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手芸ときどきお菓子作り部の青春  作者: 天崎塁
第一章 二人の悩み
1/30

01


「東二中出身の細見英二です。太いけど、細見です。よろしくお願いします!」


 英二は勢い良くお辞儀をした。

 思い返してみると、小学校高学年の頃から自己紹介では欠かさずこのフレーズを口にしてきた。正確にいえば、英二は決して肥満というわけではない。見る者を怯ませてしまうほどの大きく強靱な肉体は、幼い頃から柔道で鍛え抜き手に入れた努力の賜なのだ。……まあ、極度の面倒くさがりである彼はそんなことをいちいち説明しないのだが。


 そんな面倒くさがりの英二は、名前を言っただけで満足し「以上です」と告げると黒板前から自席へと、やはり勢いよく歩み出す。


「あ、ちょ、ちょっと待って! 細見!」


 そう声を荒げたのは、眼鏡のよく似合う一年A組の担任・佐々木である。年は三十代半ばといった感じだろうか、やや下がり気味の目尻から柔和で人の良い雰囲気を醸し出している。


「……なんすか」

「さすがに短すぎ。もうちょっと何か言おうよ」

「……」


 しぶしぶ戻ると、言うことに困り再び「太いけど細見です」と繰り返す。


「あ、部活は柔道部に入る予定っす」


 思い出したように宣言すると、待ってました、と言わんばかりに最前列で腰を掛けている男子生徒が大きく頷いた。誰かと思って顔を見やると、同じ中学出身のチャライである。


「英ちゃん、マジで強くて中学の時に全国大会で優勝してるんだぜ」


 全国大会で優勝、というパワーワードに教室内は大きくざわついた。


「そんなに強いのにどうして強豪校じゃなくて七ヶ峰なんかに来ちゃったの!」


 大層驚いた表情でそう叫んだのは、教師の佐々木であるのだから面白かった。


「勉強も頑張りたかったのでここにしたっす」と言うと、感嘆の溜息が至るところから聞こえてくる。本当は他にも理由があったのだが、それを説明するのはやはり面倒くさいので割愛しておく。


「じゃあ、やっぱり趣味も柔道なのー?」


 今度はチャライの左斜め後ろの席に座っている女子が手を挙げて訊ねてくる。彼女は既に自己紹介を終えているはずだが、どうも名前が思い出せない。まだ全員の自己紹介も終えていないなか、こうも躊躇いなく話しをすることができる彼女はもしかするとチャライ並にフットワークが軽いのかもしれない。


「いや、趣味はちゃんと別にある」

「なになにー?」

「お菓子作り」

「え」

「あと手芸」


 予想もしていなかった言葉に皆は静まりかえってしまった。

 だがそれは一瞬のことで、すぐに教室には笑いの渦が巻き起こる。


「ちょ……ちょっと、そんな顔して嘘つかないでよ!」


 質問してきた女子はよほど面白かったのか、涙を拭いながら叫んだ。きっと「そんな」と「顔」の言葉の間には「真面目な」だとか「強面な」だとかいう単語が相応しいのだろうが、それでも彼は嘘をついていない。そもそも細見英二という人間は基本的に嘘をつけないのである。


 なかなか笑いが収まらないないクラスメイトたちとは相反して、英二は真顔を貫いていた。思うところは多々あるわけだが、こういった光景は今まで何度も目の当たりにしてきた。なので今更ショックを受けたり、気にしたりすることもない。

 それに……


「あの子、面白いね」

「なんか良い奴そうだし」

「俺、楽しそうなクラスに入れたかも」


 飛び交う言葉を聞く限り皆、英二に対して悪い印象は一切受けていないようだ。ここでお得意の「まぁいいか」である。彼は今度こそ自席へと勢いよく戻っていくのだった。




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