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群青の軌跡  作者: 花 影
第5章 家族の物語
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第31話

短くて済みません。

 ビレア家で初めて開かれた祝宴から5日後、姫様が礎の里へ旅立つ日を迎えた。早朝にも関わらず、上層の着場には多くの人が見送りに訪れていた。そんな人々を前にしても姫様は堂々として集まった人々をねぎらっておられた。

 そんな姿を陛下も皇妃様も誇らしく思われているに違いない。そしてそんなお2人方の後ろに控えているオリガは目頭を押さえていた。姫様がフォルビアにいた頃から仕えていた彼女も今日のこの日は感慨深いものがあるに違いない。

「体に気を付けてね」

「はい」

 皇妃様が姫様と出立前の抱擁を交わしている。先に抱擁を済まされた陛下はその様子を少し寂しそうに見守り、それが終わると姫様の手を取って待機している竜騎士達の元へ向かわれた。その中には少々緊張した面持ちで控えるアルノーやジークリンデの姿もある。特に今回ジークリンデは礎の里へ着くまで姫様が同乗されることになっているので、余計に緊張しているのだろう。

「後を頼むぞ」

「お任せください、陛下」

 今回の護衛の責任者を務めるオスカー卿が代表して応え、待機していた他の竜騎士は敬礼して応じた。

 今回姫様に同行するのはフリーダの他に侍女がもう一人、そして外交官2人も帯同する。護衛はオスカー卿を筆頭に補佐役としてアルノーと第1騎士団の経験豊富な隊長が付き、後はアスター卿が厳選した竜騎士7名が護衛に名を連ねている。

 陛下の激励も終わり、先ずは同行者達が先に飛竜の背に固定される。フリーダは飛竜の背中に乗ると、離れがたいのかシュテファンとそっと視線を合わせていた。姫様はもう一度見送りに来た人たちに頭を下げると、ジークリンデの相棒アウローラの背に乗った。

「行ってまいります」

 凛とした姫様の声が着場に響くと、オスカー卿が出立の合図を送る。次々と飛竜が飛び立ち、着場の上空であっという間に編隊を組む。先頭はオスカー卿。そしてアルノーが続き、姫様が同乗しているアウローラを中心にして他の竜騎士が取り囲み、殿は補佐役の第1騎士団の竜騎士が勤めていた。

その姿はどんどん小さくなってゆき、やがて目視では確認できなくなった。しかし陛下も皇妃様も南の空を見上げたまま、なかなか動こうとはなさらない。

「行ってしまったな」

「寂しくなります」

「そうだな」

 そんな会話を交わしながら、お2人は飽くことなく南の空を見上げていた。




 姫様が礎の里へ出立された後、俺の仕事も一区切りして休暇に入る予定になっていた。しかし、次の討伐期に向けた雷光隊の編成を決めたり、新しく立ち上げる竜騎士科の会議に呼ばれて意見を求められたり、更には第1騎士団の新人の鍛錬に携わったりして休暇を取れないまま秋を迎えていた。その結果、怒ったオリガはカミルを連れて「実家に帰ります」と書置きを残してアジュガへ行ってしまった。

「行き先がアジュガなのはオリガらしいな」

「笑い事じゃないですよ……」

 竜騎士科新設に関する会議後、アスター卿に誘われて彼の執務室に誘われた。オリガが家出した話はあっという間に上司達へも伝わっていて、どうやら慰めるために呼んでくれたらしい。本当は陛下もご一緒する予定だったらしいが、姫様が礎の里へ出立されて寂しがっておられる皇妃様を慰めるとかで北棟に帰られていた。

「オリガ1人なら決断しなかったと思いますが、ジーン卿に誘われて便乗させてもらったみたいです」

 ジーン卿も安定期に入ったことで悪阻が治まり、更にニコルが無事に高等学院へ入学したので、秋が深まる前にロベリアへ帰ることにしたらしい。その挨拶をしに我が家へ来てくれたらしいのだが、俺は急遽仕事が入ってオリガが対応してくれていた。

