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群青の軌跡  作者: 花 影
第5章 家族の物語
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第27話

遅くなってすみません。

今回は話の展開が難しかった……。

 マルモアを出立したが少し遅れたので、皇都に着いたのは昼を過ぎていた。俺もだけどみんな疲れていたらしく、起きるのが遅くなってしまったのだ。ユリウスもそんな俺達を気遣ってくれて、ゆっくり休ませてくれていた。

「お帰りなさい」

 本宮の着場で出迎えてくれたのは、アルノーと教育部隊の5人だった。まだ休暇中だったが、示し合わせたわけでもないに俺達の帰還に合わせて皇都に集まったらしい。

「何か変わったことは?」

「この10日程、北方と慌ただしくやり取りがありました」

「……」

 絶対、あの若様のやらかしの一件で間違いない。10日前ならハーゲン卿は事件が起きてすぐに報告したことになる。迅速な行動に感心する。

「アスター卿が執務室へ顔を出していただきたいそうです」

「分かった」

 隊員には改めて明日の昼に集まる様に念押しして解散を言い渡した。1カ月ぶりの皇都。家族に会いに行く者、宿舎でごろ寝を決め込む者、それぞれだ。遠慮しそうだったので、レオナルトには婚約者へ会いに行くようにうながしておいた。それぞれ散っていく隊員達の背中を見送った俺はいつも通りラウルとシュテファンをともなってアスター卿の執務室へ向かった。

「ただいま戻りました」

「お帰り」

「お疲れ」

 アスター卿は今日も机で書類と格闘していた。そして来客用のソファーには優雅にお茶を飲んでいらっしゃる陛下の姿があった。ラヴィーネの報告書を提出すると、アスター卿は顔を顰めた後、先に座っているように勧められた。しかし、座ったのは俺だけで、ラウルとシュテファンはまだ陛下と同席するのに抵抗があるらしく、壁際に控えていた。

「大変だったらしいな」

「そうですね」

 総団長付きの侍官が俺にもお茶を用意してくれる。多分、お高い茶葉なのだろう。とても香りが良くてすごく美味しい。

「近々、ラヴィーネに監察官を送る」

「勅命ですか?」

「そうなるな」

 勅命という事は、送り込まれるのはグラナト補佐官が鍛え上げた財務や法令の精鋭達だ。カルネイロの残党事件で実績のある彼等なら、ラヴィーネの有力者達の悪事を過去も含めて白日に晒すのも容易いだろう。

「シュタールでの反省も踏まえ、対象者の処罰が終わるのを見届けてから帰還させるつもりだ」

 カルネイロの残党事件の折は、調べ上げた後は第2騎士団に処分を委ねていた。しかし、陰で賄賂や恐喝が横行し、正しく処罰が行われなかった為、昨年の不幸な事件にも繋がってしまった経緯があった。陛下は本気でラヴィーネの有力者達を殲滅するつもりらしい。

「ハーゲンなら心配ないだろうが、念のために第1騎士団からも竜騎士を送って駐留させる」

「雷光隊から出しますか?」

「心配するな。デュークが行ってくれることになっている」

 やっと帰って来たのにまた引き返すのかと思っていたら、俺の危惧を察した陛下が否定して下さった。

「ラヴィーネ行きは完全に予定外だったのにやり遂げてくれた。雷光隊は良く動いてくれるから、私も働かせすぎているという自覚はある。討伐期まではゆっくりしていていい」

「分かりました」

 陛下のお言葉にホッとして頭を下げる。鍛錬を怠る訳にはいかないが、それでも家族と過ごす時間は十分にとれる。仕事との折り合いがつけば、みんなでアジュガへ行ってくる時間も取れるかもしれない。

 陛下との話が終わったところで、仕事が一区切りしたらしいアスター卿もソファーに移動してきた。目が疲れたらしく、目頭をほぐす様に揉んでいる。今でもあの発作のような頭痛は時折起きているらしく、書類に目を通す時は休憩を入れながらの作業だと聞いている。

「レオナルトはどうだった?」

「頑張っていました。まだまだですけどね」

 ほとんど皇都から出たことが無い彼からしてみれば、今回のラヴィーネ演習は相当きつかったに違いない。しかも今までの常識を全てひっくり返されたようなものだ。皇都に戻ってきてホッとしたところで疲れが出て、数日寝込むこともあり得そうだ。その後、続ける勇気が持てるか、挫折するかで彼の今後が変わって来る。

