表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群青の軌跡  作者: 花 影
第6章 親子の物語
223/245

第12話

お待たせしました。更新を再開します。

 その後は何事もなく、無事に夏至祭の初日を迎えた。前回の夏至祭はティムが飛竜レースと武術試合双方に出場すると言う無茶をやらかして話題に事欠かなかった。その為、義兄である俺にもあれこれ質問してくる人が後を絶たなかったのだが、陛下の護衛に徹して関与していない姿勢を貫いてやり過ごした記憶がある。

 今回は俺達雷光隊がエルニアで活躍したことで良い噂も悪い噂も広まっている。夏至祭に参加することで根掘り葉掘り聞かれると覚悟していたのだが、直前になってオスカー卿とシュザンナ様の婚約話が判明した。そちらに話題が集中しているおかげで今回は当初想定していたよりは静かに過ごせそうだ。

「相棒と共に培った技量を存分に発揮し、悔いの残らぬ戦いをして欲しい」

 陛下の激励から始まった初日の飛竜レースは、稀にみる混戦だった。通常であればその日の夜会の席で上位3名に褒賞を授与されて上級騎士として敬称が許される。だが今回の3位帰着は3人同時だったため、異例ではあるが5名に褒賞が授与されることとなった。

 付け加えるならば、その5人とも俺が手ほどきをしたことがある竜騎士ばかりだった。そして彼等は授与式が終わると真っ先に俺の元へ挨拶にやってきた。

「お久しぶりです、ルーク卿。ご指導して頂いたおかげで結果を残すことが出来ました」

「俺はきっかけを与えただけに過ぎない。自分達の努力の賜物だよ」

 いくら鍛錬の方法を指導しても本人達にやる気が無ければ結果は出ない。継続して鍛錬し続けた本人達の努力の賜物なのだ。感謝には及ばないと伝え、夜会を楽しむように伝えて解散させた。

「なかなか慕われているじゃないか」

「俺は大したことはしていないんですが……」

「だが、お前に関わったおかげでその実力を伸ばすことが出来た者がいるのは確かだ。胸を張って良いと思うぞ」

「本人の努力の結果ですよ」

 産み月が間近に迫り、北棟で静養中の皇妃様に付き添っているので、オリガはこの日の夜会を欠席している。俺は護衛として陛下の側に控えて過ごすことにしていた。真面目に仕事をしようと思っていたのだが、皇妃様がおられないと陛下も退屈だったらしく、何かと話を振られ、結局雑談に興じて過ごしてしまった。




 2日目の武術試合も俺が関わったことがある竜騎士達が上位を占めていた。優勝したのは教育部隊にいた竜騎士で、更には2年前に降格となったレオナルトをからかいに来て、そのまま強引に鍛錬に巻き込んだ竜騎士も入賞していたのは驚いた。

「ルーク卿、お相手を願います」

 武術試合後恒例となっている上位入賞者による腕試しに何故か俺が指名された。この栄えある舞台に挑まれるのは武術試合の優勝経験者がほとんどなのだが、俺が指名される日が来るとは夢にも思わなかった。

 今までも人前で剣技を披露することはあったが、これだけ多くの人の前では初めてだ。意外な展開に観客がざわめいている。一般的に武技よりも騎竜術という印象が広まっているからそれも当然だろう。陛下に背中を押され、観客席にいるオリガの微笑みに勇気をもらって闘技場に降り立った。

「よろしくお願いします」

 上着を脱ぎ、試合用の長剣を手にした俺に入賞者4名が揃って頭を下げる。ここにいる全員と手合わせするのか……。しかも同時に。全員がこのくらいしないと俺には勝てないと口をそろえるので、渋々承諾した。最後に手合わせしたのはエルニアの1報が届く前だから1年以上前になる。どのくらい腕を上げたか楽しみでもある。

「さて始めようか」

 俺は試合用の剣を構えて彼等と対峙する。既に準備が整っていた彼等は審判役の合図と共に地を蹴り、斬りかかって来たのだった。




「武術試合において、優秀な成績を収めたことを褒賞を持って称える」

 その日の夜に行われた夜会の冒頭で上位入賞者は1人ずつ陛下の前に進み出て褒賞を受け取っていた。最初に受け取った優勝者は額と鼻の頭に擦り傷を負い、その他の竜騎士達も体のどこかしらに擦り傷や青あざを作っている。これも全て試合後の手合わせで出来た傷だった。

