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群青の軌跡  作者: 花 影
第6章 親子の物語
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第10話

「では、先に行く」

「彼女の事、どうかよろしくお願いします」

 その後、大まかな計画だけ立てると、アスター卿とオスカー卿は少数の護衛をともなって皇都へ出立された。お疲れのご様子なのだが大丈夫だろうか? でも、夏至祭は迫っているし、その折にご婚約を公表するとなると、疲れたなどと言っていられないのだろう。

 そして彼等を見送った俺達は、第3騎士団と打ち合わせをすることとなった。シュザンナ様も同席を望まれたのだが、長旅でお疲れのはずなので、明朝に結果の報告をすることと乳姉妹でもある侍女を1人同行させることを約束して先に休んでいただいた。ちなみにもうこれ以上オリガに無理をさせられないので、彼女も用意してもらった部屋で休ませてもらっている。

「ジーンが居れば良かったんだが……」

 ジーン卿は例年通り、子供達を連れて船で皇都へ向かっていて、もうそろそろ向こうへ着く頃だそうだ。そしてリーガス卿は先行したアスター卿に代わって残りの使節団を率いて皇都を目指すらしい。

当初はシュザンナ様も一緒にと考えていたのだが、ロベリアについてすぐに彼女の存在を知った有力者がご機嫌うかがいと称して殺到しただけでなく、更にはシュザンナ様を諦めきれない輩が何を仕掛けて来るか分からない状態らしい。このままでは安全が確保できないと判断し、俺達に助力を求めてきたのだ。

「アルノーとジークリンデを招集しています。後、近隣で休暇中の隊員にも小竜を送りました。ミステルかアジュガで合流出来ます」

 仔竜の選定式の後、ファビアンとマティアスは帰省していた。彼等は皇都に戻る際にも手を貸してくれる予定だったし、他にもドミニクが合流する。シュテファンとレオナルトもいて、更にアルノーとジークリンデが加わってくれると移動が非常に楽なる。それでも集合するのはアジュガかミステルになるので、第3騎士団に手助けをしてもらう必要があった。

「3名つける。必要であれば、皇都まで同行させても構わない」

 リーガス卿はすぐさま同行する竜騎士を3名手配してくれた。その3人とも将来有望な若手だ。申し分ないが、彼等への指導も任されているような気がしなくもない。ともかく明日の午前中には発つ予定なので、シュテファンとアジュガまでの経路を決めて先に休ませてもらった。その後の事はアジュガに着いてから要相談となる。

 翌朝、シュザンナ様に旅程を説明して了承を得た後、予定通り昼前にはロベリアを出立した。出立前に着場へ無理に押し通ろうとした輩もいたらしいが、第3騎士団の鉄壁の防御のおかげで事なきを得た。やはり油断は禁物だと気を引き締めてロベリアを出立した。




「お帰りなさいませ」

 シュザンナ様の安全を考慮し、更には無理をさせない経路を選んだためにアジュガに着いたのは夜になってからだった。着場に着くと、サイラスとガブリエラ、レオナルトが出迎えてくれた。

「急だが、準備は?」

「整ってございます」

 とにかく時間が無かったので、サイラスには高貴な女性が滞在するからその準備を頼むとだけ伝えていた。それでも彼はぬかりなく準備を整えてくれていて、到着したシュザンナ様をすぐに部屋へ案内してくれた。侍女を同伴されているし、滞在中はガブリエラが対応してくれるので心配ないだろう。その間、カミルを含めた子供達は母さんやリーナ義姉さんが見てくれることになっていた。

「カミルの顔を見たかったけど、明日まで我慢か」

「そうね」

 子供達は既に就寝中。起こしてしまってはかわいそうだ。会いたい気持ちをグッと堪え、自室の寝台に潜り込む。アルベルタを送り届けた後は気楽な旅の予定だったのが一転して貴人の護衛になり、心身ともに疲れていた。前夜も遅かったのもあり、あっという間に眠りについていた。

「皆来てくれて助かった。ありがとう」

 招集をかけた隊員達は翌日には全員揃っていた。ドミニク達3名の他、アルノーとジークリンデ、そして話を聞いた元教育部隊員も1人手伝いに来てくれた。アジュガに集まってくれた彼等に詳しい説明をした後、皇都までの旅程を詳細に決めた。

 早く皇都へ向かいたいところだが、シュザンナ様の疲労を考慮し、出立は3日後となった。今回はシュザンナ様をお守りする本隊と休憩所の設営と片付けを受け持つ別働隊に分け、本隊は俺、別働隊はシュテファンが率い、人員を振り分けた。

 早朝に出立すれば皇都へは夕刻には付くが、今回は休憩を多めに入れる予定なので皇都の手前にある神殿か砦で1泊することにした。どちらになるかは当日の昼くらいに判断するつもりだ。そう言った諸々の事を決定し、その後はその準備に取り掛かる事となった。




