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群青の軌跡  作者: 花 影
第4章 夫婦の物語
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第4話

すみません、今回はちょっと短めです。

「今夜、家族みんなで集まることになったよ」

 ルークがそう教えてくれたのは翌日の朝食の席の事だった。朝食と言っても、私が起きることが出来なくて既にお昼に近い時刻になっている。体に力が入らなかった私をルークが甲斐甲斐しく世話をして、着替えまで手伝ってくれたわけだけど、その原因を作ったのは当の本人だった。

「エアリアルに挨拶をした後、領主館に来ていた母さんと相談したんだ。カミラはまだ寝ているし、ウォルフと俺は午後から予定がある。父さんと兄さんは案の定二日酔いだし、集まるなら夜の方が良いだろうと話がまとまった」

 朝、起きられなかった私とは違い、ルークはいつも通り起きて朝の鍛錬と相棒のお世話を済ませていたらしい。それにしてもこの体力はさすが竜騎士。私が意識を飛ばした後、諸々の後片付けを済ませてから休んだはずなのに全然疲れた様子がない。むしろ生き生きとしている。少し恨めしく思いながら、次々と料理を平らげていく彼の姿を眺めていた。

「カミラさんのご様子は聞けたの?」

「母さんの話だと、今日は顔色が良くなっていたらしい。起きたら改めて医者に診てもらうと言っていた」

「そうね。本人も自覚があるみたいだから間違いないと思うけど、ちゃんと見て頂いた方が安心よね」

 今朝の朝食はリーナお姉さんが用意して下さっていたらしいのだけど、ルークは物足りないらしく、市場で調達してきたらしい焼いた腸詰も食べていた。竜騎士は体が資本というけれど、本当に良く食べるなぁと感心しながら食後のお茶を飲み干した。

「この後、ウォルフから領内の事を報告してもらうんだけど、オリガはどうする?」

「夕方までゆっくりしているわ」

 本当は一緒に話を聞いた方がいのだろうけれど、正直に言ってまだ体が辛い。それに領主館へ引っ越すならば、持ち出す物の準備も始めておきたい。そう伝えて後片付けを引き受けると、「無理をしないで」と言ってルークは出かけて行った。




 せめて夕食の支度を手伝おうと、夕方早目に隣へ伺った。既にリーナお姉さんも子供を連れて来ており、3人で代わる代わるあやしながら支度を進めた。お母さんの話だと、カミラさんはまだ領主館で休んでいて、ルークやウォルフさんの仕事が済んだら一緒に帰って来ることになっているらしい。

「じぃー」

 最初に帰ってこられたのはお父さんだった。孫のザシャ君に出迎えられ、相貌を崩して抱き上げておられた。続けてお兄さんも来られたので、男2人に子守りを任せ、夕食の仕上げにかかる。そして、完成した頃合いを見計らったかのように、ウォルフさんとカミラさんを伴ったルークが帰って来た。

「ただいま」

「……おじゃまします」

 若干疲れた様子のルークと昨日より幾分顔色が良くなったカミラさん、そして最後に緊張してぎこちない動きをしているウォルフさんが入って来た。すると先程まで孫相手に相貌を崩していたお父さんが急に不機嫌な表情となる。

「お帰り。お腹空いたでしょう? 先にご飯にしようかね」

 お母さんの決定に不機嫌なお父さんでも反対できない。少し窮屈だけれど、食堂のテーブルを全員で囲んだ。不機嫌なお父さんに緊張してぎこちない動作となっているウォルフさん。いつもとは違う微妙な空気が漂っているけれど、ザシャ君が美味しそうに食べている姿が場を和ませてくれていた。

「……母さん、酒は?」

「昨日呑みすぎて二日酔いだったのに今日も呑む気かい?」

 いつもの様にお酒を催促したお父さんはお母さんにきつく言い返されてすごすごと引き下がる。お父さんの体の事もあるけれど、懐妊中のカミラさんは匂いに敏感になっている様子なので、今日は控えて頂いた方がいいかもしれない。

