閑話 シュテファン2
遅くなってすみません。
前の閑話を書いた折に、次は別の人の視点でと思っていたのでナンバリングはしなかったけど、結局気が変わってシュテファン視点になっちゃいました。
完全に復調したのは、フリーダが見舞いに来てくれた2日後だった。劇的な回復に休養を兼ねて待機してくれていたコンラートとドミニクからは「愛の力だ」等と揶揄われた。否定はしないが、少し苛立ったので、体が元通り動くようになったら、是非とも本気で手合わせをしてもらおう。
思った以上に長く寝込んでしまったので、皇都を出立する前に迷惑をかけた各方面の方々への挨拶回りを済ませた。そしてコンラートとドミニク、休養中に隊長からの手紙を運んできてくれたマティアスと共に、隊長から指定されていたミステルへ向けて出立した。
「お疲れ。体はもう大丈夫か?」
「はい。ご心配をおかけしました」
他の雷光隊員は既に揃っているらしいので、着いてすぐに隊長の執務室へ挨拶にうかがった。元気そうな姿に安堵したが、ラウルがこっそり教えてくれた話によると一時は憔悴しきって見ていられないほどだったらしい。そう言う彼とアルノーも疲れが出て一時期寝込んでいたらしい。南方の流行病も疑われたが、診断結果は自分と同じく過労。やはり短期間で大陸を縦断するのはそれだけ体に負担がかかっていたのだろうとの事だった。
そしてその翌日、全雷光隊員が揃っての会議となった。隊長を筆頭に隊員12名と教育部隊5名が揃うとなかなか壮観だ。そして結成当初からいる身としては、随分増えたなぁと感慨深いものがあった。
「今回は私用に皆を巻き込んで済まなかった。家族の為に尽力してくれて感謝する」
冒頭に隊長がそんな挨拶をする。しかし、隊長が謝られることではないと思う。雷光隊はビレア家の人達……特に隊長のお母さんには家族同様に接して頂いている。ならば家族の為に全力を尽くすのは当然の事だ。同様の事をラウルが代表して答え、全員がうなずいたのを見ると、隊長は改めて感謝して頭を下げた。
先ずはラウルが国主会議の護衛として同行した礎の里での報告を行った。立ち寄った国の騎士団や神殿騎士団との交流の様子などが報告されると、留守番組の若手は身を乗り出す様に聞き入っていた。
「公式行事の最後に予定が変更されて飛竜レースが行われました」
本来は当代様の前で我が雷光隊のお披露目が行われる予定だった。しかし、特例で飛竜の乗り入れまで認められた隊長に手合わせの申し込みが殺到した。それを断り続けるのが難しくなり、妥協案で飛竜レースの開催が決まったと聞いている。
「参加したのは神殿騎士団及びブルメリア、ダーバの精鋭、そして聖域のレイド卿とマルクス卿。雷光隊からは隊長の他、自分とアルノーも参加させていただきました。自分は後から帰着したのでその瞬間を見ることは叶いませんでしたが、隊長は並みいる精鋭を抑えて見事1位で帰着されました」
ラウルの報告に同行出来なかった若い隊員達は歓声を上げる。その歓声を何故かコンラートが抑えると、隊長が帰着された情景を事細かく語ってくれた。彼からは礎の里からの帰りの道中で背びれ尾びれがついた話を聞いていたが、今回は真面目に報告をしていた。
「帰着する広場は飛竜が何頭も降り立つには狭い場所でした。そこで1番手で帰着された隊長は、低空で飛行させたエアリアルの背から飛び降りて華麗に着地を決めると、当代様の前に進み出て証書を差し出しました。その時になってようやく2番手のレイド卿が到着されたので、これで大陸最速の称号は隊長のものであると証明されたのです」
コンラートがそう締めくくると、先程よりも大きな歓声が上がる。そして皆口々に隊長を称えるのだが、当の本人は恥ずかしいのか「そのくらいにしてくれ」と頭を抱えていた。
「だけど、なんか悔しいです」
そんな騒ぎの中、ポツリとそう呟いたのはローラントだった。途端に騒ぎは納まり、視線が彼に集中する。
「それだけの栄誉を手にされたのですから、皇都で式典も開かれで俺達だけでなくもっとたくさんの人に称賛されていたはずなのに……」
彼の言葉で、この場にいた全員にあの事件の苦い思いが蘇る。帰りの道中、コンラートが誇張して教えてくれた隊長の活躍は、あの事件で沈んでいた気持ちを救ってくれたが、逆にあの事件が無ければもっと喜べたと残念に思ったのは確かだった。先程から一転して静まり返ってしまい、慌ててローラントは謝罪したが、隊長は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた後に「気にするな」と宥めた。
