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群青の軌跡  作者: 花 影
第5章 家族の物語
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第14話

 舞踏会の翌朝、腹への軽い衝撃と共に目が覚めた。目を開けると、腹の上に満面の笑みを浮かべたカミルが乗っていて、俺の頬をペチペチ叩いている。そして寝台の傍らにはサイラスが立っていた。窓から差し込む光から、いつもよりは少し遅い時間だと思われる。

「とー」

「旦那様、ご起床のお時間です」

「ああ、おはよう」

 腕に抱いたまま体を起こすと、カミルは嬉しそうに声を上げて笑っている。そう言えば、ちゃんと遊んであげたのはいつ以来だろうか。そのままもう少しだけ遊んでから起き出して身だしなみを整えた。

「おはよう。遅くなってごめん」

 起こしに来てくれたカミルを抱っこして食堂へ行くと、既に他の家族は席に付いていた。夏至祭の翌日ということで、俺もオリガも本宮へ向かうのは昼前を予定している。その為、今朝はいつもよりものんびりとした朝を迎えていた。

「おや、ルーク。おはよう」

「おはよう、ルーク」

 オリガが俺からカミルを受け取ると、子供用の椅子が用意されている彼の席へ座らせる。大好きなじぃじとばぁばも揃っているので、彼はもうご機嫌だ。俺とオリガも席に着きこの日は久しぶりに家族5人が揃っての朝食となった。

「お父さんから聞いたけど、ティム君は大丈夫なのかい?」

「昨夜も舞踏会の中盤で顔を出していたし、数日の休養で回復するんじゃないかな」

「そうかい? それならいいんだ」

「休養中は家で過ごすと思うから、双方で頑張った事を労ってあげてよ」

「そうだねぇ……。飛竜レースも武術試合も優勝しちゃうんだもの、沢山ご馳走を用意しようかねぇ」

「喜ぶと思うよ」

 主に俺と母さんの会話となったが、父さんもオリガもそのやり取りをにこやかに聞いてくれていた。その後は母さんが市場で買い物をした様子を話したりして和やかに朝食は済んでいた。

 それからみんなに見送られて俺達は本宮へ向かった。オリガとカミル、そして乳母のビアンカとその娘のベティーナを北棟まで送ってから、俺は自分の職場である雷光隊の詰め所へ向かったのだった。



 前日の舞踏会終了後、陛下へ事件について報告するため、俺とアスター卿、シュテファンとデューク卿が集まった。シュテファンからは舞踏会の間のディーターの行動が報告され、デューク卿からはアスター卿から引き継いだ後の事後処理の様子が伝えられた。あの後、エルネスタ嬢は家族が迎えに来て無事に帰宅したが、当面の間は彼女も自宅で謹慎させると父親が言っていたらしい。

 何分夜も遅かったので、それらの報告の後はこの件に関する会議を翌日の昼から始める事と、それに参加する人員を決めてお開きになっていた。ちなみに昼からとしたのは、舞踏会の翌日と言う事を考慮したからでもある。

 そんな訳で、一度詰め所の執務室で会議の準備を整えると、シュテファンをともない西棟にある会議室へ向かった。そこには既に大半の参加者が集まっていた。今日は陛下を除く昨夜の顔ぶれに加えて、各騎士団の団長と第2騎士団を仮に預かっているケビン卿、狙われたティムの直属の上司となるヒース卿が参加することになっている。陛下には後程この会議の決定事項を報告し、国の重鎮方も揃う会議で改めて公表する手筈となっている。

「揃っているな。では、始めようか」

 最後にアスター卿が参加予定ではなかった陛下を伴い入室される。急な予定変更だが、後でまた改めて聞くのが無駄だと感じたのかもしれない。よくある事でもあるので、俺達も特段気にすることなく起立して陛下が上座に座られるのを待った。

 会議の冒頭にデューク卿から昨夜の事件のあらましが伝えられる。騎士団の不祥事ということで、参加者からは頭を抱える者、ため息をつくものなど様々な反応があった。そこから様々な意見を交換し合い、比較的早くレオナルトとバルトルトの処分は決定した。

「レオナルトは騎士資格を一時剥奪。謹慎後、再教育とする。バルトルトは謹慎の上、減俸。監督不行き届きとして、それぞれの上司も減俸とする」

 完全にとばっちりなわけだが、デューク卿もケビン卿も自ら申し出て減俸処分を受けることになった。ちなみに騎士資格を剥奪されたレオナルトは俺が預かることになった。反発は強いだろうが、これも何かの縁だ。一人前にきっちり育て上げてやろう。