「家族で出かける予定だったのですが、受け持っている新人が問題起こして呼び出されたんですよ」

「あぁ、それは災難だったな」

 急に外出を取りやめたことで、いつになくオリガは怒っていた。数日前から準備に余念が無かったのだから当然の事だ。そこへジーン卿が訪ねて来て、オリガの愚痴に付き合ってくれた。多分、オリガとしては愚痴を聞いてもらえれば十分だったはずだ。

 しかし、ジーン卿はオリガにも気分転換が必要と考えたらしい。今回も船を使うからミステルまで送ると誘われ、オリガも勢いで同意した。それからすぐに荷造りを始め、俺がやらかした新人の後始末に奔走していた間に、レーナとカミルを連れて家を出て行ったのだ。それが10日程前の出来事だ。既に彼女達はミステルを経由してアジュガに着いている頃だろう。そして俺の悪口も広まっているに違いない。

「引き受けるつもりは無かったんだけどなぁ……」

 問題を起こした新人は元々デューク卿が受け持つ予定だったのだが、急遽ラヴィーネへおもむくことになってしまい、俺に話が回って来た。他にすることもあったし、俺は受けるつもりは無かったのだが、結果的に引き受けざるを得なくなって押し付けられてしまった。

「サイラスの情報によると、ミムラス家の当主殿が絡んでいるそうです」

「フリードリヒはレオナルトを保護したのが気に食わなかったのだろう」

 「騎士資格を失った者を更生できると豪語したのだから彼を任せても大丈夫でしょう」等と周囲に言っていたらしい。全く腹が立つ。受け持つことにはなったものの、直接指導する時間はあまり無い。シュテファン達ミステル駐留組は既に皇都を発っていたし、必然的に指導はラウルやコンラートに任せてしまっていた。

「結局、その新人は不適格としたんだったか?」

「そうです。資質もギリギリでしたし、相棒との絆も希薄でした。それにあれだけ指導して規律を守れないのでしたら竜騎士には不向きでしょう」

 義務付けた鍛錬に遅刻は当たり前で、姿を現さない日もあった。そして問題を起こした日は体調不良と偽って仕事自体を休み、恋人と出かけていた。しかもその相手は人妻で、出先で偶然その夫と鉢合わせしてしまったらしい。当然、大きな騒ぎとなり、休暇を取っていた俺の元へも連絡が来たのだ。

 ラウルだけでなく他の第1騎士団の大隊長からも賛同を得て、その新人は竜騎士資格を失った。自分で世話を全くしていなかったことから相棒としていた飛竜からも見放された。こうなると見習いからやり直すどころか兵団に移ることも出来ない。後はどこかの貴族の私兵として雇ってもらうくらいなのだが、採用されるかは微妙なところだ。フロックス家やミムラス家と肩を並べるほどの家柄の出だったらしく、猛烈な抗議を受けたが、くつがえる事は無かった。

 こんなこともあって見習いの教育機関となる竜騎士科の設立を急ぐことになり、来年から試験的にミステルで見習いの教育を始めることを正式決定していた。候補は既に絞り込まれ、近日中に公表される。これはこれで物議を呼びそうだ。

「まあ、後はこちらの仕事だ」

 俺は竜騎士科の試験運用の準備の名目で明日から当面の間ミステルに駐留することになった。とはいっても俺がすることはほとんどない。取り損ねた休暇の代わりだ。領地の仕事はあるが、基本的にのんびり過ごすことが出来る。

「もしかしたらお前の方へ何か言ってくる輩がいるかもしれないが、陛下がお決めになられた事だと言ってやれ」

「分かりました」

 試験運用とはいえ将来を約束されたようなものだ。自分の身内を候補に入れる様に圧力をかけられる可能性もあるので、その騒動からの避難も兼ねている。1カ月ほどのんびりさせてもらえれば、その間にアスター卿が周囲を納得させておいてくれるらしい。

「余計な仕事ばかりさせて悪かった。ゆっくりしてきてくれ」

「ありがとうございます」

 酒も勧められたが、明日は早くに出立する予定なので断って席を立つ。ともかく、早く家族に会いたい。俺はアスター卿の執務室を辞すると、家路についた。



結婚して初めての大きな夫婦喧嘩。

思いの外ルークは落ち込んでいます。

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