「確かに、あの2人にも礎の里であった事を聞いてほしかった。きっと彼等も喜んで耳を傾けてくれただろう。だけど俺はあの時、自分の栄誉の為に飛んだわけじゃない。全て陛下の為だ。だからその辺りは気にしてはいない」
「ですが……」
「みんな、色々と気を使ってくれてありがとう。まだ完全に立ち直れたわけではないが、過ぎてしまった事はもう変えられない。すぐには難しいかもしれないけど、あの一件で悔やむのは終りにしたい」
「隊長……」
静かに淡々と己の心境を語る隊長の姿にこれ以上誰も何も言えなかった。
「ただ、気になるだろうから、これまでの決定事項を報告する」
そう言って隊長は陛下の英断を中心に事件後の処理報告をして下さった。先ず、今回の主犯となったメルヒオールとハインツの2人は無期の労役が科せられ鉱山送りとなった。そして2人が浪費した代金をその賃金から商人達へ返済されることになった。
「甘くないですか?」
「楽に終わらせるつもりはない」
関わった商人達には当面の間、総督府への出入りが禁じられた。更には今回の一件もすぐに広まるだろうから、彼等の信用はほぼ無くなった様なもの。その上でさらに商売を続けるのは難しいだろうと隊長は締めくくった。
「シュタールの総督府と第2騎士団は大幅に人員を入れ替え、総督府はラファエル殿が現場復帰し、第2騎士団は第3騎士団の指揮下に入って再教育が行われる」
既にケビン卿率いる小隊がシュタールで活動を開始しているらしい。ミステルに駐留している自分達も何かすることがあるのか聞こうとしたところで、隊長から更なる発表があった。
「実は、私事だが、カミルを俺達の子供として育てることにした。それもあって、俺は今度の討伐期をアジュガで過ごすことにした。既に陛下からも了承を頂き、今期は3隊に分かれて活動することにした」
隊長はそう言って、ラウルと2人で考えたらしい草案の書付を皆の前に広げる。それによると皇都はラウルを筆頭にコンラート、ドミニク、ファビアン、エーミール、そして昨秋入ったばかりのオスヴァルトとルーペルトが配属される。アジュガは隊長とアルノー、昨秋入ったばかりのマティアス、教育部隊から2人。ミステルは当初とあまり変わらず、自分とローラントと教育部隊の残り3人となっている。
「ケビン隊が居るとはいえ、第2騎士団の人員を大幅に入れ替えたことによって戦力が大幅に下がってしまった。陛下からはシュタール西部の守護を頼むと言われている」
「ですが、我々だけで守り切れるでしょうか?」
雷光隊に所属するのはいずれも早さに長けた竜騎士ばかりだ。その速さに特化している分、持久力や防御力と言ったところに欠点がある。今までは先行して本隊の到着まで持ちこたえるだけで良かったのだが、出没した妖魔の規模によっては自分達だけでは討伐しきれない可能性もある。
「ケビン卿とも話をしたけど、その辺はまた秋に皇都へ行った折にアスター卿とも相談してみるつもりだ。もしかしたらシュテファン達にはシュタールへ行ってもらい、別の部隊をミステルへ派遣してもらう事になるかもしれない」
「分かりました」
「後に細かい変更はあるかもしれないが、それぞれ鍛錬を積んで討伐期に備えて欲しい」
討伐期までまだ半年近くある。それでも日々の鍛錬を疎かにするようなことは出来ない。若い隊員もそれを十分に理解してくれているらしく、神妙にうなずいていた。
「とはいえ、病み上がりの者は無理しないように」
隊長のこの最後の念押しで会議はお開きとなった。若い隊員がそれぞれの仕事に戻ったので、隊長とラウルと自分とでその後は細かい打ち合わせを済ませた。もっとも、付き合いも長いので、そのほとんどが雑談のようなもので終わってしまった。
秋、元第2騎士団の若手で構成された小隊とそのお目付け役として一線から退いていたクレスト卿がミステルに派遣された。更には団を超えて近隣の砦からの助力も取り付け、新たな態勢での討伐期を迎えた。
お知らせ
14日0時におまけのウォルフの日記をを投稿。
書かないつもりだったけど、入れた方が良い気がして予定変更。
本当はこの話に付けて投稿する予定でしたが、思った以上に長くなってしまい、14日に改めて投稿します。
そしてこのおまけをもって波乱ばかりの4章は終了となります。
今回は特にお休みを入れず、20日更新分から5章を開始する予定です。




