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群青の軌跡  作者: 花 影
第6章 親子の物語
209/245

第1話

6章突入です。

 この1年間は内乱中に匹敵するほど激動の1年となった。新年の春分節を迎えてすぐに礎の里のエルニアへの介入の一報が届いた。先鋒として俺達雷光隊が指名され、すぐに向かったのだが、着いた時にはアレス卿達聖域神殿騎士団だけでほぼ鎮圧が完了している状態だった。

 拍子抜けしたが、その後の方が大変だった。長期にわたる内乱により、町や村の場所が分からなくなるくらい国土が荒れ果てていた。本隊を率いた陛下や各国の首脳も集結したので会議が開かれ、神殿と各国が協力して復興に当たることになった。

 エルニアの騎士団は瓦解しているし、後の管理を任されたアレス卿配下の聖域神殿騎士団も少なくない被害を受けている。原形をとどめていない町や村の復興はもちろん、討伐もまともに行える状態ではなく、翌年の春まで各国から竜騎士が派遣されることとなった。

「お前に頼ってばかりだな」

「今回は自分達が適任だと思います」

 タランテラからは俺達雷光隊が残ってそのまま派遣されることになった。砦も町も原形をとどめていない現状では、当面の活動は野営を繰り返しながらとなり、自分達が適任だと判断したのだ。陛下からは他に第1騎士団員も加えようかと打診もあったが、本国も討伐期への備えは必要だし、長期にわたる事を考えると雷光隊だけの方が連携も楽だと思い、遠慮した。

 各国との調整を終えた陛下は秋を迎える頃ご帰還された。それを見送り、俺達の長い戦いが始まった。飛竜達にも力仕事を手伝ってもらい、避難民も受け入れられる拠点を作り上げ、各国からの支援物資を輸送した。冬に入り、慣れない地での討伐は苦労したが、タランテラ程寒くないのが唯一の救いだった。




 そして無事に春を迎え、礎の里で開かれる会議に出席するアスター卿に同行した各団から選抜された竜騎士達と任務の引き継ぎをして俺達は皇都へ帰還した。およそ1年ぶりの帰還と言う事もあって、着場では盛大に迎えられた。

「お帰りなさい」

「ただ今、オリガ」

 カミルを連れたオリガが真っ先に駆けよって来る。1年ぶりに会う家族に感無量となり、俺は2人をまとめて抱きしめた。心配かけたのだろう、彼女は少しやつれている気がした。

「雷光隊、ただいま帰還いたしました」

 その後は主だった貴族が揃っている広間で陛下に帰還の挨拶をする。そして内乱終結後に即位したエルニアの国主や礎の里の大賢者や当代様、更には各国の国主から預かって来た親書を陛下に手渡した。

「任務ご苦労だった。雷光隊の現地での活躍は各国国主方からも称賛されていると聞く。私も誇らしく思う」

 陛下からそのようにお言葉を頂き。俺達は全員昇格の上報奨金、更にはいくつかの特権まで頂いた。努力が報われた気がして本当に嬉しい。そうして式典はつつがなく終了した。

 疲れてはいたが、今後の予定を再確認する為に雷光隊の詰め所へ集まった。ここにくるのも1年ぶりなのだが、5人の人物が俺達を待っていた。

「お帰りなさいませ」

 彼等は新たに雷光隊専属となった文官と侍官だった。今回の褒賞として陛下が用意して下さった特権の一つである。今までもそういった話が出てきたのだが、俺達を快く思わない貴族達の反対にあって実現できなかった。特に、騎士団の財布を握っているミムラス家の御当主によって……。

 2年前、俺が嫌がらせで関係のない仕事まで押し付けられた事を問題視し、陛下とアスター卿が十分に根回しをしたうえで今回の俺達への褒賞の一部として組み込んで下さったらしい。そして殺到した希望者の中から特に優秀な文官2人と侍官3人が選ばれて俺達の専属に決まったとのことだった。

