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群青の軌跡  作者: 花 影
第1章 ルークの物語
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閑話 ホルスト

あの人は今……ということでホルストさんの話。

似たような過去話続いて申し訳ないです。

あくまでも作者の自己満足のお話。

「全く、どいつもこいつも……」

 私は酒場の喧騒をしり目に安酒を煽るように飲み干した。2月ほど前に内乱が終結したらしく、辺境と言われるこの地でもその話題で持ちきりだった。噂の中心は、次期国主に決まったエドワルド殿下とその奥方。そして内乱終結に尽力したと言われているルーク・ビレアだ。

 連日、因縁ある相手の名を聞かされてもううんざりだ。私は早々に席を立つと狭く薄暗い自室に引きあげた。こちらに来たばかりの頃に放り込まれた相部屋に比べれば待遇は良くなったと言えるのだが、部屋にあるのは固い寝台と身の回りの物を入れてある木箱のみ。特にすることもなく、寝台にゴロリと横になった。

 本当ならば私はこんなところにいていい人間ではない。名門とまではいかないものの敬称を許される家に生まれ、能力を認められて竜騎士になった。更にはワールウェイド公にも認められ、その後押しを受けて第2騎士団長に抜擢された程なのだ。任期を大過なく勤めていれば、今頃は功労金で優雅に生活しているはずだった。

 その私の人生を狂わせたのがルーク・ビレアだ。あの時、あいつさえ入団してこなければ、こんなみじめな生活を余儀なくされることにはならなかったのだ。

 



 奴が見習いとして第2騎士団に入団してきたのはもう10年位前になる。先輩のギュンター卿から推薦されたにしては、どこにでもいる純朴な若者という印象しかなかった。逆に推薦されなかったダミアン・クラインの方に才能を感じた。よく気が利く上に団長である私をよく立ててくれる。ある時、そんな彼からルーク・ビレアはずるい所があるから要注意だと忠告をうけたのだ。

 建前では身分に関係なく叙勲することになっているが、ルーク・ビレアには難しいと考えていた。それでもギュンター卿の顔を立てて見習いには昇格させたのだが、飛竜まで与えるつもりはなかった。だから、選定にも理由をつけて連れて行かなかったのだが、まさかダミアンに与えた飛竜があの男を選ぶとは思わなかった。

 悩んだ結果、私は飛竜の登録を変える事は無かった。何人かの部下からは再考を求められたが、そもそもあの男は飛竜の扱いにたけている。これも何かのまやかしだと考えた。それでも今後の影響を考え、あの男は補助要員を欲しがっていた弟分のゴットフリートが管理するゼンケル砦へ移動させた。

 ダミアンを叙勲した頃にはあの男の存在を忘れかけていた。しかし、飛竜があの男の事を思い出してしまい、何かにつけてゼンケルに行ってしまうようになってしまった。あの男を不適格として故郷に返すことも考えたが、それにはゴットフリートが怠け癖のあるあの男を自分が矯正すると言って難色を示した。ダミアンを手元から離すのは惜しかったが、仕方なく彼もゼンケルに移すことにした。

 しかし、この決定によってあの男は飛竜をすっかり手なずけてしまい、我がものとしてしまった。それがもとでゼンケルでは問題が頻発し、しまいにはダミアンが負傷して竜騎士を続けられなくなってしまった。それだけではない。それを苦に彼は自殺してしまったのだ。

 残された飛竜は他に目をかけていた見習いに譲るつもりだったが、周囲の反対にあって結局あの男のものになってしまった。すべての元凶であるあの男を叙勲する気が起きなかった私は、南砦に配属している竜騎士達に厳しく指導するよう命じたのだ。

 これでもうあの男にわずらわされることはないだろう。そう安心していた矢先、エドワルド殿下から親書が届いた。見習いを粗略に扱っているという荒唐無稽な内容だったため、捏造している暇があれば自身の職責を果たすよう忠告しておいた。

