表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
群青の軌跡  作者: 花 影
第5章 家族の物語
186/245

閑話 アルノー2

 夏至祭初日の夜会で俺は大勢の女性に囲まれていた。雷光隊の長衣をまとっているとよほど魅力的に思えるのか、コンラートや婚約者がいると周知されているシュテファン卿にも集まっている。

 でもそんな雷光隊の面々よりも今日の飛竜レースで1位帰着を果たしたティム卿は身動きが取れないほど女性が集まってきていた。彼を取り囲んでいる女性の中には我が国で有名なあのエルネスタ嬢の姿もある。確か、4年前に俺が2位帰着を果たした時には、俺が彼女に言い寄られた記憶がある。

 それにしても不毛な争いだ。少しでも自分が優位に立とうと、互いにけん制しあって他人よりも優位に立とうとしている。醜い争いだと思わないのだろうか? 俺はそっとため息をつくと、少し離れた場所に居る男女に視線を向ける。

「まさか、アイツだったとはねぇ……」

 そこに居たのは、大公家の令嬢に相応しい礼装に身を包んだジークリンデ卿とお見合い相手らしいバルトルト卿の姿があった。彼は俺が昔仕えていた若様の友人の一人だったのでよく知っている。まあ、確かに家柄は悪くはない。だが、何事も自分よりも格が上か下かで判断する人だ。だから出世された隊長の事を……延いては雷光隊の事を良くは思っていないと聞いている。

 旧第2騎士団では一番武術に長けているとかで、明日の武術試合に参加する予定だ。だが、彼の腕では入賞すら難しいだろう。それなのにキリアン卿が出場を許したのは、あまりにも周囲の助言を受け付けないため、現実を突きつける為に許可したかららしい。彼には是非、優勝候補と言われているオスカー卿かティム卿に当たって力の差を思い知って欲しいものだ。

 そんな男に話しかけられてジークリンデ卿は俯き加減に応えている。憂いを帯びた表情に胸が痛む。最初の頃は何を話していいか分からなかったが、護衛を兼ねて傍に居るようになってからは会話も増えた。先輩竜騎士として助言を求められる事が多かったが、意外と趣味が似通っていて会話が弾むようになった。そして討伐期が終わる頃には一緒にいて居心地が良い相手となっていた。

 ただ、相手は大公家の御令嬢。自分では不釣り合いだと意識しないようにしていたのだが、今回の縁談を聞いてどうにも心がざわついている。そして相手があの男だと知り、悔しさが募っている。そこでようやく自分がジークリンデ卿に惹かれている事を認めた。

「アルノー、退出される姫様の護衛に加わってくれ」

 女性に囲まれて逃げられない状態から現実逃避をしていると、遅ればせながら隊長が救いに来てくれた。ありがたい。仕事がありますのでと丁寧に断りを入れてからその場を離れた。




 隊長から頼まれたのは保育室に面した中庭一帯の人払い。北棟の敷地内にあるので、普段は招かれた人以外は入ってくることが出来ない場所ではあるが、このような大きな夜会の折には酔った客が間違えて入ってきてしまうことも考えられる。コンラートや後輩の雷光隊員達と合流して入念に見て回った。どうやら不審者もうっかり入り込んだ人もいない様だ。

 更に周囲を警戒して誰も入って来ないように目を光らせていると、先ずは姫様を中心とした華やかな一団が通り過ぎ、それからほどなくして隊長がティム卿を連れて中庭に入って行かれた。時期尚早ということで婚約は発表されていない恋人同士のつかの間の逢瀬の時間だ。

「この様なところで如何されましたか?」

「ちょっと、道に迷ってしまいましたの……」

 それからほどなくして中庭に近寄って来る女性がいたので、声をかけてみるとあの、エルネスタ嬢だった。しおらしくふるまっているが、これは絶対ティム卿を追いかけて来たに違いない。ちょっと心細そうにふるまっているが、これは演技なのを俺は知っている。これにひっかかり、この女にもてあそばれた若い竜騎士も多い。

 広間へ戻る道順を分かりやすく教えてさっさと追い払おうとしたのだが、この中庭を散策して帰ると言い出した。ご丁寧に上目遣いをして俺におうかがいを立てて来る。心の中では傍によって来るなと思いながら、勤めて冷静に皇家の私的な空間だと告げてお引き取り願った。

「はぁ……」

 静寂が戻ると、つい考えてしまうのはジークリンデ卿の事だ。着飾った彼女の姿は美しく、だからかえって憂いを帯びた表情に胸が締め付けられた。笑っていて欲しい。出来れば自分の側で。あんな奴にはもったいない。

