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群青の軌跡  作者: 花 影
第5章 家族の物語
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閑話 侍女見習3人娘

ヤスミーン


 近所に住んでいたお兄さんが竜騎士になって、たくさん手柄も立ててこのアジュガのご領主様になった。でもルークさんはえらい人になった感じはしなくて、今でも姿を見かければ気さくに声をかけてくれる優しいお兄さんだ。

 私は昔から、帰省の度に聞かせてくれる町の外のお話が大好きで、いつか自分でも町の外へ行ってみたいと夢見る様になっていた。ただ、現実は厳しい。この町は山の中にあって、隣の町へ行くのも一苦労。たいていの人がこの町から出ることなく生涯を終えている。

「奥様の専属侍女候補ですか?」

 そんなある時、私に転機が訪れた。ご領主様となられたルークさんの奥様の専属侍女を決めることになったらしい。ただ、ご領主様も奥様のオリガ様も本宮にお勤めしているので普段は皇都で過ごされるし、アジュガとの行き来は自然と飛竜となる。その為、順応力の高い若い子から選ぶ事になったらしい。領内の成人前の女の子の中から候補を選び、礼儀作法などを学び、成人する頃を目安に正式に侍女として雇う計画だとお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが教えてくれた。

 カミラさんご夫婦が事件に巻き込まれて亡くなられ、町全体が悲しみに暮れる中、ご領主様はご家族の為にアジュガで過ごされていた。そして討伐期が始まる秋までの間、私と同じ年代の女の子達は幾度か奥様のお茶会に領主館へ招かれていた。

「レーナです。よろしくお願いします」

 秋の初め頃、新しい子がお茶会に加わった。話を聞いてみると、ミステルの孤児院から来たらしい。それを聞いた参加者の反応は様々だった。明らかに見下していた子もいたし、表面上は親しくするそぶりを見せて陰で悪口を言っている子もいた。親友のモニカと私は町の外の話を聞きたくて、お茶会以外でも話をするようになっていた。

 後から聞いた話では元々レーナを侍女として育てる予定だったらしく、このお茶会で彼女が孤児院出身でも関係なく接する子がいるかどうかを見ていたらしい。私とモニカがレーナと親しくしているのを見て、侍女見習にとお声をかけて頂いたのだ。

「レーナ、ヤスミーン、モニカ、覚えることが沢山あって大変だけれど、どうぞよろしくね」

 侍女見習に選ばれた私達に奥様は優しく笑いかけて下さり、当面の間指導して下さるガブリエラさんを紹介して下さった。ビレア家の家令のサイラスさんの奥さんで、貴族の家柄の出身らしい。

「鍛えがいがありそうで楽しみだわ」

 ガブリエラさんの笑顔が何だか怖い。結局冬の間、彼女の下で私達はみっちりと一般教養と礼儀作法を仕込まれたのだった。あの厳しさは今思い出しても身震いする……。



レーナ



 春が終わる頃、奥様と共に私達侍女見習の3人は皇都へ向かうことになった。例年であれば飛竜で移動されていたのだけど、今回は同行者が多いので船での移動となった。隣のミステルの町までは飛竜が何度も往復して人と荷物を運び、そこから川船の桟橋まで移動して船に乗り込み、皇都へ向かう手筈になっているとガブリエラさんから説明を受けた。

「カイ兄、久しぶり」

「おう」

 ミステルの着場で久しぶりに顔を合わせたカイ兄に声をかけると、そっけない返事が返って来た。仕事中だったから迷惑だったのかもしれない。小さな声で謝ってからその場を離れた。

「あの人がレーナの言っていたカイさん?」

「ちょっと、無愛想だったね」

「仕事中だったから迷惑だったのかも」

 一緒に来たモニカとヤスミーンに興味津々と言った様子でアレコレ質問される。2人は私がミステルでどんな暮らしをしていたかを話していて、私が居た集団の頭目をしていたのがカイ兄だとも教えていた。それなのになぜだか彼女達は私達の仲を勘違いし、恋物語の主人公に当てはめて妄想を膨らませて楽しんでいる。でも、まあ、久しぶりに会ったカイ兄はたくましくなっていて、ちょっとかっこいいと思ったけど。

 それから桟橋へ船が到着するまでの数日間はミステルに滞在した。各地から集まっている職人達の仕事を見学させてもらったり、孤児院へみんなに会いに行ったりして過ごした。その間、避けられているのか、カイ兄と会えなかったのは少し残念だった。

 諸々の準備が整い、皇都へ向かう日が来た。みんなで桟橋に移動すると、大きな船が停まっていた。私だけでなく、モニカもヤスミーンもこんな大掛かりな旅は初めてで、皇都だけでなく途中で止まる予定の町の事を本で調べてとても楽しみにしていた。

