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群青の軌跡  作者: 花 影
第1章 ルークの物語
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第5話

ルークの独白です

 以前に言ったことがあるかもしれないけど、アジュガは建国当初、砦として使われていた。やがて霧を防ぐ城壁の完成により、もっと使い勝手のいい砦へとその機能は移され、アジュガは町として残されることとなった。その時、町長に任命されたのが移転を機に竜騎士を引退した当時の団長だった。以来、直轄地にも関わらず、彼の長年の功績により特例で彼の血族がアジュガの町長を勤めることになり、現在15代目だ。他にも引退した竜騎士が住み着いたこともあり、この町から多くの竜騎士を輩出している。

 俺が子供の時、隣に竜騎士を引退した爺さんが一人で住んでいた。クラインさんの大叔父にあたり、第2騎士団で小隊長を勤めたギュンターさんは飛竜と共にこの町で余生を過ごしていた。

「この年寄りの話で良かったらいつでも聞きに来なさい」

 気さくなギュンターさんはそう言って子供の俺達に声をかけてくれた。引退したとはいえ竜騎士はあこがれの存在だ。この町の子供達はこぞって彼のところで竜騎士時代の彼の武勇伝を聞かせてもらい、更に彼が見どころがあると判断した何人かは実際に飛竜の世話をさせてもらったりしていた。

 俺も飛竜の世話をさせてもらった1人だった。家の仕事も嫌いじゃなかったけど、兄さんがそつなくこなしていたし、父さんも母さんも好きにさせてくれたから1日の大半を爺さんのところで過ごしていたかもしれない。今の俺があるのも、この経験があったからだと断言できる。

 そんな俺達のまとめ役をしていたのがクラインさんの息子のダミアンさんだった。彼は俺の2つ上で、体格も良くて頭もいい。この町では誰もが次代の町長と認める存在だった。



 俺が14の時、ギュンターさんの推薦により、竜騎士見習い候補として第2騎士団から迎えが来た。しかし、彼が推薦したのは俺だけだった。

「何故、ダミアンではなくビレアの子せがれなんだ!」

 自分も推薦されていると思っていたダミアンさんも、竜騎士の素質があると優秀な息子を自慢していたクラインさんもプライドを傷つけられて烈火のごとく怒り、ギュンターさんに詰め寄った。ギュンターさんの元に出入りする一人として、クラインさんには目をかけてもらっていたと思っていたが、あくまで息子の引き立て役だと思っていたらしい。この時、彼の本心を知ってショックを受けたのは確かだ。

 結局、シュタールへはダミアンさんも行くことになってその場は納まり、見習い候補としての生活が始まった。

 見習い候補は俺達の他に20人ほどいた。ほとんどが貴族の子弟だったが、中には竜騎士としての適性をもたず、座学も含めて基礎的な訓練を受けた1年ほどの間に脱落していた。晴れて見習いとなれたのは10名ほど。飛竜に選ばれ、訓練を重ねれば3年ほどで竜騎士になれるはずだった。

 第2騎士団は元々血統を重んじる風潮がある。必然的に相棒の決まっていない飛竜と会う機会を与えられるのも彼らが優先され、俺にはまだ年が若いからなどと理由をつけられてその機会を与えられなかった。

 その年、相棒を得られた見習いは3名だけだった。あまりにも少ないということで、後から主のいない飛竜が連れてこられた。仮の相棒としてホルスト団長はダミアンさんを指名したが、飛竜はそれを拒み、俺を選んだ。その飛竜がエアリアルだ。

 普通であれば飛竜の意志が尊重されるが、ホルスト団長はそれを無視してダミアンさんを相棒として登録した。さすがにこれは他の竜騎士達も異を唱えたが黙殺されてしまった。ホルスト団長はグスタフと深いつながりがあり、結局誰も逆らえなかったのだ。

 本来のパートナーである俺を引きはがしておけば、エアリアルは大人しくダミアンに従うと思っていたホルスト団長により、俺は連絡網の中継地として使われる辺境の砦に飛ばされた。そこは団長と遠縁の貴族、ゼンケル家が治める領地内にあり、相棒の見つからない飛竜をあてがわられて名ばかりの竜騎士となったその家の当主ゴットフリートが責任者となっていた。

