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群青の軌跡  作者: 花 影
第6章 親子の物語
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閑話 リーガス

「第3騎士団で預かってほしい見習い候補がいるのですが」

 そうルークが打診してきたのはもう2年前になる。ミステルで保護した孤児の1人だったのだが、ルークが資質を見いだして竜騎士に必要な教育を受けさせていた。本来であればミステルを管轄している第2騎士団に預けるのが筋なのだろうが、ケビンによって改革途中のというのもあって信用できなかったのだろう。まあ、彼自身が受けた仕打ちにその前年に起きた不幸な事件を想えばそれも納得したので引き受けた。

 第3騎士団としても多くの人員を第2騎士団に派遣した上に、有望株のティムが抜けたのもあって人手不足だ。ルークがティムに匹敵する資質を持っていると言うのであれば大歓迎だ。それにしてもそう言った才能を見抜く力を持っているアイツには感心する。また有望株を見出した暁には是非とも第3騎士団に預けて欲しいものだ。

「ようこそミステルへ。飛竜をお預かりします」

 そしてその年の秋、仕事をキリアンに押し付け……頼んでその見習い候補をミステルへ迎えに行った。着場で相棒を預けた時にその少年、カイと挨拶を交わしたのだが、高い大地の資質を感じ取った。ふむ。なかなか面白い人材だ。

 その後ルークと共に改めてカイの気持ちを確認し、竜騎士見習いとして第3騎士団への入団が決まった。よし、有望株の確保成功。その日はミステルに1泊し、翌日意気揚々とロベリアへ帰還した。仕事を押し付け……任せたキリアンには奥さんとの約束があったのにと恨まれたが……。




「カイ、仔竜の選定に出てみるか?」

 カイが見習いになって1年と半年。ミステルではギード爺さんや雷光隊に基礎をみっちり叩き込まれていた彼は、先に入団していた見習い達に劣らないどころか超える成長を遂げていた。大地の気質の特性からか、気づけば見習い達の間で中心的な立場にいた。

「自分が行っても大丈夫でしょうか?」

「問題ないだろう」

 彼等の教育を担当しているゴルトからの推薦もある。それに今回相棒が見つからなくてもそれで終わりではない。カイに限らず、来年以降もその機会を設けるつもりだ。必要であればマルモアへ連れて行き、そこで相棒を探してもいい。深く考える必要は無いと、カイだけでなく今回選定に臨む見習い達に言い聞かせた。

 仔竜の選定式の前に、皇都でエルニアからの帰還の挨拶を済ませたルークからアジュガに着いたとの連絡があった。カイが参加するなら立ち会いたいと記してあったので、それなら家族も連れて行きたいだろうからとジーンと共に迎えに行った。ちなみに見習い達の引率はキリアンに任せてある。

 アジュガで1泊し、翌日にはミステルへ移動した。ここでは現在、竜騎士科の試験運用が始まっている。到着した我々をミステルの首脳陣と一緒に講師陣や生徒達も出迎えてくれた。

「ルーク卿、強いと聞いたけど、本当かな?」

「手合わせしてくれないかな」

一部の生徒達の間からコソコソとそんな会話が聞こえてくる。目上の人が揃う中で私語はいただけないが、向上心からくるものだととらえておこう。では、そのやる気を確かめさせてもらおうか。

「ちょっと若いのを構ってくる」

「お手柔らかに頼むよ」

 これか講師陣に竜騎士科の施設を案内してもらうと言うルークにそう一言言い残して生徒達を練武場へ連れて行く。現役の騎士団長と手合わせ出来るとあって、生徒達も喜んでついて来た。そんな俺達に講師の1人であるエルフレート卿が苦笑して付き合ってくれた。

「く……」

「まだ……」

 まあ、ひよっこ相手にはまだまだ負けない。それぞれ手加減した一撃をくらわせた結果、全員がうめきながら練武場の床に転がっている。大半の者が諦める中、諦めずに立ち上がろうとしている根性のある者が2名いた。