「ミムラス家の事は聞いたか?」

「はい」

「念のためだがお前の留守中、オリガとカミルは北棟に滞在してもらっていた。ここが終わったら迎えに行ってやれ」

「ありがとうございます」

 北棟に居たのなら、カミルも寂しくなかっただろう。しかもイリス夫人にも声をかけて子供と一緒に滞在していたので随分と賑やかだったらしい。陛下のお心遣いに感謝して俺とラウルは頭を下げた。

「一番いいのはレオナルトの勘当を解いて元に戻るのが一番いいのだろうが……」

「フリードリヒは頑固だからな。彼の方から折れることは無いだろう」

 ため息と共にアスター卿と陛下が愚痴をこぼす。お家騒動に巻き込まれたくない俺としても、このままカミルの存在に気付かないでいてもらいたいと切に思う。




「それから教育部隊の事なんだが……」

「何か問題でもありましたか?」

 アスター卿が何やら言いにくそうに切り出してきた。これには壁際で不動の体勢を取っていたシュテファンも身じろぎをする。

「いや、彼等はよく頑張っている。だからこそ各騎士団からの圧力が凄くて対応に困っている」

「私の方には騎士団関係者以外からの陳情が寄せられている」

 陛下もアスター卿もお困りの様子が伝わって来る。しかし、だからと言ってそう簡単に受け入れられる訳ではない。

「本当に無理ですよ」

「分かっている。本来なら各団で必要な人材を育てていくのが我が国の在り方だ。しかし、不祥事が明るみになる度にそれを見直そうと言う意見が多くなっている」

「……」

 他国では竜騎士専門の学院を作っている所もある。対象は貴族が主になるが、必要な技能が一貫して学べる利点がある。育成する人数が少なければ可能な方法だ。

 しかし、討伐期が長いわが国では必要とする人員の数がそう言った方法を取っている国の数倍になる。その候補者も含めると一所に集まること自体に無理がある。だから各騎士団で必要な人員を育てているのだ。

「ヒースが頼んでいた事を覚えているか?」

「ミステルでご子息を預かってほしいとのことでしたね」

「今の教育部隊の期限が終わる来年からでいい。ヒースの息子を含め、見習い候補の子弟を何人か預かってほしい」

 陛下のお願いであれば即答で引き受けたいが、答えに詰まる。ミステルの砦には多くの職人も滞在してくれているが、広さ的にはまだまだ余裕がある。しかし、余裕があるからと言って一度にそんなに沢山の子供を受け入れるのは難しい。そしてその期間が長ければ長いほど負担は大きくなる。

「俺1人では無理です」

「分かっている。優秀な竜騎士を育成のためだけに使うのもおかしな話だろう。講師として一線を退いた竜騎士経験者に声をかける予定だ。ブロワディに責任者を務めてもらい、後は指南役にエルフレートも考えている。ルークも空いた時間でこれまでの経験を子供達に伝えてくれると助かる」

 ブロワディ卿とエルフレート卿が来て下さるのなら心強い。

「期間は半年から1年を予定している。一度に引き受ける人数はそれほど増やさないつもりだ。飛竜との接し方、心構え等、基本的な事を学んだら後は各騎士団へ見習いとして配属する形にしようかと考えている」

「今後のこの国の為、ルークにはその経験とミステルの土地、そしてその知名度を貸して欲しい。もちろん経費は国がもつ」

 これまでも陛下とアスター卿は何度も議論を重ねてきたのだろう。2人の口調は次第に熱を帯びたものになっていく。

「今、ミステルには孤児院で保護した子供の1人をギード爺さんに預けています。そして今年春には領内に住んでいる3人の子供に資質があると分かり、声をかけている段階です。そんな子達も一緒に学ばせることは出来ますか?」

「勿論だ」

「今後も見込みのありそうな子を連れて来ることがあると思います」

「条件を付けるかもしれないが、いいだろう」

 壁際に視線を向けると、ラウルもシュテファンもうなずいている。問題は無さそうだ。だが、今、この場で返事は出来ない。やはりオリガやアヒム、ガブリエラ等、みんなの意見も聞いておきたい。

「分かりました。領内に持ち帰り、検討したいと思います」

「そうか。いい意見が出たらまた教えてくれ」

 即断しなかったことに陛下は落胆されるかと思ったが、俺の答えはどうやら想定しておられた様だ。アスター卿も異論はないらしく、この話はこれで終了となった。

 その後は改めてラヴィーネでの報告を2人にしてアスター卿の執務室を後にした。ユリウスに聞かれたような次の総督の推薦までは尋ねられなかったので、内心ほっとしたのはここだけの話だ。





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