「話は聞いている。これからよろしく頼む」

 俺がそう声をかけると彼等は嬉しそうに頭を下げる。よく見ると、彼等の胸元にも雷光隊の記章が輝いていて、心なしか誇らしそうにしている。

 一通りの挨拶が終わったところで、今後の予定の確認を始める。長期の遠征から帰って来たばかりということで、俺達は夏至祭まで休暇となる。予定と言ってもその直前にもう一度集まるのを確認する程度だ。いつもの長期休暇であれば連絡係を決めるのだが、今回は文官や侍官が詰め所に居てくれるので不要となった。これでみんな休暇をゆっくり過ごせる。

 ちなみに夏至祭までには会議を終えたアスター卿もお戻りになる。前回に続いて今回の夏至祭も大々的な祝宴となる予定だ。

「会議中に失礼いたします」

 予定の確認を終えた頃、侍官が来客を告げる。入って来たのはジークリンデで、全員がアルノーを冷やかす。実は昨年予定されていた婚礼は身内だけで急遽行われ、アルノーが任務を終えたら大々的にお披露目を行うことになっていた。昨年で教育部隊を卒業したジークリンデは本宮北棟で皇妃様の護衛を務めながら彼の帰りを待っていたのだ。

「待たせて済まなかった。もう終わるから連れて行っていいぞ」

 そうジークリンデに言うと、彼女の顔は途端に赤くなる。

「あ、いえ、それだけじゃなくて……」

 慌てる彼女が言うには、そのお披露目の招待状を持ってきてくれたらしい。それぞれの家に送ればいいのだが、休みに入るから皆どこへ行くか分からない。この場で渡した方が確実だと思ったらしい。

「急で申し訳ありませんが、是非ともお越しください」

 ジークリンデに確認してからその場で招待状を開封する。場所はリネアリス家で日付は3日後になっている。確かに急だ。

「確かに急だね。でも、予定はこれから立てるから問題ないよ」

「ありがとうございます」

 花がほころぶような笑顔でジークリンデは礼を言って頭を下げた。何しろ籍を入れた2日後に夫は任務でエルニアへ行ってしまった。本当は秋の時点でアルノーを先に帰還させるつもりだったのだが、当の本人がそれでは任務を全うしたとは言えないと言って拒否。こうして一緒の帰還となったわけだ。

 ジークリンデが来たことでアルノーの落ち着きがなくなって来た。新婚なのに1年間も離れ離れになっていたのだから当然だろう。その気持ちは俺もよくわかる。さっき着場で出迎えしてくれた家族は、式典後南棟の別室で待っていてくれている。早く迎えに行って一緒に帰りたい。うん。予定の確認は済んだからもう終わりにしよう。

「よし、終わろう。後はまた後日だ」

 俺がそう宣言して会議はお開きとなった。みんなあっという間に会議室を後にしていく。アルノーも俺に挨拶をするとジークリンデと手を繋いで仲良く退出していった。

「隊長」

 最後に残ったのはレオナルトだった。神妙な表情で話しかけて来る。

「どうした?」

「自分まで昇格しても良かったのでしょうか?」

 今回の昇格で彼も見習いから脱却した。本来であればもう1年俺の元で鍛錬を積んでから復帰できるか判断することになっていた。想定より早い昇格に彼は戸惑っている様子だ。

「当然の結果だろう?」

 慣れない環境の中、彼も必死に頑張っていた。ティムとは行き違いで彼とは直接会う事は無かったが、帰還前に雷光隊全員で挨拶にうかがったアレス卿は彼の変わりように驚いていたくらいだ。逆に彼だけ昇格出来ない方が問題だ。

「それだけの働きをしたんだ。胸を張れ。そして婚約者殿に昇格の報告をしてこい」

「はい」

 レオナルトは目を潤ませながら頭を下げると、会議室を後にした。片づけを侍官に任せて俺もそれに続く。家族が待っている南棟の部屋に行くと、オリガとカミルが待ってくれていた。

「お待たせ」

「おとーしゃん!」

 駆け寄って来たカミルを片腕で抱き上げ、もう片方の腕でオリガを抱きしめる。そのぬくもりで改めて帰って来たんだという実感が湧いたのだった。


重大な事件をナレーションだけで終わらせました。

この辺は後にアレスを主人公とした話で描く予定なので、ご了承ください。


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