「彼等はルーク卿が育成している見習い候補なんですよ」

「ほう……」

 カイからも後輩がいるとは聞いていたが、この2人もなかなか将来が楽しみだ。エルフレート卿の捕捉によると、当初はけじめも必要ということで別に教育を受けていたのだが、同年代ということで自然と交流は生まれる。彼等の能力に気付いた生徒の方から要望があり、一緒に学ぶことになったらしい。

「本当にアイツは特異な才能を見つけるのが上手いな」

「同感です」

 エルフレート卿とそんな会話を交わしていると、ルークと講師陣が練武場にやって来た。

「随分と派手にやりましたね」

 練武場に転がる生徒たちの姿を見て、ルークが苦笑する。

「ルーク、生徒達に見本を見せてやれ」

 正直、まだ動き足りない。久々にルークと手合わせしたくて試合用の長剣を渡すと、彼は苦笑しながら受け取った。エルニアで活躍した話は聞いている。どれだけ腕を上げたか楽しみだ。

「久しぶりの試合だ。手加減無しでしよう」

「了解です」

 床に転がっていた生徒達が練武場から避難したのを確認し、試合が始まった。開始早々にルークが間を詰めて来る。相変わらず動きが素早い。繰り出される攻撃も以前と比べると鋭さを増している気がする。それを最小限の動きで躱し、隙を見ては反撃する。自画自賛だがいい攻撃だと思うのだが、それも尽く躱された。それが楽しい。お互い無心になって試合を楽しんでいた。

「はい、そこまで」

 ジーンに止められ、試合は結局引き分けに終わった。無茶しすぎと怒られ、話があるからとそのまま練武場から連れ出された。




「アルベルタと申します。よろしくお願いします」

 連れて行かれたのは今夜俺達が泊まる客間だった。そこに居たのは成人前だと思われる女の子だった。ジーンの話ではビレア家の侍女の1人らしい。それにしては竜騎士の資質を感じる。彼女の話では、元々見習い候補として見出されたのだが、武術訓練が合わずに竜騎士への道は諦め、そして家庭の事情もあって侍女として働くことになったらしい。

「ちょっと気に入っちゃったから、フォルビアにも連れていく事にしたの」

 相変わらず俺の嫁さんは自由だ。ルークもオリガも彼女に町の外を見せてあげたいと言うことで、あっさり彼女の同行が決まった。

 翌日にはフォルビアに移動し、選定式の前日には正神殿に着いた。第3騎士団だけでなく、第2,第6騎士団の見習いも到着しており、いつになく活気にあふれている。こんな浮ついた状態の中でも喧嘩が起こらないのは、これで騒ぎを起こしたらせっかくの機会を失うと自覚しているからだろう。

 そして当日。つつがなく選定式は行われた。カイを筆頭に今回参加した我が第3騎士団に所属する見習い達の半数は相棒を得ることが出来た。彼等は1か月間、相棒との絆を深めるために正神殿に残ることになった。

 嫁さんの気まぐれで正神殿まで付き合わせてしまったアルベルタだったが、献身的に働く姿に好感を持った。選定式の前にはジーンの支度も難なくこなしたし、嫁さんがわがままを言って傍から離さないのも納得だ。

「明日はゆっくり休んではどうだろう?」

ずっとそばに控えさせているのも疲れるだろう。選定式の翌日には特に予定も無かったので、1日ゆっくりしてはどうかと提案して休んでいてもらう事にした。彼女も了承し、朝はジーンとゆっくり過ごした。そして見習い達の合同訓練で汗を流していると、驚きの一報が届いた。

『アルベルタが仔竜と絆を結んだ』

 その知らせに耳を疑ったが、そう言えばルークは竜騎士候補として彼女を見出したことを思い出した。その後、トビアス神官長の方から発表があり、彼女は神官としての道を歩むことになったことを知った。

 本当にアイツは特異な才能を見つけるのが上手い。


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