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群青の軌跡  作者: 花 影
第2章 オリガの物語
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第20話

 民衆へのお披露目も済み、一時ほど休憩を挟んでから祝賀の宴は始まった。本来であれば数日にわたって繰り広げられるのが習わしらしいのだけど、内乱からの復興の途上という状況を考慮して今宵一夜限りとなっていた。

 各国の使節からの祝辞も済み、いよいよ舞踏会が始まる。本番が迫ってきて私とルークの緊張も高まってくる。

 そんな中、最初に広間の中央に進み出て踊ったのは陛下と皇妃様だった。互いに見つめ合ったまま踊られるお姿はため息が出るほど優雅で、誰もが見惚れていた。続けて他国からの賓客方、そして皇家と5大公家に連なる方々が踊られる。どなたも見事なステップを披露されていて、予定では私達はこの次に踊ることになっていて気が重い。

「雷光の騎士ルーク卿、オリガ・バウワー嬢」

 ついに私達の名前が呼ばれる。「行こう」とルークにうながされて私達は進み出る。他にもヒース卿とユリアーナ様、リーガス卿とジーン卿、その他内乱終結に活躍した竜騎士方も一緒に踊られるのでまだ心強かった。

「緊張してる?」

 音楽が始まる前にそう問いかけられて私が頷くと、ルークは少しだけ顔をほころばせて「大丈夫だから楽しもう」と言ってくれて少しだけ緊張がとけた気がする。やがて音楽が流れ始め、緊張の瞬間が訪れた。

 結果から言うと、なんとか無難に乗り切れた。何度かステップを間違えてルークの足を踏んでしまったけど、彼は平気な顔して大丈夫と勇気づけてくれた。彼がしっかりと支えてくれたおかげで転ばずに済んだのかもしれない。後からユリウス卿に声を掛けられ、「前よりは断然良かったよ」と言って頂けたので、及第点だったと思いたい。

「姉さん、ルーク兄さんの足5回踏んだ」

 ティムはその目の良さを生かして私がルークの足を踏んだ回数をしっかり数えていた。なんか、能力の使い方間違っている気がする。私がキッと睨む前にルークがティムを小突いていた。

 今宵一番の難題を乗り越え、肩の力を抜くことができた私達は給仕から飲み物を受け取って乾いた喉を潤した。そうしていると、次々とルークと顔なじみらしい竜騎士に声をかけられる。今宵の宴には内乱で功績のあった人が多数招かれていて、彼等は共に戦った同志だとルークは紹介してくれた。

 ルークが私とティムを紹介すると、彼等は奥方様と姫様を守ったことを大げさなくらいに賛辞して下さって何だか気恥ずかしい。踊った後は特にすることもないだろうとルークと話していたのだけれど、私達の周りには終始人が集まってきて、今だから笑って話せる内乱中の苦労話に花が咲いていた。

「お邪魔するよ」

 そこへ話に割り込んできたのは皇妃様の弟アレス卿だった。神殿騎士団の白を基調とした礼装の胸には復職できた証となる上級騎士の記章が輝いている。思わぬ大物の登場に私達の周囲に集まっていた人達は固まっていた。

「アレス卿、いかがなされましたか?」

「祖父が宴を退出する前にお2人と話がしたいと希望しております。少しお時間を頂けないでしょうか?」

「賢者様が?」

 お師匠様と再会した時に機会があれば会いたい旨をおっしゃられていたのを思い出す。急遽ダンスの練習の為にブランドル家に籠ることになってしまい、その機会を失っていた。そっとルークの顔を見上げると、彼も了承して頷いてくれた。私達はその場にいた竜騎士方に断りを入れ、ティムも連れてアレス卿の後に続いて上座へと向かった。

「済まんのぉ、呼び出して」

「いえ、こちらこそ挨拶が遅くなって申し訳ありません」

 お師匠様が謝罪すると、ルークは逆に挨拶が遅くなったことを詫びて改めて名乗った。そしてティムも改めて挨拶をすると、お師匠様は相貌を崩しておられた。

「ティムは良き相棒に恵まれたと聞いた。竜騎士の心得を忘れず、修練に励みなさい」

「ありがとうございます」

 賢者様の激励にティムは神妙に頭を下げた。

「あまり長く引き留めても良くないからの。本題に入るとしようか」

 賢者様はそう仰せになると、「どっこらしょ」と言って立ち上がられ、そして私とルークの前に立たれた。私達はその威厳あるたたずまいに思わずかしこまって頭を下げる。

「苦難に耐え、貫き続けた2人の絆にダナシア様の大いなる祝福が賜らんことをこいねがう」

 私達の婚約への祝福だった。市井ではここまでする事は無いけれど、貴族間では高位の神官に祝福していただくことで婚約が成立する。

 宴の主役でもないのにこのような場で賢者の地位にある高貴な方に祝福をされるのは異例の事。ちょうど曲と曲の合間だったのもあって衆目が集まり、祝福が終わると周囲から割れんばかりの歓声が沸き起こった。