「とても居心地のいい町ですね」

 その日の夕餉の席でシュザンナ様からそんな言葉を頂いて嬉しくなった。安全を考慮してシュザンナ様には出来るだけ領主館内で過ごしていただいているのだが、午前中に少しだけ神殿へ祈りを捧げに行っていた。これは彼女の日課なので、護衛を付けることを条件に許可したのだ。

 町の人達には彼女の身分を明かしていないが、高貴な方だとだけは伝えていた。それでもみんな気軽に挨拶し、変にかしこまらないのが心地よかったらしい。神殿で一緒になった元おかみさんから籠に山の様に盛られたキイチゴをもらったと言って喜んでいた。

「オリガ夫人がジャムにして下さったの。明日の朝食に出して下さるそうなので楽しみだわ」

 長く礎の里の奥棟で暮らしておられたので、市井での生活が珍しいのだろう。オリガがジャムを作っている様子を子供達と一緒に眺めていたらしい。

「退屈なさってはいませんか?」

「いいえ。皆さん良くしてくださいますし、子供達が本当にかわいいの」

 カミルと年が近いので、ザシャやフリッツもこの領主館で過ごすことが多い。そんな彼等にシュザンナ様は本を読んで聞かせてくれたらしい。後は一緒に頭父さん達が作ったからくり玩具を見たり、おやつを一緒に食べて過ごしたらしい。何しろ娯楽が少ない田舎町だ。それでも楽しく過ごしていただいている様で安堵した。



 特に問題なく日にちは過ぎ、アジュガを出立する日を迎えた。シュテファン達別働隊は朝早くに出立し、俺達本隊は日が高くなってから出立した。オリガとカミルはいつもの様にエアリアルに、シュザンナ様はジークリンデの相棒アウローラに乗せてもらっている。サイラスはアルノーの相棒に、ヴァルトルーデはいつも通りレオナルトと、レーナとシュザンナ様の侍女は第3騎士団から応援に来てもらっている竜騎士達に同乗させてもらっていた。ちなみにガブリエラは下の子供がまだ小さいのでアジュガで留守番となった。

「行ってきます」

「気を付けるんだよ」

 いつもの様に家族が見送りに来てくれた。母さんは俺達だけでなく、シュザンナ様にも「またおいで」と声をかけていた。そしてすっかり彼女と仲良くなっていた子供達は別れを悲しんでいた。

「では、行こうか」

 俺が合図を出すと、飛竜達が順次飛び立っていく。最後に俺が相棒を飛び立たせ、町の上空を一周するころには隊列が出来上がっていた。心躍る瞬間でもあるが、今回は大切な使命がある。シュザンナ様を皇都へ安全に送り届け、なおかつ彼女に楽しんでいただける旅にする。先ずは最初の休憩地へ進路を向けた。




「いつも、この様な旅をなさっているんですか?」

 シュザンナ様が困惑したご様子で茶器をテーブルに戻された。アジュガを出立した日の午後、本日2度目の休憩地でのことだ。別動隊によって眺めがいい場所に日よけの天幕が張られ、敷物を広げた上に折り畳みが出来る簡易の物だがテーブルと椅子が設置されている。そしてシュザンナ様の前にはお茶とお菓子が用意されていた。

「今回は特別ですね」

 彼女に同席しているのはオリガとヴァルトルーデ。俺はおやつが済んだカミルの相手をしていた。

「陛下や皇妃様のお供をすることもあるので、慣れているんですよ」

 この答えにシュザンナ様はどうやら納得して下さったようだ。今回は人員が揃ったのが幸いし、これだけの荷物も運ぶことが出来たのだ。いつもであればもっと簡素な日よけを設置するくらいだ。その分、もっと景色がいい場所を選んで通ることもある。

「今宵はこの先にある皇家の別荘に泊まることになりました。あと少し御辛抱ください」

 つい先ほど、皇都からの使いで来たルーペルトと合流した。陛下から手紙を預かってきており、それは別荘の使用許可だった。これで今夜もゆっくり休んでいただける。

「陛下もご到着をお待ちしておりますとのことです」

「反対はなさらないのでしょうか?」

「反対なさる理由がありません。大歓迎だそうです」

 急に押しかけて来たようなものなので、シュザンナ様も少し不安だったのだろう。だが、俺の答えに安堵したご様子だった。

「あと、これはオスカー卿からです。早くお読みになりたいかもしれませんが、別荘はこのすぐ先になります。あちらについてからゆっくりお読みになって頂くと助かります」

 そう言ってルーペルトから預かった手紙をシュザンナ様へ差し出した。彼女はその手紙を受け取ると、ほんのりと頬を染め、嬉しそうに胸に抱いていた。




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