 何しろロベリアに赴任されて2年目になられるが、あまりいい噂は聞こえてこない。皇子というだけで総督と団長を兼ねて遊んで暮らしているのだ。努力を積み重ねてつかみ取った地位だという自負があるので、老婆心からの事だ。だが、その後も何度も似たような親書が届き、世間知らずも甚だしいと突き返してやった。



 討伐期の最も厳しい時に、私は自ら竜騎士を率いて南方へ出撃した。被害もなく終え、少し足を延ばして南砦に立ち寄った。そこで歓待されて気分良く過ごしている最中に、エドワルド殿下から「ルーク・ビレアを保護した。ゼンケルで待っているから来い」と呼び出しを受けた。こんな忙しい時期に応じる義理などないが、場所がゼンケルだったこともあって不承不承応じることにした。

 不機嫌さを隠さずにゼンケルの着場に降り立つと、竜舎へ来るように言われる。怒りがこみあげてくる中、一歩踏み入れた竜舎の中には異様な光景が広がっていた。ゴットフリートを始め、4人の竜騎士が縛られて床に転がされている。そんな彼等を仁王立ちしたエドワルド殿下が見下ろしていた。

「これは一体……」

「兄者……助けてくれ」

 私の姿を見てゴットフリートが助けを求めてきたが、殿下は鞘に納めたままの大剣を彼の目の前に突き立てた。その勢いにゴットフリートは「ひぃぃ」と情けない声を上げて仰け反った。

「来たか」

 年が若く、甘やかされて育ったと殿下の事を侮っていた。しかし、振り返った彼から放たれる威圧感は彼の兄ハルベルト殿下以上で、思わず足が竦んで動けなくなった。

「見ろ」

 殿下が指した先には流紋ヤマネコや雪玉ウサギの死体が並べられている。ロベリア領内で密猟されたものだった。私が到着する少し前に、ゴットフリート等がこれらを携えて意気揚々と帰って来たらしい。これらの他に流紋ヤマネコの幼獣も連れ帰っていたらしいが、今は別室で保護しているという。だが、これはまだ序の口だった。

 おもむろに殿下が出してきたのは宛先が全く異なる3つの書簡筒だった。保護したルーク・ビレアが持っていたものらしい。それを目にしたゴットフリート等は一様に青ざめる。何をしたのか問い詰めようとしたその時、飛竜を通じて1人の若者がゴットフリートらに暴行を受けている光景が伝わってくる。すぐにはそれが誰かはわからなかったが、殿下の話だとその若者がルーク・ビレアらしい。ゼンケルに送り出してからは会うことはなかったためにすぐには分からなかった。

 ルーク・ビレアは意識不明で危険な状態らしい。体中に古いものも含めて無数の痣が残っていたことから、暴行は日常的に行われていたことがわかる。

 まだ起こったことが現実のものとして受け止めきれない私に、殿下は竜舎の暖房設備の要となる燃焼設備室へ連れて行く。タランテラの竜舎には欠かせない部屋ではあるが、その部屋の隅には古ぼけた毛布が敷いてある。

「ここは……」

「ルークはここで寝起きしていたらしい。砦だけでなく屋敷の雑務も押し付けられていたそうだ」

「……」

 もはや言葉にならなかった。ゴットフリートからは人を何人か雇って砦を管理していると聞いていたからだ。維持するための補助金は雇っている人数によって変わるので、その申請書の作成を手伝った記憶もある。

 その後は屋敷の母屋に移り、様々な不正の証拠を見せつけられた。密猟を示唆した金貸しからの手紙もある。バレないと高をくくっていたのか、隠そうともしていなかったらしい。

「私は幾度となく忠告してきたはずだ。それを捏造と返されたわけだが、どのような調査をなされてその結論に至ったのか説明いただけるだろうか? まさか、あの男の言葉のみを鵜呑みにして、何も調査をしていないということはないだろうな?」

 言葉遣いは丁寧だが、明らかな怒気をはらんでいる。ただ、私は返す言葉もなく項垂れるしかなかった。



 その後、第1騎士団からアンドレアス卿の隊が派遣されて我々はその管理下に置かれることになった。その上で改めて調査がなされ、ゴットフリートは領地没収の上に斬首、密猟に関わった3人もそれに準ずる刑が宣告された。また、私が目をかけてやっていた竜騎士の大半も何かしらの不正にかかわっており、その資格を剥奪されていた。