 しかし、現実は甘くは無かった。今回、同行する子供達の数が多く、私達は旅に浮かれる暇もなく、その子達のお世話に奔走したのだった。

「うわぁ……。すごい人」

 道中は大変だったけど、それでも無事に皇都に着き、今度は馬車で旦那様のお屋敷に向かった。窓の外に見える皇都の第一印象は「人が多い」だった。アジュガやミステル、途中で立ち寄った他の町でもこんなに沢山の人を一度に見たことは無かった。そして背の高い壮麗な建物が立ち並ぶ様は圧巻で、私達は窓の外の景色に夢中になっていた。

「身を乗り出すなよ?」

 馬で並走して下さっていた旦那様に注意していただかなければ、本当に落ちていたかもしれない。言われた通りに大人しく席に座ったけれど、それでも窓の外は気になって仕方がない。また、そのうちに町へ出られる機会を作って下さると言うので、それを楽しみにすることにした。

「立派なお屋敷……」

 旦那様のお屋敷は想像以上に大きくて立派だった。アジュガやミステルの領主館は砦と一体となったどこか武骨な外観だけど、皇都のお屋敷は本当にお屋敷と呼ぶにふさわしい外観をしていた。

 私達は唖然としてそのお屋敷を眺めていた。傍から見れば多分、ものすごく間抜けな顔をしていたに違いない。



モニカ



 皇都での生活は、思った以上に大変だった。物珍しさは最初の内だけで、出歩くたびに感じる人の多さに辟易し、更にはお財布まで盗まれそうになってつくづく自分には都会が向いていないのだと実感した。今更ながらに旦那様から「皇都は怖い所」と言われた理由が良く分かった。

 でも、レーナは違った。私やヤスミーンと違って道に迷わないし、町の中での危険を良く知っている。私のお財布を守ってくれたのも彼女だ。ものすごく感謝したのだけど、彼女は複雑そうだった。

「レーナはすごいね」

「……私が悪い子だとはおもわないの?」

 私もヤスミーンも彼女が孤児院に保護されるまで何をしていたかは聞いている。親に捨てられて、子供達だけで生きていたなんて本当に悲しすぎる。一緒に聞いていた家族と共にみんなで号泣してしまった。

 話を戻すけど、過去に泥棒をしていたのかもしれないけれど、そうしないと生きていけなかったのだし、もう悪い事だと分かっているのだから彼女を責める事なんてできない。旦那様や奥様の言葉を借りれば、子供達をそんな境遇に追いやった先の領主が悪い。そう伝えると、彼女は泣き出してしまった。多分、ずっと不安だったのだろう。

 そんな事があってから私達は益々仲が良くなった。だけど、私とヤスミーンは町中へ出かけるのが怖くなってしまった。リタさんと一緒に近所への買い物は行けるけど、お休みの日に出かけようとまでは思わなくなったのだ。だけど、このままでは奥様の専属侍女を続けることは難しく、辞退しようかと考えていた。そんな私達にサイラスさんがある提案をしてきた。

「ヤスミーン、モニカ、ミステルの領主館で働きませんか?」

 サイラスさんとガブリエラさんの話では、近い将来領内の中枢をミステルに移し、アジュガは旦那様がご家族と私的に滞在する場所にするらしい。今後は来客などの対応はミステルで行っていくため、そちらの人員を増やすのが急務になっているそうだ。

「私達でもできるでしょうか?」

「もちろん、今すぐと言う訳ではないわ。まだまだお勉強と経験が必要だけど、それでも近い将来、中心的役割を果たせるようになるでしょう」

 ガブリエラさんがそう言ってくれたことで私達の気持ちは固まったけど、一緒に頑張って来たレーナには何だか申し訳ない気持ちになる。でも、一緒に話を聞いていたレーナは逆に私達の背中を押してくれて、ミステルで頑張る事を決めた。

 そして夏至祭が終わり、旦那様のご両親とアジュガの文官として勤めることになるガブリエラさんに私達、そしてカミル坊ちゃまの乳母を勤めていたビアンカさんも契約期間を終えたので一緒に帰ることになった。

 そして皇都を離れる前日、旦那様が盛大に送別会を開いてくれた。私達使用人にも参加を許してくれたので、ご馳走を食べながら3人でおしゃべりをして過ごした。今までの思い出を話していればあっという間に時間が経っていた。その日はちょっと狭かったけど、3人で同じ寝台に潜り込み、眠る前まで話をした。




「元気でね」

「手紙書くね」

 翌日、皇都の桟橋まで見送りに来てくれたレーナと最後にそう約束して船に乗り込んだ。壮麗な建物が立ち並ぶ皇都がどんどん遠ざかっていく。憧れていた場所だったけど、離れることに不思議と寂しさは感じなかった。




おまけ カイ



「カイ兄、久しぶり」

 そう声をかけられて振り向くと、綺麗な女の子が立っていて驚いた。一瞬誰か分からなかったが、俺の事をそう呼ぶのはレーナだけだ。直視できなくてそっけない返事しかできなかった。

それを見ていたギード爺さんに「ヘタレじゃのう」と言われて落ち込んだのは言うまでもない。





レーナの話を書こう思っていたら、結局、何の脈絡もない話になってしまった。

次はアルノーのお話の予定

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