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群青の軌跡  作者: 花 影
第3章 2人の物語
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おまけの小話

閑話にするほどではない小話の寄せ集め。

短いですけど、お楽しみいただけたら。

フィルカンサス


 彼女は行ってしまった。極上だと言うブラッシングを受けるためだけに、かの者がいる北の国へ向かったのだ。自分は機会に恵まれず、まだ受けた事は無いけれど。

 今年は人間達の都合で行くことは禁じられていたのだが、討伐期を終え、穏やかな季節を迎えると、どうにも我慢が出来なくなってしまったらしい。


クゥゥ……


 自分達専用の室の中。相棒が国主という肩書を持つゆえに、広く最上級の設備を誇っているのだが、独りポツンとうずくまっているとそれだけで物寂しい気持ちになる。

「やあ、フィルカンサス」

「おはよう、フィルカンサス」

 相棒とその番が朝の挨拶にやって来た。彼女が北の国に行っている間、自分が寂しくないようにこうやってよく顔を出してくれるのは嬉しい。

「フィルカンサス、今日は走りの果物が手に入ったのよ。後で出してくれるように手配したから楽しみにしていてね」

「今日はしっかりブラシをかけておこうか」

 彼女がいれば、果物もブラシがけも自分は後回しになる。そして彼女の気分次第では果物も食べられないこともあるし、ブラシ掛けもおざなりなってしまうこともある。

 こうして手厚く世話をしてもらえるのは滅多にないことで、ちょっと嬉しい。彼女がいないのは寂しいが、これはこれでいいかもしれないとフィルカンサスは思った。




ブロワディ


「ルーク・ディ・ビレア、騎士団長と同格の権限を与え、アジュガ及びミステル領の領主に任じる」

 作法通り、陛下の御前に進み出た若者は、少し困惑している様子だった。おそらく、ミステルまで拝領されるとまでは思ってもいなかったのだろう。ただ、困惑しつつも思ったことを口にして進行を阻む事は無かった。

 5年前、夏至祭の飛竜レースで1位帰着を果たした彼は、夜会の席で褒賞を授与される栄誉を授かった。しかし、名を呼ばれた彼は自分には敬称が付くのはおかしいと、当時国主代行をされていたハルベルト殿下に意見したのだ。

『彼のような者がエドワルドの傍に居てくれるのはありがたい事だ』

不敬で罰せられてもおかしくなかったのだが、ハルベルト殿下はその純粋さを逆に好ましく思われ、目をかけておられた。

 その慧眼はまさしく的中した。殿下ご自身は凶刃に倒れられてしまわれたが、その後起こった内乱がたった1年で鎮圧できたのも彼の働きがあってこそだった。

 その経験が彼を大きく成長させた。5年前には分不相応な田舎者と陰で笑う者が多くいたが、今では誰もが認める救国の英雄だ。その姿を誇らしげに見守られる陛下と在りし日のハルベルト殿下のお姿が重なる。

 きっと、今のこの光景をあの方は誇らしく思いながら見守っておられるだろう。




ユリウス


 最初、私の元に届いたのはルークの訃報だった。衝撃のあまりその場に立ち尽くし、妻のアルメリアに声をかけられるまで我を忘れていた。

 ほどなくして皇都からの指令と共に、詳細が伝わった。賊に勘違いされて誘拐され、更には女王の行軍に行き会い、足止めするために女王に喧嘩を吹っかけて重傷を負ったらしい。危険な状態とはいえ第1報が誤報だったことに安堵すると同時に親友の無茶に腹も立ってくる。

「女王に喧嘩を売るって何て無茶を……」

「あなた、泣くか怒るかどちらかになさって下さい」

 妻のアルメリアに声をかけられ、初めて自分が涙を流していたことに気付いた。ちょっと恥ずかしい。そんな私を身重の妻は優しく抱擁する。

「オリガさんが向かわれたのですから、きっとルーク卿は回復なさります」

「そう……だな」

 彼の事だ。何食わぬ顔をしてひょっこり姿を現すのだろう。その時に心配かけた分の説教だ。でも、アスター卿が事後処理に向かわれたから、私とは比べ物にならないくらい、落ち込むような小言を言われるに違いない。逆にちょっと気の毒な気もするが、これも自業自得だ。

「だから、今は私達に出来ることをしましょう」

「ああ」

 皇都からの指令書には、今回の企てに加担した者達の名前が記されている。このマルモア近郊にも何名かいて、先程騎士団に捕縛を命じたところだ。取り調べには是非にも立ち会い、詳細を洗いざらい白状させようと固く心に誓った。



予告通り来週から本編を再開します。

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