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毎日投稿予定です。次話はすぐに投稿します

 紅葉が剥がれ落ちる十一月の朝、別の場所に居ればそう形容もできるのだが、ここには視覚的に季節を感じさせる物は存在しなかった。


 大西洋に建設された海上プラントの一室で、軍務記録官マイク・オズワルドは窓の外を眺めている。どんよりと曇った灰色の空と呼応するかのように黒い海で波がうねっていた。

 ため息をついて、左手に持ったティーカップの紅茶を飲み干す。

 動いているが代わり映えのしない景色から目を背けたマイクは、ゆっくりと部屋の中央に歩いていく。無機質な部屋の薄暗い床には紙媒体の資料が散乱していた。しかし、それらに拾うほどの価値が無いことを彼は知っているので、遠慮なく足跡を付ける。


 本国とこの基地の中継役として派遣されたマイクの役目はほとんど終わりを迎えたといってもいいだろう。

 一か月前に、今や全世界に波及した騒動の発端となったこのプラントは、様々な介入を受けたことで組織的に崩壊している。かろうじて居住に必要な最低限の機能は取り戻していたが、もはや戦闘に使える人も物資も皆無だった。

 混乱の渦中にあったとはいえ、こう死にかけの状態ではどこの勢力も気に留めない。本国すらもここに構う余裕を失ったようだ。

 その証拠にマイクの定期連絡は前々回から無視されていた。


「まあ、給料が貰えるなら文句は言いませんよ」


 マイクはそう独り言を呟きながら、近くの樹脂製テーブルの上から一つのファイルを手に取る。マイクが派遣されてから今日までの、三か月間の記録レポートだ。

 このプラントは可変武装翼戦闘機クレイバードの発着場であり、そのパイロットの居住施設というのが主な役割だった。そのためマイクのレポートも大部分はパイロットに関する記録となる。


 今となっては届けるアテのない情報に目を通していると、とあるページで手が止まりマイクは小さく笑った。

 当日の任務内容や戦闘の有無、撃墜数に被撃墜数、それにパイロットとの会話内容まで逐一記録していたのだが、一か月前の襲撃の日から多くの部分に空白が広がっている。

 記録の意思はあったが、どうも適切な書き方が思い浮かばなかった。


「困りましたね、これは」


 減給だけは避けたいマイクは記憶を呼び覚ますために散歩を試みる。

 着ている軍服の襟を正し部屋を出ると、プラント上部に向かう階段を上っていった。

 滑り止めの塗装が施された金属の地面はまさに空母そのものといった様相、実際そう使われていた。

 とはいえ大量に鎮座していたクレイバードは全て失われたか別の基地に移動したか、で一機も残ってはおらず、だだっ広い空間に冷たい風が吹き荒れている。


 マイクは自身がここに初めて降り立った時のことを思い出した。


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