儂らが先に向こうて全ての民を移送するか? 魔力は儂が貸し、お主が空間転移で何とかすれば良かろう」

 指をピンと立てていかにも名案と言ったように言っているルナだが、グレースは何度目かの苦い顔。心なしかげんなりしているように見える。

「そんなに大勢の転移は流石に無理だよ!? いや、流石に時間がかかりすぎるし時止めと併用ってのも中々脳の負担がすごいんだ」

 

「そうか・・・。まあよう考えればどこに移すかすらも儂らは知らぬわけじゃ。他に良い方法は無いのかのう?」 


「わからない…。私達じゃ扇動もできないし…」

 うんうんと頭を捻っていた二人だが、これ以上はクリスタも交えて話した方が良いと判断。散らばった酒瓶などを片付け、自室に転移。その晩は大人しく睡眠を取ることにした。



  

 



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