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群青の軌跡  作者: 花 影
第3章 2人の物語
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閑話 ラウル

「本当に申し訳ない」

 第6騎士団団長のオイゲン卿が深々と頭を下げる。捕えた密輸団の荷物からビレア工房の金具が出てきた件について、あくまで事実確認をするために副団長のギルベルト卿らを向かわせたらしい。しかし、一方的に犯人扱いされ、不本意ながらその隊長職を返上するまでに至ったそのいきさつを聞いて慌てて謝罪してくれたのだ。

「謝罪は我々にではなく隊長……ルーク卿にお願いします」

「もちろん、させてもらう」

 調査の応援という形で来たわけなのだが、俺達は隊長の濡れ衣を晴らすために来ている。オイゲン卿もそれを承知した上で受け入れてくれた。




「それにしても、ひどいな」

 第6騎士団へ来てから1カ月経った。討伐の準備も進めながら独自に調査を進めていたのだが、当初は明らかにしていなかった新事実や矛盾点が次々と明らかになっていた。

 先ずは密輸団の一員として捕らえられた男達だが、ワールウェイド領の西にある村の住民で、神殿へ避難する際に荷物を運んでほしいと頼まれたと言っていた。そしてそれを依頼したのがルーク卿だと決めつけられたわけだが、フードを被った若そうな男は足を痛めていたのか杖をついて歩いていたらしい。

 そして依頼された荷物の中身だが、当初は流紋ヤマネコの物だとされていた毛皮は、ウサギの毛皮にそれらしい模様を描いた偽物だと判明した。それらの情報は第6騎士団も把握していたはずなのだが、我々にはあえて伝えていなかったことになる。

 更に付け加えるなら、男達が荷物を預かったとされる日にちだが、俺達雷光隊はロベリアにいた。テンペストが初めて相棒であるティムを乗せて飛ぶ飛行訓練に付き合ったのだ。これはロベリア総督府にいる文官と武官全員が証言してくれるはずだ。

 この程度の事を調べ上げるのに1ヶ月もかかったのは、ギルベルト卿と彼を支持する竜騎士達に調査の邪魔をされたからだ。どうも夏に行われた陛下の視察の折に、第6騎士団側の不備で野営地の設営が遅れていたのを俺達があれこれ手を出したのが気に入らなかったらしい。

 自分達の矜持を傷つけられたと言いたいらしいのだが、そんなの逆恨みだろう。護衛を任されている以上、陛下の御身を第一に考えるのは俺達竜騎士の務めでもあるはずだ。あまりにも目に余ると、ついにはオイゲン卿に討伐に専念するようにと言われ、ギルベルト卿は北部の砦へ移動となった。

「ラウル卿、ヒース卿からです」

 判明した新事実を纏めてフォルビアへ送る準備をしていると、コンラートが使いでやって来た。情報の中継役を担っているシュテファン隊は毎日西へ東へと奔走している。俺は疲れている様子の彼に少し休むように言って受け取った書簡筒を開く。中に入っていた手紙にはついに金具を横流しした人物が判明したと記されていた。

「やっとか……」

 シュタールに派遣されたキリアン卿も、ウルリヒ卿に邪魔されて随分と苦労されていたらしい。それでも地道に調査してゼンケルの役人が絡んでいたことを突き止めたらしい。俺は雄叫びを上げたいのを我慢し、雷光隊に召集をかける。するとすぐに全員が集まった。

「金具を横流しした犯人が分かったらしい」

 俺がそう報告すると、集まった全員が雄たけびを上げた。

「そいつは誰ですか?」

 アルノーが真っ先に尋ねてくるので、ヒース卿からの手紙を彼に渡す。元々アジュガの職人達の字は癖がすごいと言うかひどい。納品の書類も彼らが作成しなければならないらしいが、見方によっては数字も異なって見える。それを利用して納品される金具の数をごまかしていたらしい。

 ルーク卿は金具一つ売り飛ばしたぐらいでは大した金額にはならないだろうと考えていた様子だったが、他国ではこの金具を使った装具を持っている事が自慢の一つになっている。ゼンケルの工房は予約待ちの状態だし、見栄を張りたがる連中はいくら出しても手に入れたいと思っているはずだ。まだ取り調べの最中で背後関係は明らかになっていないが、密輸組織が関わっている可能性は大いにあった。

「ラウル卿、どうされますか?」

 俺達が第6騎士団に滞在していたのはルーク卿の濡れ衣を晴らすためだ。それが明らかになったので戻ってもいいのだが、まだ密輸組織の全体像と騎士団内部にいるらしい協力者が判明していない。ヒース卿からもすぐに戻れとは言われていないし、中途半端なまま戻ってしまってはルーク卿に合わせる顔は無い。もう少し調査に協力してもいいだろう。

「まだ帰還は無理だろう。オイゲン卿と話し合ってくる」

 俺はそう言って集めた隊員を解散させ、オイゲン卿の執務室へ足を向けた。




「大変だ! ルーク卿がさらわれた!」

 その知らせが届いたのは翌日の未明だった。オイゲン卿とも話し合い、もう少し第6騎士団に留まる旨を記した書簡を持たせて送り出したコンラートがとんぼ返りで知らせに来たのだ。