「お前がルーク・ビレアか。敬称を持たぬ身でありながら竜騎士を目指すとは身の程知らずめ。ここでその根性を叩きなおしてくれる」

 ゴットフリートにそう宣言され、俺は砦内の仕事だけでなく、併設されている城館で体のいい使用人として騎士の訓練をする暇もないほど働かされた。団長の指示があったかは定かではないが、それでも俺が竜騎士への道を諦めれば、エアリアルの相棒は団長が指名したダミアンさんから変更する必要はなくなる。彼の面目を保たれるのは確かだろう。




雑用に追われてあっという間に2年の月日が経っていた。こき使われる毎日に疲弊しきっていた俺の元に正式に竜騎士となったダミアンさんがエアリアルに乗ってやってきた。故郷のアジュガでエアリアルを披露して気分がよくなった彼は、周囲が止めるのも聞かずにはるばるゼンケル領まで足を延ばしてきたのだ。一度ならず俺に己の矜持を傷つけられたと思っていた彼は、エアリアルとともにいる所を俺に見せつけ、留飲を下げようと思ったらしい。しかし、それは逆効果となった。本来のパートナーである俺の居場所を知った飛竜は、毎日のように俺の元へやってくるようになったのだ。

 この事態にさすがのホルスト団長も考えを改めなければならなくなり、ダミアンさんを俺がいる砦へ移動させた。だが、それは俺の仕事が増えただけだった。

 アジュガの町長の息子だと分かると、ゴットフリートはダミアンさんを客人として扱った。俺を恨んでいるダミアンさんは彼にある事ない事吹込んでくれたおかげでますます俺への風当たりが強くなったのだ。そのうえ、仕事にエアリアルの世話が加わったために、俺は寝る間もなく働き詰めとなっていた。もっとも、相棒の世話は長年の夢だ。少しも苦にはならなかったが、おかげでその年の討伐期に入る頃にはエアリアルはダミアンさんの言うことを聞かなくなっていた。

 ダミアンさんを完全に無視しだしたエアリアルの態度は、彼を一層いらだたせた。そのいら立ちは俺に向けられ、口汚く罵られるだけでなく時には暴力も振るわれた。訴え出ようにもホルスト団長は信じてはくれない。それならば砦から逃げ出すことも考えたが、エアリアルを諦めたくなかった俺は、ただひたすら理不尽な仕打ちに耐えた。

 荒れるダミアンさんをゴットフリートは、気晴らしと称してよく狩猟へ連れ出した。当然、緊急の伝文が来ればそれを次の中継地まで運ばなければならない。必然的にその仕事も俺に押し付けられる形となっていた。

 彼等の留守中、どうか伝文が来ないでくれという俺の願いは天には届かなかった。伝文を預かざるを得なかった俺は、エアリアルと共に飛び立った。碌に騎士の訓練を受けていない俺が最初から任務に成功するはずもなく、迷いに迷って大幅に遅れて次の砦にたどり着いた。

 当然、このことはホルスト団長の元へ報告された。後日、飛竜がエアリアルだったことからダミアンさんが呼び出しを受けた。彼は叱責を免れるため、自分が運ぶ予定の伝文を功を焦った俺が無理やり奪って行ったと弁明したのだ。

「この役立たず!」

 ダミアンさんの弁明をホルスト団長は信じ、彼は処罰されることなく解放された。しかし、シュタールから戻ってきたダミアンさんは呼び出しを受けた腹立たしさを俺に向けたのだ。ダミアンさんだけでなく途中からゴットフリートも加わり、俺は2人に罵られながら暴力を振るわれた。

 これで使いに行かされることはもうないだろうと思っていたが、それは甘かった。その翌日、あざだらけの体に鞭打って飛竜達の世話をしていると、ゴットフリートから地図を投げ渡された。近隣の砦が記入されており、一言「覚えろ」と言い残して竜舎を去っていった。結局、その後もエアリアルと使いに出る羽目になり、俺達は自己流で飛行経路を開拓していった。

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