 だがここから議題が思わぬ方向へ向かう。

「ルーク卿、教育部隊の人員は増やす予定はありませんか?」

 質問をしてきたのは第7騎士団の団長ハーゲン卿だった。管轄するタランテラ最北の地ラヴィーネ地方には、労役刑を言い渡された囚人を受け入れる銀鉱山があるため、罪を犯した竜騎士の左遷先としても使われている。昨年の第2騎士団が起こした不祥事でも何人かが第7騎士団への移動を命じられていた。その為、左遷された人員の部隊と通常の部隊を分けることでどうにか規律を保たせている状態らしい。

「当然、真面目に強くなりたいと言う隊員もいるし、配置換えを命じられて第7へ来た中にもやり直したいという者もいる。我々も手を尽くしてはいるが、是非とも雷光隊を築き上げたルーク卿の手腕をお借りしたい」

 突然の申し出に俺は一緒に出席していたシュテファンと顔を見合わせる。教育部隊が発足してまだ1年しか経っていない。徐々にその成果は出てきているが、後1年は指導が必要だろう。今年は更に手がかかりそうなレオナルトを預かることになり、これ以上の受け入れは難しい。

「すぐには難しいですね」

「そうですか……」

 俺の返答にハーゲン卿は残念そうにしている。俺にかかわる事件で送り込まれた者も多いだろうから何とかしてあげたいが……。

「短期ではどうだ?」

 そこで口を挟んだのは陛下だった。

「1ヶ月ほどラヴィーネ滞在し、第7騎士団と合同演習という形には出来ないか?」

 陛下の提案を受けて俺は今後の予定を思い浮かべる。当初、夏至祭の後は2ヶ月の休養を取り、その後は西方地域へ赴き演習。秋には再度皇都とミステルに分かれ、討伐期まではそれぞれの地で鍛錬を重ねる予定にしていた。

 雷光隊でタランテラ国内全てを回る事を密かに目標に掲げていたが、ラヴィーネにはまだ行った事は無い。いい機会ではあるが、あの地はタランテラで最も過酷な場所にある上にその経路も過酷なことで有名だ。例え飛竜での移動でも、容易に休憩場所を見つけられない難所が続くと聞いている。若手が付いてこれるかが心配だが、それでもいい経験にはなりそうだ。

「独断では決められないので、一度持ち帰り他の隊員の意見も聞いて検討いたします」

「ありがとうございます」

 俺の返答に陛下は満足した様子でうなずき、ハーゲン卿は感謝して頭を下げてくれた。ともかく、この会議が終わったら、ラウルも交えて計画の練り直しをしなければならない。




「ティム・ディ・バウワーの事で報告がある」

 会議が終盤となったところで、おもむろに陛下が口を開かれる。アイツ、また何かやらかしたのだろうか? チラリとリーガス卿やヒース卿の様子をうかがうと、彼等も何も心当たりがない様子だった。

「本人の希望もあり、神殿騎士団に推薦する運びとなった」

 昨夜の舞踏会開始前に会って感じたのだが、ティムは飛竜レースで1位帰着を果たし、武術試合でもオスカー卿と引き分けて優勝したが、それでもまだ自分に納得できていない様子だった。姫様に護衛として付いていき、そのまま神殿騎士団に加わるのだろうと思っていたら、聖域のアレス卿の下に付くらしい。

「アイツは全く……」

 おそらく、舞踏会後に北棟で陛下と話をして決めたのだろう。義弟とはいえ、彼が決断したのなら俺に止める権利はない。しかし、決断する前に一言欲しかった。そう思ったのは俺だけでは無い様で、リーガス卿もヒース卿も顔を顰めている。後でちょっと説教だな。

 その後の陛下の説明では既にアレス卿とも話がついており、姫様の出立を待たずに聖域へ向かうことになるらしい。これは絶対、姫様が悲しまれるぞ。

「礎の里へ留学するコリンシアの護衛はオスカーに任せる。こちらの出立は夏の終わりを予定している」

 当然、護衛はオスカー卿1人ではない。近日中に各騎士団から帯同する竜騎士を選考し、近日中に発表されることになっている。昨年国主会議に同行した実績から、もしかしたら俺の部下からも選ばれるかもしれない。

 これで昨夜の不祥事を受けての会議はこれで終了した。しなければやらないことは山ほどあるが、とりあえずティムを捕まえて色々聞きだしたい。同様の決意をリーガス卿とヒース卿もしたらしく、視線が合うと互いにうなずき合った。

「ルーク、リーガス、ヒース、ちょっと来てくれ」

 俺達の決意をくみ取って下さったのか、陛下とアスター卿が俺達を呼ぶ。どうやらティムも呼んで経緯を説明してくれるらしい。俺は呼ばれた他の2人とうなずき合うと陛下とアスター卿の後に続いた。


 覚悟しろよ、ティム。





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