 彼等は思った以上に腕を上げていた。本気で対処してどうにか勝つことは出来たが、力加減を少し迷ったらしい。最初に挑んできたのが優勝した竜騎士で、ちょっと強めに引き倒したら顔面から倒れた形だ。せっかくの晴れの舞台で顔に傷を作ってしまい、試合後には慌てて詫びたのだ。

「やはり敵いませんでした」

 少し悔しそうにしていたが、それでも彼に限らず全員が俺と手合わせ出来たことを喜んでいた。これに満足せず、鍛錬を続けると言っていたのが頼もしい。きっとこれからの騎士団を担う存在になっていくはずだ。

「ルーク・ディ・ビレア、これへ」

 昼間の出来事を思い出していると、不意に陛下に名を呼ばれた。今日は護衛としてではなく、招待された側としてオリガと共に出席していたので、陛下がおられる上座からは少し離れたところで授与式を見守っていた。俺はオリガと一度顔を見合わせると、陛下の前に進み出た。

「お呼びでございますか?」

「これより特別褒賞を行う」

「え?」

 いきなりの展開に付いて行けず、その場で固まる。そうしている間に何やら準備が進められ、俺はその場でひざまずくようにうながされた。

「今春まで1年にわたるエルニア遠征は皆の記憶に新しい。加えて昨日の飛竜レースと本日の武術試合双方において入賞したのはいずれもそなたの指導を受けた経験がある者ばかりだ。数多くの功績を上げてきたそなたに褒賞を持って報いることとする」

「あ、ありがとうございます」

 いきなりのことで、気の利いた返答などできるはずもなく、お礼の言葉も思いっきりどもってしまった。

「金や地位はもうこれ以上受け取らないだろう。そこでこちらを用意した。役立てて欲しい」

 そう言って侍官が2人がかりで布に覆われた大きなものを運んできた。目の前にある台にそれは置かれ、俺は促されてその覆われていた布を捲った。

「これは……」

「新しい装具を用意した。エアリアルとの時間を楽しんでくれ」

 そこにあったのは真新しい飛竜の装具一式だった。それを見た周囲の反応は少し微妙だった。普通こういった場で贈られる品は見た目に凝った物が用意される。だが、今回陛下が贈って下さった装具には華美な装飾は一切なく、実用に特化されたものだった。華やかな場には似つかわしくないと思われたのかもしれない。

 しかも装具は支給品だ。その地位によって使われる素材が変わる程度だが、こだわりがある者は多少費用が掛かっても手を加える。その筆頭は俺だろう。昔は少しでも安価に済ませようとして自分で手を加え、そのための金具を父さんに頼んで作った結果が現在のビレア工房へ繋がっている。用意して頂いたその装具は俺好みに手も加えてあるのが一目見ただけで分かった。

「すごい……最上級の素材ばかり使われている……」

 手で触れてみると使われている革も布も金具も全て最上級品だと分かる。同様の素材を使った装具は俺が知っている限りグランシアードの装具だけだ。つまり、陛下はグランシアード用の装具に集めた素材でエアリアルの装具を作ってくれたのだ。

「ありがとうございます。最高の褒賞です」

「気に入ってくれてよかった。エアリアルの室へ運ばせておくから、使ってやってくれ」

 俺は感謝して陛下に頭を下げる。よくわかっていない方々はまだ困惑している様子だったが、俺は構うことなく上機嫌でその御前を辞した。明日、無理にでも時間を作ってエアリアルと飛んでみよう。

「良かったわね、ルーク」

「ああ。最高の贈り物だ」

 オリガの元に戻ると、俺の好みを熟知している彼女は自分の事の様に喜んでくれた。彼女も一緒に飛ぶのが楽しみみたいだ。

 特別褒賞で目立ってしまったため、その後の宴では色んな人に声をかけられることとなった。目立たないようにしていようと思っていたけど、どうやら無理らしい。それでもアスター卿やユリウス、リーガス卿等、長く付き合いのある方々が周囲を固めてくれたおかげで不快な思いをすることは無かった。宴の後の方にはお近づきになろうとする人々から逃れて来たオスカー卿とシュザンナ様もやってきて、いつになく楽しい時間を過ごしたのだった。




 夏至祭から数日後、雷光隊の詰め所で書類と格闘していると、招かれざる客が来た。フリードリヒ・ディ・ミムラス。正直、相手にしたくはないけれど、断ったところでどこへでも押しかけて来そうだったので、さっさと用事を済ませることにした。

「お待たせしました、フリードリヒ殿。ご用件は何でしょうか?」

「孫のカミルを我がミムラス家で引き取らせてもらおう」

「嫌ですけど」

「は?」

 断られることを想定していなかったのか、ミムラス家のご当主はその場で固まっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