第四十五話 交錯
三河国・岡崎
評定を終えた家康だったが、依然として表情は険しいままだった。
「四国はどうなっておる。」
「生駒が長宗我部に下り、豊臣の手中に収められたものかと。」
「毛利はどうじゃ。」
「吉川を打ち破った勢いで池田領に侵攻しており、依然として厳しい状況が続いております。」
「まあよい。肝要なのは目前の戦よ。」
「父上!」
現れたのは、現征夷大将軍・徳川秀忠であった。
「中山道を急いで参りました。憎き真田に鉄槌を下して見せましょう。」
「お主は将軍であろう。真田へ鉄槌を下すなどどいうことは考えず、もっとどっしり構えておれ。」
「はっ。父上。」
出羽国・米沢城
「一大事にございます!国境付近に伊達の旗印が…」
「なんじゃと。」
「殿、戦の支度を急ぎましょう。直にここへも攻め寄せてくるやもしれませぬ。」
両軍の決戦が近いと見込んだ伊達政宗は上杉領に侵攻を開始。奥羽でも新たな戦端が開かれようとしていた。
美濃国・大垣城
関ヶ原から程近い地・大垣は美濃の要所であり、その地を治めるのは徳川恩顧・石川忠総であった。
「殿、豊臣勢は着々とこの大垣に進んでおります。どうなされますか。」
「無論。大御所様なくして今の儂はない。皆の者、死に者狂いで戦え!時を稼ぐが我らの役目よ!」
美濃国・大垣
「左衛門佐、この城どう落とす?」
「そうですな。城主・石川主殿頭は我らに対して猛烈に抗ってくるでしょう。ですが、家康が岡崎まで来ている今、ここにあまり時間をかけたくありませぬ。」
「真田殿、しかし野戦に持ち込むのでござろう?そもそも何故大垣を攻め落とす必要があるのじゃ。」
「宇喜多殿、流石にございます。ここ大垣は徳川方が対豊臣の拠点として使っている城、故に物資の集結地点でもあります。」
「物流を断つのか。」
「左様。ただ決戦がそこまで迫っている以上、どれ程の効果があるか分かりませぬが、やってみる価値はあるかと。」
「そうなると、やはり時間はかけられぬな。」
「やはり多少の犠牲がついてでも、力攻めを行うべきかと。」
「そのようだな。明日、総攻撃を始めよう。」
明朝、豊臣方は総攻撃を仕掛けた。
美濃国・大垣城
「者ども、矢を射掛けよ!」
狭い路地に誘い込まれた豊臣軍は一斉に矢の餌食となった。
「一歩も退くな!豊臣を城から追い出せ!」
激しい戦闘昼夜問わず続き、徳川方は奮戦。しかし、その奮戦も数によって徐々に押されはじめていた。
「殿、もうすぐ本丸へやってくるかと!」
「負けるな!最後の一兵になるまで戦え!」
城主・石川忠総は壮絶な戦いぶりで、最期まで刀を離すことはなかった。
尾張国・清州城
「そうか、大垣が落ちたか。」
「石川主殿頭の想像以上の奮戦で、豊臣方は焦っております。」
「今が好機か。」
「はっ。」
「よし、儂は最後の仕上げをする。明日、美濃へ出るぞ。」
翌日、徳川勢11万は美濃へ出撃、加納城に立ち寄った後、大垣へ向かった。一方の豊臣勢9万は
美濃入りの報を聞き、西へ移動。両軍は再び関ヶ原に誘われたのであった。
美濃国・関ヶ原 豊臣秀頼本陣
東西両軍は16年前と同じく、向かい合うように対陣した。家康は前回同様、桃配山に布陣し、笹尾山の豊臣秀頼、真田幸村、天満山の宇喜多秀家、明石全登らが並ぶように布陣。前回は徳川方であった福島正則は南宮山に、後藤又兵衛は松尾山に布陣した。
秀頼は濃霧に包まれる戦場を見つめて呟いた。
「ついに、来たのだな。この時が。父上、見ていて下され。」
美濃国・関ヶ原 宇喜多秀家の陣
「再びここへ誘われるとは思わなんだ。」
「16年、長かったですなあ。」
「掃部、儂は豊臣を守るため、太閤殿下のご遺命を果たし、憎き家康を討ち果たすために戻って参った。」
「某も同心でございます。」
「掃部よ。これは宇喜多の為の戦ではない。豊臣の為、殿の為の戦じゃ。心得よ。」
「御意。」
美濃国・関ヶ原 後藤又兵衛の陣
それぞれが色々な思いを抱えながら戦に臨む中、この男の心情は穏やかではなかった。
「父上、ここに布陣されたということは、徳川方にお決めになられたのですか。」
又兵衛は爪を噛んだ。
2日前・豊臣方軍議
「…というような配置でよろしいか。」
「某は、松尾山に配置していただきたい。」
松尾山というのは何を隠そう、16年前の関ヶ原において小早川秀秋が布陣し、西軍を裏切って東軍勝利を決定付けた因縁のある場所である。
「皆は小早川のことを気にしすぎておる。そもそも小早川が松尾山に布陣したのも、見晴らしがよく、戦況が見渡せるからじゃ。そこに布陣せずして、我が方の勝利はない。」
又兵衛はそのまま押しきって、松尾山への布陣を決めたのであった。
美濃国・関ヶ原 徳川家康本陣
「後藤又兵衛は小早川に倣うか。面白い。」
「もう一度、使いを派遣致しますか?」
「いや、よい。必ずあやつはこちらへ寝返る。まあ、見ておれ。」
美濃国・関ヶ原 真田幸村の陣
「内記、ここでけりをつけるぞ。」
「御父上の悲願、でございますからな。」
「家康が首、必ずや奪ってくれる!」
最後の決戦が、ついに火蓋を切った。




