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群青の軌跡  作者: 花 影
第4章 夫婦の物語
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第20話

今回、話の区切りの関係で短いです。すみません。

 婚礼の儀式の後は領主館に移動し、祝宴が開かれた。参加したのは婚礼に参加したビレア家の人達とヘルマンさんの他に親方衆とそのおかみさん、そして雷光隊と兵団長のザムエルさん、ウォルフさんの2人の部下といったいつもの顔ぶれだった。

「親友のウォルフと妹のカミラが結ばれて、これ以上の喜びはない。2人の末長い幸せを願って、乾杯」

 ルークの挨拶で祝宴は始まったのだが、今回はカミラさんの体調を考慮し、短時間で終わるように食事が中心でお酒はこの最初の1杯のみとなっていた。お酒好きの人には物足りないだろうけれど、もっと呑みたい人は祝宴終了後に踊る牡鹿亭へ移動するようにと参加者……特に親方衆に通達されていた。一方で親方衆も領主館では高価な調度品が気になってしまって呑んだ気になれないらしく、この通達は喜んで受け入れられていた。そして踊る牡鹿亭のご亭主もルークの頼みにやる気満々で、万全の準備を整えて待って下さっていた。

 今回の祝宴も、いつもの様に大皿料理を並べた肩ひじを張らない席となっていた。ウォルフさんの身内として出席されているヘルマンさんは堅苦しいのは苦手だとおっしゃっていたのだけれど、アジュガでの祝宴はお気に召したご様子だった。

「ルーク卿には本当に感謝しておるんです」

 私達の隣に座るヘルマンさんは町の人達に囲まれて祝福されているウォルフさんの姿に目を細めてそう言った。

「俺は大したことをしていませんよ」

「そうは仰りますが、ワシの元へ来た時のあ奴は何もかも諦めたような目をしておった。明らかに変わったのは、一昨年でしたか、ルーク卿がアジュガへあ奴を誘って連れ出して下さった後です」

 ヘルマンさんはそう言うと、杯に残っていた酒を飲み干す。あまりお酒に強くはないご様子で、既にお顔が赤らんでいた。

「そうなんですか?」

「良い出会いがあったのだろうと推測しておりました。昨年、アジュガの代官の話を聞いて、随分迷っておりましたが、後押しをして本当に良かったと思っております」

「それは、俺の方がお礼を言わないといけませんね」

 ヘルマンさんが後押しをして下さったおかげで、私達は頼もしい領地経営の助人を得ることが出来たのだ。それは本当に感謝しかない。

「あれだけの才覚を持つ若者が、古書の整理で一生を終えるなんてもったいない。こうして自分の居場所を見つけただけじゃなく、可愛い嫁さんに子供にまで恵まれて……わしはもう、嬉しくて、嬉しくて……」

 ヘルマンさんにはご家族がいらっしゃらず、ウォルフさんを息子の様に思っておられたらしい。アジュガの代官……今後は城代となって自分よりもはるかに出世したにもかかわらず、こうして晴れの日に呼んでもらえたことを本当に喜んでいた。

「これからも、あ奴の事、よろしくお願いいたします」

「俺の方がウォルフに頼りっぱなしなんです。頼りない領主と見限られないように頑張ります」

 ルークがそう答えると、ヘルマンさんは嬉しそうに目を細め、そしてまたたくさんの人に囲まれているウォルフさんに視線を移していた。

 ウォルフさん達を祝福して囲んでいる人が減った頃合いを見てルークと私は席を立ち、ようやくお祝いの言葉をかけた。

「おめでとう、これで晴れて夫婦だな」

「おめでとう」

「なんだかまだ夢の様だよ」

「ありがとう、ルーク兄さん、オリガお姉さん」

 先程まで色んな人に祝福されていたウォルフさんは感激しているのか、心なしか彼の目は潤んでいる。一方のカミラさんは正に幸せといった様子で、時折腕に巻かれた組紐を確認するように触ってみたり、お腹に手を当ててみたりしていた。

「手、きついだろう? そろそろ解いたらどうだ?」

「そ、そうだね。カミラもいいかい?」

「ええ」

 ルークにうながされて婚礼後の祝宴の定番となる組紐解きが始まった。きっちりくくり付けられた組紐を2人は頭を突き合せて解いていく。そのほほえましい様子を祝宴の参加者は見守っている。お酒があまり入っていないせいか、心なしかいつもより静かだけど、それでも横からあーでもない、こうでもないと外野が口を出すのは毎回の光景だった。

「やっととれたぁ」

 ルークが言うには2人ともあまり器用ではないので、思った以上に時間がかかっていた。それでもやっと手が自由になり、2人は嬉しそうにそれぞれの腕に組紐を巻いていた。

 やがてお開きの時間となり、最後にウォルフさんが挨拶をするようルークが促した。

「今日は自分とカミラの門出を祝福して下さってありがとうございました。未熟ではありますが、今後も町の為に尽くしていきますので、これからもよろしくお願いいたします」

ウォルフさんは緊張の面持ちで立ち上がると、そう言って祝宴に参加した一同に頭を下げた。

「相変わらず硬い男じゃのう」

「それがウォルフ君のいい所じゃない」

「しかし、せっかく今日は主役なんじゃから、少しばかり羽目を外しても良いんじゃないじゃないかのう」

 町で一番の古株の親方とおかみさんのやり取りに会場が笑いに包まれる。ウォルフさんは困った表情を浮かべ、一方でカミラさんは楽しそうに親方とおかみさんのやり取りを見ていた。そんな2人を祝う宴の席はそんな笑いで締めくくられたのだった。




 祝宴が終わり、自宅に帰る主役の2人が乗った馬車を見送ると、親方衆は「祝い酒だ!」と言いながらすぐに踊る牡鹿亭へ繰り出していった。その一団の中には当然雷光隊の面々とティムも加わっており、更にはちょっと浮かれているらしい文官2人の姿もある。頼りにしている上司の結婚が彼等もどれだけ喜んでいるかが分かる。一方でヘルマンさんは疲れたからと言ってすぐに部屋へ引き上げていた。

「この分だと、明日の仕事は休みだな」

「そうね」

 そんな彼等の姿を見送りながら、ルークは正装の襟元を緩めて深く息を吐いた。蜜月を邪魔するつもりは無いので、ウォルフさんは1カ月ほどお休みになっている。真面目な彼の事だから、期間中もちょくちょく仕事をしに来るかもしれないけれど、今は2人の時間を大切にしてもらいたいというのが私達の本音だ。

 でも、他の人達はウォルフさんがお休みの分もがんばってもらわないといけないのだけれど、この分だと明日はみんな二日酔いで仕事にならないだろう。皇妃様直伝の二日酔いの薬を用意しておいた方が良いかもしれない。

「まあ、それならそれで、俺達もゆっくりすればいいさ」

「……そうね」

 私達の休みもあとわずか。あまりのんびりとした時間を過ごすことが出来ていなかったので、ルークのお誘いは非常に魅力的だった。体をそっと寄せると、彼は私の肩を更に抱き寄せる。

「あの花畑に行かない?」

「……行きたいわ」

 これ以上は無い魅力的なお誘いだった。私は迷うことなく了承し、愛する旦那様の頬に口づけた。

 そして翌朝、私達はこっそり領主館を抜け出すと、エアリアルの背に乗ってあの思い出の湖畔へと向かったのだった。





最近、ちょっとスランプ気味。

なんか、話がサクサク浮かんでこない。

今回話が短かったのも、その辺の影響。

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