「兄者をおだてていればたいていの事はごまかせる」

 取り調べの最中、弟の様に可愛がっていたゴットフリートはそう言っていた。他の罪を犯していた者達も口々に同様の事を言い、頼りになる上司と思われていると思っていただけにしばらく立ち直ることができなかった。

「結局、君には上に立つ者の心得が欠けていたのだ」

 アンドレアス卿のこの一言が更に追い打ちをかける。そんな私は管理不行き届きで降格の上敬称を剥奪。更に第7騎士団への移動が命じられた。要は左遷である。そして処罰が確定したところで、長年連れ添ってきた妻に逃げられた。

 春になり、第7騎士団へ移動する前日にルーク・ビレアに謝罪する機会を与えられた。傷の癒えたあの男を迎えに行ったアンドレアス卿に随行し、その帰りに普段の経路から外れた高台にある泉のほとりで休憩した折だった。

「ゴットフリートの所業に気付かず、申し訳なかった」

 言葉を尽くしたつもりだったが、あの男には伝わらなかったらしい。自分にはいいから飛竜に謝れというその態度に怒りを覚えながらも、言われた通りに飛竜に頭を下げた。私が頭を下げているのにかんばしい反応がなく、結局アンドレアス卿に先に帰れと命じられた。

 そして腑に落ちないまま翌日の出立の時間となり、誰に見送られることもなく、私はひっそりとシュタールを旅立った。




「もう……朝か?」

 いつの間にか寝入っていたらしく、気づけば朝になっていた。顔を洗うといつもの様に相棒の世話をする。こいつも年をとった。共に戦えるのも次の討伐期が限度だろう。

「おー、ここにおったか?」

 気の抜けた声の主はここで顔なじみとなった相手だ。内乱が起きて間もないころに、グスタフによって左遷された「鉄腕のアイスラー」とあだ名されている兵団長だ。素手で黒曜ムカデの外殻を勝ち割ったなどとも噂されている強者だ。

 左遷されたとなれば気落ちして何もやる気がわかなくなるものだが、彼は異なった。いつの間にかこちらに来た副官兼奥さんと一緒になり、全員に喝を入れ、兵団としての秩序を取り戻し、兵を鍛え上げたのだ。しかもグスタフが失脚して皇都への帰還が命じられても、こちらの兵士が鍛え足りないと言って拒んだのだ。

「わしのう、今日皇都へ帰るんじゃ」

 随分また突然である。まあ本当であれば、昨年の秋には帰還していたはずなので不思議ではないのだが。

「そうか、帰る気になったか」

「おう。今度は第4らしい」

 第4騎士団ということはマルモアか。あそこはグスタフの影響が強い場所だから早急に立て直しておきたいのだろう。

「気を付けて帰れよ」

「おう。ノーラと競争なんじゃ。またの!」

 そう言い残すと、彼は駆け出した。まさか、あのまま走って戻るつもりだろうか? まあ、賑やかな奴が帰ったので、これでこちらも少しは静かになるだろう。

 皇都へ戻る彼を不思議とうらやむ気持ちはもうわかなかった。内乱が起こった時、グスタフに声をかけてもらえるのではないかと淡い気持ちを抱いていたのだが、ついぞその声がかかる事は無かった。もし声がかかって応じていれば、グスタフが失脚した時に彼の協力者として処刑されていた可能性もある。かえって良かったのだと、半ば諦めの境地に達していた。

 もうここでの生活になれてしまっていた。私は飛竜の世話を終えると、いつもの様に片づけを済ませ、いつもの仕事へと向かうのだった。


結局、あまり反省していないホルスト。

ちなみに「鉄腕のアイスラー」はラウルのパパ。

「群青の空の下で」の愛のカタチ1と2で登場。

後から気付いたけど、ラウルパパのお名前もアンドレアスだった。

うっかりしてました。


これで一先ず第1章は完結。

次話から第2章突入です。

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