 だが、自分はどうだろうか? 竜騎士としては多少名が売れているが、実家は下級貴族だ。5大公家の令嬢とは釣り合わないのは確かだろう。それでも自分の気持ちを自覚してしまった今では、もう諦めることは出来なかった。今回の見合いはどうしても断れないと彼女は言っていた。このままこの縁談を進めることになるのだろうか? 胸が痛い。

 そんな事をグルグルと考えていたら、隊長がオリガ夫人と庭園を散策している姿が目に入った。仲睦まじいご様子が何だかうらやましい。だがお2人供、一言では言い表せない苦労を共に乗り越えている。自分の悩みなどちっぽけなものだが、何かいい助言を頂けるのではないかと思ったら、体が自然と動いていた。

「どうした? 何かあったか?」

「いえ、個人的な事なんですが……」

 勢いのまま飛び出してきたが、果たして隊長に聞いて良いものだろうかとこの期に及んでためらってしまった。それでも思い切ってジークリンデ卿が縁談を受けるかどうか聞いてみた。当然、隊長に分かるはずはなく、「わからない」という答えが返って来た。

「彼女が縁談を受ける、受けないの話をする前にお前はやることがあるだろう?」

 そして呆れたようにそんな事を言われる。確かにまだ自分の気持ちは伝えていない。だが、彼女とは釣り合わないのではないかと答えると、内乱前と価値観は違うから自信を持てと言われた。

「ともかく、お前が行動を起こさないと始まらないぞ」

 そう言われてすぐに行動に移そうとしたが、まだ仕事中だと止められた。確かにそうだった。はやる気持ちを抑えながら、ティム卿と姫様の逢瀬が終わるのを待つしかなかった。

「もういいぞ」

 宿舎へ帰るティム卿を伴った隊長から許可が出ると、俺は急いで広間に戻った。しかし、そこには既にジークリンデ卿の姿は無かった。皇妃様が退出されてすぐにリネアリス公夫人と共に退出されたらしい。その為、俺の気持ちを伝えることは出来なかった。




 俺の願いがかなったのか、翌日の武術試合、バルトルト卿の最初の相手はティム卿だった。自信満々な様子だったが、ティム卿の初撃を受けて失神し、あえなく敗北。医務室へ運ばれていた。

「よしっ」

 その様子を貴賓席の警備をしながら見ていた俺は、小さく拳を握りしめていた。心の中でティム卿に感謝するのも忘れない。後で何か驕ろう。

 そして武術試合は順調に進み、決勝は大方の予想通りオスカー卿とティム卿の戦いとなった。長時間に及ぶ激しい応酬の末、決着がつかないと判断された陛下が両者引き分けの裁定が下された。

 夜はこの国で最も格式の高い舞踏会が開かれる。前日同様、俺達はまたうら若い女性達に囲まれる事になるはずだったのだが、昼間に起きた事件のおかげでそれが回避できた。

 武術試合の決勝前の休憩の折に礎の里から来たディーターという神官が姫様に接触してきた。困ったことがあれば、礎の里に居る彼の息子を頼って下さいという内容で、親切心から出た言葉とも言えなくもない。だが、息子を使って将来フォルビア大公に就かれる姫様をその財産ごと手に入れようとする野望が見え隠れしている。

 この舞踏会において俺達雷光隊に与えられた使命は、ディーターの監視と姫様との仲が噂されているティム卿の安全の確保だった。俺はディーターを監視しているシュテファン卿の補佐を命じられていたのだが、今は舞踏会が始まる前にディーターが接触していた竜騎士を監視している。

 彼は昨日の飛竜レースで2位帰着を果たしたレオナルト卿。ティム卿に負けて随分と悔しそうだったと言う話もきいている。何か企んでいる気配がしたので、俺とドミニクがその監視を任されていた。

「それにしても、どこへ行く気だ?」

 レオナルト卿は小隊を率いていた。本来、舞踏会会場の警護をしなければならないはずの彼等は、何故か大広間から離れて西棟へと入っていた。そしてこの先にあるのは医務室だが、一体そこへ何の用があるのだろう? そう思いながら様子をうかがっていると、レオナルト卿はけが人が休んでいるはずの部屋の扉をバン!と大きな音を立てて乱暴に開けた。

「きゃあぁぁぁ!」

 女性の悲鳴が聞こえ、駆け付けた俺とドミニクが目にしたのは正に女性と同衾中のバルトルト卿と何故か固まって動けないでいるレオナルト卿だった。先程の悲鳴を聞きつけて野次馬も集まってきている。唯一の救いは大広間からは離れているので、この騒ぎはまだあちらには伝わっていない事だろうか。それにしても……どうするんだ、これ。



アルノー視点、次で終われると良いのですが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