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群青の軌跡  作者: 花 影
第5章 家族の物語
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第17話

 話が一段落したところで、アレス卿はパラクインスの様子を見に行くと言われて執務室を退出され、陛下はアスター卿の執務机を借りて急を要する書類の決裁を始められていた。そこで俺達は何のために集まったかをようやく思い出す。

「ティムの抜けた穴はどうする?」

「ケビンの隊がシュタールへ行っちまったからそこも考慮してほしい」

 皇妃様が無双しておられた間は黙って控えていたリーガス卿が切実に訴えると、それにヒース卿も同調してうなずいていた。

「それなりの人員は派遣したはずですが?」

「鍛えろってことでしたが、使い物になるのは果たしていつになるやら」

 昨年の不幸な事件を受けて、第2騎士団から第3騎士団へ配置換えになった竜騎士も居るのだが、リーガス卿やヒース卿が求める働きが出来ていない。当初は自信満々で来ていたはずなのだが、訓練の段階で挫折して配置換えを願っている状態らしい。

「即戦力を頼みます」

「そうは言われても……」

 リーガス卿の要求にアスター卿は困った様子で俺を見る。いや、全部俺に丸投げするのはやめて欲しいのですが……。

「この夏はラヴィーネに行くので、ロベリアまでは手が回りませんよ」

「コンラートだけでも貸してくれないか?」

「この場で返答は致しかねます」

 コンラートは元々第3騎士団に所属していたので、ティムの抜けた穴を十分に埋められるだろう。しかし、うちの貴重な隊長格だ。シュテファンに教育部隊を任せている現状で、更に隊長格に抜けられるのは非常に困る。

「まだ代わりににはならないかもしれませんが、第3騎士団に見習い候補を1人預ける予定です」

「ほう……。お前がそう言うと言う事は将来有望か?」

「資質だけ言えばティムに匹敵するかと」

 俺の答えにその場にいた全員が目を見張る。書類に目を通していたはずの陛下も手を止めてこちらの様子をうかがっている。

「ミステルの孤児院に保護した、子供だけのスリ集団の元頭目です。ティムに比べると何かと足りない部分が多いのですが、現在はギード爺さんに預けています」

「なるほど。第3騎士団でいいのか?」

「はい。彼の立場だといきなり皇都へ連れてくるのも難しいでしょうし、ケビン卿には申し訳ないけど俺はまだ第2騎士団を信用できません。第3騎士団なら彼の能力を十全に引き出してもらえると考えました」

「良いだろう。だけど、コンラートの事は考えておいてくれ」

「他の隊員と要相談ということで」

「仕方ない」

 何しろ雷光隊は引く手あまたで予定が詰まっている。俺の一存でも決められないし、一旦持ち帰らせてもらう事で落ち着いた。リーガス卿の要望に応じられるかどうかはまた別問題だが。

「見習い候補をルークに見繕ってもらうのも手だな」

「体がいくつあっても足りませんよ」

 アスター卿が恐ろしい事を言い出す。さすがにそれは無理だ。

「それなら、うちの坊主を鍛えてもらおうか」

 ヒース卿までそんな事を言い出す。父親同様、フロックス家の兄弟は優れた竜騎士の資質を持っている事が判明している。上の2人は竜騎士になるために勉強中で、特に長男は近々見習い候補として第1騎士団に迎えられる予定になっていた。

「竜舎の係員の候補たちと一緒にギード爺さんから飛竜の扱い方を習わせているだけなんですが?」

「それでも構わないさ。今回問題を起こしたレオナルトを見ていると、世の中の事をもっと教えておいた方が良いような気がしてきてな」

 ヒース卿の懸念はなんとなくわかるから強くは断れない。かと言って独断で決められるものでもなかった。

「長期間でなくてもいいから、考えておいてくれ」

 俺の葛藤を理解してくれたのか、ヒース卿はそう言って話を終えた。まあ、でも、限りなく受諾の方向へ話がまとめられている気がする。

「ルーク、追加で依頼したいのだが、ジークリンデをコリンの護衛に加えたい」

 話が一段落したところで、今度は陛下が横から口を挟まれる。夏至祭の間、護衛に付いていた彼女の事を皇妃様がどうやらお気に召し、是非にと言われていたらしい。

「留学の間中ですか?」

「いや、礎の里に着くまででいい。それでも向こうには半月は滞在することになるだろう」

 姫様の護衛はオスカー卿が既に決まっているが、やはり女性の護衛も必要になる。強いだけでなく教養も礼儀作法も兼ね備えている所も重要らしい。

「当人に打診しておきます」

「出来ればお前の隊からもう一人出してくれ。昨年の国主会議に同行したものの中から選んでくれると助かる」

 陛下からの無茶振りはさすがに断り切れない。これも持ち帰って要相談だ。それにしても持ち帰って検討することが多すぎる。この分だと、明日も苦手な会議で1日が終わることになりそうだ。




