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第七話



 物語はここから。

 だが、もう一つだけ話をさせてほしい。

 なくてはならなかった転機で、これから先は乗り越えたいと思えるかつての出来事を。


 前世の『北川陽介』という名前。


 困難がふりかかった時に、道を見いだす力をもつ。両親はそれを太陽に例えて、陽介と名付けたらしい。順風満帆ではなかったが。


 陽介が初めて明確に他者を『騙した』のは小学校にあがる前のことだった。


 陽介はある習い事をしていた。具体例な内容ははっきりと覚えていないようだが、くもんと似ていて、頭を鍛えるトレーニングをする場所だった。

 そこの先生は生徒のやる気を上げるために、正解した問題に応じてスタンプをくれる仕組みを作っていた。


 陽介はその仕組みを利用して、親に嘘をつくことを考えた。


 当時、陽介はあるカードゲームにはまっており、そのため親に頼んだのだ。「もしスタンプを○○個とれたら、そのたびにカードを買ってほしい」と。

 そして、とったスタンプの嘘をついて、たくさんのカードを手に入れてしまった。


 だが、所詮は小学生にすらなっていない子供の行い。瞬く間に親にばれる。失望と怒りのまじった父親の表情と、そして、平手打ちの痛みは永遠に忘れないだろう。


 父親を悪だと言いたいわけではない。

 あれがなければ陽介は人を平気で騙す人間になっていたかもしれない。そう言った意味ではむしろ感謝している。

 ただ、あえてどうしようもない問題をあげるとするなら、生まれた時から陽介は心が弱かった。叱られたことでできた傷がしっかりと塞がることはなかった。

 それは、たとえ平手打ちを受けた後に、母親に抱きしめられたとしても変わらなかっただろう。


 人間は叱られて成長する生き物だ。

 引きずり過ぎるのはよくない。


 もはや説明はいらないが、陽介はそこからも叱られたり失敗するたびに、治らない傷ができていった。

 ある種のトラウマを治すために陽介が努力をしなかったかというと、そんなことは決してない。本人の名誉のために具体的な内容は黙秘するが、それを行った時点で『変わりたい』と思っていたのは確かなのだ。

 そして、北沢陽介は岩倉卓也になった。

 最初は絶望していたが、生まれ変わる前には試せなかった、傷を治す方法がある。


 実績を出すということ。


 陽介の時に引きこもりだった身だ。ノーベル平和賞並みに人々に手を差し伸べろなんて言わない。今はまだ小学生なのだから、勉強や運動を頑張るだけでそれなりに自信をもてるはず。

 年月が進むにつれてハードルをあげていく。そうすれば卓也の成果は積み重なっていくだろう。


 今の卓也にはまだ〝ありのままの自分〟を受け入れる力はない。

 どうあがいても否定してしまうから。


 だけど、少しでも何かを変えていけば、いつしか彼の自虐すら無くせる日が来るかもしれない。


 だから、改めて言う。

 ここからだ。



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