「ちょっと、ごめん」

「カミラ……」

 カミラさんの席の近くにはあまり匂いの強いものを置かないようにしていたけれど、やはり無理があったようで彼女は席を外す。心配したウォルフさんがその後に続き、お父さんは顔をしかめていた。ほどなくして2人は戻って来たけれど、カミラさんはあまり食が進まない様子。後でさっぱりしたものを用意してあげた方が良いかもしれない。

 終始微妙な空気が漂っていたが、夕食は無事に終わった。みんな居間に移動したので、食後のお茶を用意して配る。カミラさんの為に今日は爽やかな香りのハーブティーを選んだ。そのお茶を飲んでいる間にお腹が膨れたザシャ君は眠くなったのかウトウトし始めたため、リーナさんが抱っこして席を外した。

「さて、そろそろ本題に入ろうかねぇ」

 この場を取り仕切ってくださるお母さんが頼もしい。その視線を受けてウォルフさんとカミラさんは徐に立ち上がる。

「私達、籍を入れることにしました」

「えっと、恥ずかしながら子供が出来ました」

「おお、おめでとう」

「そうか、良かったな」

 2人が結婚という選択をしたことに安堵する。祝福する私達とは裏腹にお父さんは無言で顔を顰めている。

「ウォルフ君」

 そんな中、急にお父さんがウォルフさんに声をかけた。彼は一瞬体をびくつかせたが、すぐに返事をするとお父さんに向き直った。

「本当にこんなはねっ返りでいいのかね?」

「カミラさんは素敵な女性です。逆に自分を慕ってくれる方が不思議なくらいです」

「子供が出来たから仕方なくと言うのではないのかね?」

「お父さん!」

 カミラさんが思わず声を荒げたけど、お父さんはそれを無視してウォルフさんを見据えている。彼は緊張して顔が強張ったままだったが、それでも背筋を伸ばすとお父さんに向き直る。

「自分は内乱時、グスタフの下で働いておりました。実家から勘当され、行く当てがなかった自分を拾ってゲオルグ殿下のお付きという仕事を与えて下さったあの方を信じていたからです。ですが、あの方の言葉は全てまやかしでした。それを気付かせてくれたのは他でもないルーク卿です」

 ウォルフさんの告白にお父さんも他の家族も黙って耳を傾ける。カミラさんは既にその話を聞いていたらしく、心配そうな視線を彼に向けていた。

「詳細を知らされていなかったとはいえ、自分が恐ろしい企てに加担していたことは紛れもない事実です。これを償うためには、生涯を国に捧げるしかないとかたくなに思い込んでいました。そんな折にルーク卿に声を掛けられ、無理やり取らされた休暇をこの町で過ごすことになりました。

ひたすら仕事に打ち込んでいた自分に肩の力の抜き方を教えてくれたのはこの町の方々です。夏の短い期間でしたけど、この町で過ごした時間のおかげでこれまでの在り方も見直す余裕が出来ました。そしてご縁があって再びこの町に来る機会を得られました」

 ここでいったん言葉を切ると、ウォルフさんは大きく深呼吸をする。そして再び口を開いた。

「カミラさんの存在は自分にとって癒しです。引き継ぎが思うように進まない中、失敗も後悔も些細な事だと笑い飛ばしてくれる彼女に何度も救われて、惹かれていきました。でも、自分なんかが……と思って意識しないようにしていました。ですが、あの火事の後、火傷で苦しい時に看病してくれたり、その後も何かと気にかけてくれて、彼女への想いを抑えるのが難しくなっていました」

 あの時、自分達の事で手がいっぱいで、他の人の事を気にかける余裕がなかったかもしれない。カミラさんがウォルフさんの看病をしていたのはルークも初耳だったらしく、小声で「そうなのか?」と確認し、彼女は小さくうなずいていた。

「春分節のお祭りに彼女の方から誘ってくれて、本当に幸せな時間を過ごせました。彼女の行動力が無ければ実現できなかった時間です。仰る通り、子供のことが無ければ、ここまで早く結婚を決意できなかったのも確かです。それでも、自分はカミラさんを愛しています」

 先程まで緊張して顔をこわばらせていたのが嘘のように、ウォルフさんはそう言って胸を張っていた。



ビレア家、家族会議まだ続きます。

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