闇の末娘、赤き雷と拘束
よんどころない事情により一部キャラ改名です。よろしくお願いします。
アルマと名乗った少女は繋がれた両腕を振り子にする。闇色の放出は宛の無い殺意を宿し、大きな竜の顎を象って私へと直進した。
私は槍を振り竜の影を薙ごうとする。しかし、闇の牙は実体のある硬さで襲い掛かり、槍を両端から噛み砕かんとした。
【星の鍵】が折れることは無いだろうが、そうでなければ私の胴は瞬く間に咀嚼されてこの旅を終えていたことだろう。
「ははっ、年端の行かぬというのに、これは随分な力だ! 何か弱点みたいなものは無いのか?」
「アルマは暗闇を自在に操れるの。光の無い空間でアルマに正面から対抗できるヒトは勇者くらいしかいないわ!」
「どうしてお前の家は密室で封印なんて馬鹿なことを考えたんだ。まぁいい、それだけ聞ければ十分だ」
それだけとは言ったが、実際のところ十分すぎる文句だった。
……私を誰と心得る? ここに立つのは奴と再会し再戦を誓う魔王なのだ。
「―――勇者しか対抗できない存在は、世界に私一人で十分」
赤雷が迸り、轟く輝きが暗黒を打ち払う。
魔王の左腕に浮かび上がる赤き魔方陣からは、絶えず流れて循環し続ける赤色の電流が宿っていた。
「雷、私達が扱えない、五属性以外の魔法……!」
「何だ、知らないのか。勇者ウィアムとその仲間の一人は雷の力をも自在に操っていたぞ」
勇者の娘達に言うと、エスリアは更に目を丸くした。恐らく彼女達は勇者ウィアムの戦場での姿を知らなかったということか。……まぁ無理も無いだろう、十年前だと赤子かそこらの年齢でしか無いはずだ。
「あぁ。後でじっくりとお前達の父親のしぶとさを教えてやろう。……そら、少し荒療治になるが勘弁してくれ」
再度、空気を雷鳴が震わせ、雷光が引き裂いた。
影の竜を穿った電光石火はそのまま直進し、アルマに彼女が絶えず纏う暗黒のオーラも穿って衝突する。
『……ッたぁ! 痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛ッたぁいッ!』
「アルマちゃん! ……あの、もう少しお手柔らかにできない!?」
「すまない。まずは手枷をと思ったのだ」
アルマの両手を拘束していた手枷は、果たして雷によって打ち砕かれていた。
痛がっているのは、火花が少し身体に触れたからだろう。
「……私が十年かけて燃やせなかった枷を、一瞬で?」
「コツがある。あれは魔力を吸収して自己回復を続ける拘束具だから、逆に一瞬で壊さないとダメなんだ」
拘束具の周囲には煤が落ちていた。床は不自然に焦げ付いた後が残っていた。
恐らくはエスリアもまた、アルマを拘束する枷を壊そうとしていたのだろう。何年も何年も、炎の魔法で炙り続けていたのだろう。
壊せなかったのは、ただ、相性が悪かっただけ。勇者を求めるだけでなく、彼女は確かに勇者としてあろうとしていた。