 それからほどなくして、パラクインスが手が付けられないくらい暴れていると応援要請が来て会議はお開きになった。すぐに向かおうとしたのだが、目を覚まされた姫様と無事に話し合いを終えたティムが対応してくれるらしい。まあ、念願のブラッシングを受けられるのだから、俺は自分の仕事を優先してもいいだろう。

「お疲れ様です、隊長」

 雷光隊の詰め所には幹部に当たるラウルとシュテファン、コンラートとアルノーが待っていた。他の隊員は暴れたパラクインスを抑える手伝いに行っているらしい。

「悪い、待たせた」

「いえ、予定外の事が起きたと聞き及んでおります」

 姫様の暴走の件はかん口令を敷いたが、彼等には無意味だったようだ。まあ、でも彼等は口が堅いので、情報を漏らすような真似はしないだろう。

「ラヴィーネ行きとレオナルトの件は全員に通達してあります。皆の意見をまとめたうえで仮の予定を立ててみました」

「無理に全員で行かなくてもいいではないかとの意見もありましたが、北方に行く機会は少ないので、全員で体験した方が良いだろうという結論に達しました」

 ラウルが代表して仮に作成した予定表を差し出し、シュテファンが口頭で捕捉する。ラヴィーネには1カ月の予定で向かい、その間は教育部隊は休暇とする。そして帰還後は俺達も秋までの間交代で休みを取ると言う大雑把なものだった。予定表には休みの順番と共に俺の護衛という当番まで書かれている。

「早速で悪いが、予定変更だ。皇妃様のご指名でジークリンデが姫様の護衛に加わることになった。後、雷光隊から昨年国主会議に同行した隊員も1人加えて欲しいと陛下から要請があった」

「でしたら……自分とアルノー、コンラート、ドミニクの中から選ぶことになりますね」

 ラウルが国主会議に同行した人員の名前を上げていく。緊急の連絡の為にシュテファンも礎の里に来たが、彼は教育部隊の責任者を任せているので除外となる。

「後、リーガス卿から抜けたティムの穴を埋めるのにコンラートを貸してくれと要請があった」

「俺ですか?」

 古巣からの急なご指名にコンラートは戸惑いを隠せない。

「それは困りますね」

「雷光隊から出すのは確定ですか?」

「答えは保留にしてきたが、断るのは難しい」

 ラウルもシュテファンもリーガス卿やヒース卿を相手に交渉する難しさは心得ている。一様に渋い表情を浮かべ、何やら思案する。

「ローラントを指導役に教育部隊から2人付けてロベリアに行かせますか?」

「訓練の一環とすればいいか……。納得してくれるかどうかわからないが、これで提案してみよう」

 妥協案を絞り出したのはシュテファンだった。小隊長としての経験を積ませるために、アルノーとコンラートに今年から専属の部下を付けて活動させることを決めていた。それもあってコンラートを第3騎士団へ貸し出すのを避けたかったのだ。ティムがいくら優秀でも上級騎士になったばかりの彼と隊長としての経験を積んでいるコンラートとではつり合いがとれないと言うのもある。

「レオナルトはどうしますか?」

「俺が預かる」

 4人は既に彼が更に騒動を起こしたことを知っていて、俺の出した結論に顔をしかめている。

「今回の事、彼の父親が知れば彼は間違いなく勘当される。自業自得だが、その資質を捨ててしまうのはあまりにも惜しい。これをきっかけに聞く耳を持つようになってくれるのであれば、優秀な竜騎士を失わずに済む」

「できますかね?」

「まあ、何とかなるだろう。その為の根回しもしてくれることになっている」

 俺の答えに他の4人は半ばあきらめたようにため息をついてから了承してくれた。その後にヒース卿の息子を預かることになるかもしれない事を伝えると更に呆れられた。それでも偉大な先輩方に逆らえない心情は理解してくれた。

 そこまで報告が終わったところで、パラクインスのブラッシングを終えたティムとその手伝いに行っていた隊員達が戻って来た。話の続きを進めてもいいのだが、今日は教育部隊員が揃っていない。明日の朝の鍛錬後に改めて集まり、俺が持ち帰った話を詰めることにした。

「ああ、そうだ、シュテファン」

「何でしょう?」

 解散しようとしたところで、用事を一つ思い出してシュテファンを呼び止める。

「明日、午後から休みを取ってフリーダと過ごせ」

「は?」

「元気づけてやれるのはお前だけだろう? 朝の会議は大方決まっている方針を伝えるだけだし、1日休んでもいいぞ」

「いや、ですが……」

「彼女も留学にお供するのだろう? 少しでも一緒に居る時間を作った方が良い」

 俺の提案にシュテファンは狼狽しながら反論しようとしたが、他の隊員の強力な後押しもあって、明日は1日、彼は休みを取ることが決定した。これでフリーダが元気になってくれるといいのだが……。

 その後はティムをともない、北棟へオリガとカミルを迎えに行って帰宅した。ティムを連れ帰ることが決まった時点でサイラスに連絡を入れていたので、母さんとリタが張り切ってご馳走を作って待ってくれていた。その夜は1日遅れてティムの活躍を家族みんなでお祝いしたのだった。





なかなか話が進まない……。

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