「良かったな、ルーク、オリガ」

「おめでとう」

 賢者様のお計らいが信じられず、私達はそのまま固まったように動けないでいた。そんな私達に見守っておられた陛下と皇妃様が言祝ことほいでくださったおかげで我に返り、ようやく賢者様にお礼を言うことができた。

「お心遣い、ありがとうございます」

「わしからのせめてもの手向けじゃ。幸せにの」

 陛下のご指示の元、居合わせた人々にワインが配られる。アレス卿が言うには私達に用意してくれたのはミハイル陛下の秘蔵品の一つらしい。ラトリ滞在中にタランテラ側への接触を禁じ、辛い思いをさせてしまったお詫びも兼ねているのだとか。

 私もルークも仕方がないことだったと理解できている。もう気にしないで頂きたいとアレス卿にお伝えすると、ミハイル陛下とアリシア様にも伝えておくと請け負って下さった。

 そして勧められるままにそのワインを頂くと、今までに飲んだことがないくらい深い味わいだった。普段はエールや蒸留酒を好んでいるルークもこのワインには驚いた様子で杯の中身を飲み干していた。

 タランテラ皇国にとって新たな一歩を踏み出したこの日は、私達にも忘れられない記念すべき日となった。



 タランテラの内乱の陰でベルクが引き起こした騒動の余波は大陸全土に及び、どの国もまだその混乱の終息には程遠く、更には討伐期への備えも同時進行しなければならない。即位式での前後で幾度も会合を開いて意見交換を済ませた各国からの賓客方は、その成果も土産として即位式が終わると速やかに帰国されていた。

 そして即位式から5日後の夕刻、私達は翌日に控えたクルトさんとリーナさんの結婚式に参加するためにアジュガへ来ていた。着場にはわざわざクルトさんが出迎えてくれて、ルークがエアリアルから降りたとたんに駆け寄って来た。

「ルーク! お前、あれ」

 何か興奮して意味のなさない単語を発しているクルトさんをのんびりと宥めつつ、ルークは騎乗帯を外して私を優しく抱き下ろした。

「お久しぶりです、クルトさん。この度はおめでとうございます」

「あ、ああ、ありがとう。来てくれて嬉しいよ。リーナも喜ぶ」

 まだ興奮が治まっていない様子のクルトさんの応対を私がしている間に竜騎士達は飛竜の背中から荷物を降ろして装具を外していく。そしてシュテファン卿の相棒に同乗させてもらっていたティムは「俺、エアリアルの世話しに行く」と言い、ビレア家の裏にある竜舎へ飛んで行ったエアリアルを追いかけて着場から駆け出して行った。

 クラインさんへの挨拶はラウル卿が赴いて簡潔に済ませてしまい、クルトさんと一緒に出迎えてくれたザムエルさんが荷物を運ぶのを手伝ってくれる。私達は興奮冷めやらないクルトさんを宥めつつ家に向かった。

「お前、本当にあれ、いいのか?」

「うん、お祝いだよ」

「だって、馬だぞ」

 クルトさんとリーナさんの結婚の話を聞いて、ルークはすぐに荷役用の馬を買おうと決めていた。これから工房を運営するにあたり、材料を運ぶにも出来上がった製品を運ぶにも必要不可欠だからだ。

 フォルビアでは物資輸送に使う荷役用の馬を集めていたが、内乱終結によって生じた余剰分を払い下げることになっていた。その話を知っていたルークはヒース卿に頼んでそのうちの1頭を融通してもらったのだ。代金の大半はルークが出していたが、一緒にお祝いしたくて私とティム、そしてラウル卿とシュテファン卿も少しずつ出している。

 そんな話をしてクルトさんを宥めている間にビレア家に到着していた。玄関を開けるとルークのご両親とリーナさんが笑顔で迎え、挨拶を交わして荷物を運び入れた。

「踊る牡鹿亭行くぞ」

 エアリアルの世話をしていたティムも来て、全員がそろったところでルークのお父さんがおもむろにそう宣言する。

「え?」

「みんな、即位式の話を聞きたくて待っている」

「はい?」

 前回同様、この国の最新情報を聞くためのお祭りが開催決定となっていた。

この町の人達はなんだかんだで理由を付けて騒ぐのが好き。

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