「どうして、あの人が!?」

「討伐で傭兵団が留守中に襲撃があったらしいのですが、まだ詳細は分かっていません」

 コンラートの答えに考えるよりも先に体が動いていた。

「一旦戻る。全員に声をかけてくれ」

「分かりました」

 俺は身支度を整えると、失礼を承知でオイゲン卿を訪ねて帰還する旨だけを伝えた。そして、既に着場で準備を整えていた仲間達と共にフォルビアへ向かった。




 俺達が未だ騒然とする古の砦に着いた時には夜が明けていた。既にヒース卿とロベリアからリーガス卿も来ており、一通り関係者から話を聞き終えたところだった。

「失礼します」

「来たか……まあ、座れ」

 砦の会議室では責任者ジグムント卿も含めて話し合いの真最中だった。俺が無遠慮に入っていくと、ヒース卿は大して驚いた様子もなく、空いている席に座るよう勧めてくれた。

「何があったのですか?」

 前置きも一切なしで尋ねてみると、事件のあらましをジグムント卿が教えてくれた。

「我々が討伐に出ている間に今度は盗賊の襲撃があったと訴えがあった。逃げてきた村人を受け入れ、残っていた竜騎士が襲撃を受けたと言う村へ向かった後に砦が襲撃を受けた。受け入れた村人が内側から門を開けたらしい」

 不意を突かれ、あっという間に砦は制圧されてしまい、賊は作業室で香油を作っていたゲオルグの元にたどり着いた。押し入った賊の目的は「高貴な人物」だったらしいのだが、ゲオルグがそうとは思わなかったらしい。当の彼にその高貴な人物の居場所を聞き出そうとしたが、彼が答えなかったので幾度も殴られた。根負けして自分がそうだと答えると、今度は「嘘をつくな」と言われて更に執拗に暴力を振るわれたらしい。

 そこへ、討伐を終えて一足先に帰還したルーク卿が駆け付けた。その姿を見た賊は彼が「高貴な人物」だと思ったのか、ゲオルグを人質に脅して同行する様に強要し、ルーク卿は長剣を置いて大人しく従ったらしい。

「ゲオルグは命に係わるほどではないが重症だ。目の前でルークが連れ去られたのも重なってひどく取り乱し、現在は薬を飲ませて眠らせている」

 無理もないだろう。この砦に移ってようやく彼は人並みの暮らしと感情を手に入れたのだ。そんな彼に最も親しく接していたのがルーク卿だ。目の前で連れ去られたのだから動揺するのも当然だろう。

「隊長……ルーク卿の行方は?」

「我々はまだだが、エアリアルは把握している。夜中に一度戻って来て一休みしてから明け方にまた出て行った。シュテファン隊とティムが同行している」

 エアリアルの行動からもルーク卿が危険にさらされている様子はない。あの人の事だから後からついてきている相棒に気付き、飛竜を休ませるために一旦戻るよう命じた可能性はある。ティムが同行しているのは驚いたが、実の兄の様に慕うルーク卿の一大事に大人しく待っていることなどできないのだろう。

「今、分かっているのはそのくらいだ。何か進展があれば知らせるから、少し休んでおけ」

 長距離と言うほどではないが、それでも全力で飛ばしてきたので多少の疲れはある。こういった非常時には休める時には休んでおくのが鉄則なので、俺は素直に従い、休息を取るべく会議室を後にした。




 昼前に知らせが届き、仮眠を済ませた俺達はルーク卿を連れ去った賊が一夜を明かしたらしい村へ向かった。フォルビアの西端にあるこの村の住民は避難中だったらしく、人の気配はない。シュテファン達が一通り調べてみたところ、ルーク卿が一夜を明かしたと思われる家の寝台のマットから書付が出てきたらしい。


襲撃者は別。このまま様子を見る。ルーク。


 装具からはぎ取ったらしい皮片に文字が刻まれていた。こんな器用な真似ができるのもあの人だからだ。差し迫った危険は無さそうなことに一先ず安堵した。

「うまくいけば黒幕に会えると思っているのかもしれませんね」

「そうだな」

 ルーク卿と行動を共にするようになって3年。俺もシュテファンもあの人の考えることが分かるようになっていた。多分、逃げ出そうと思えば昨夜のうちに逃げ出すことが出来たはずだが、それでは解決したことにならないと考えたのだろう。

 ルーク卿への対応は俺達雷光隊に一任されていた。既に討伐期に入っており、こちらばかりにかまっていては本業が疎かになる。ヒース卿は部下である俺達が適任……というか、勝手に動かれるよりはいいだろうと半ば諦めの境地で任せてくれていた。

 既にエアリアルはルーク卿の後を追って飛び立っていた。その方角から一行は北へ向かったと思われる。その場で大雑把に役割を確認するだけで打ち合わせを済ませると、それぞれの役割を果たすべく飛び立った。


なかなか進まなくて申し訳ないけど、次も閑話の予定。

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