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93話 神社

「あの伏線の回収はすごかったよな。全然気にならなかったし」

「うん、すごい自然で……でも後々考えると確かにってなった」


 雫はいつもの5割増しくらいのテンションで映画の感想を語る。目がキラキラと輝いていて、心の底から楽しかったという思いが伝わってくる。俺も喜ばずにはいられず、口元が緩みっぱなしだ。


「あのシーンもなんてことないシーンに見えて最後、ちゃんと意味があったんだってわかって感動したなあ」

「そう! だから、振り返ってみるとああこの時、実はこういう心境だったんだってなるから、すごい、ほんと……」


 さっきまで気まずい空気が流れてたのが嘘のようだ。食事も済ませ、ご満悦の雫を見ていると今日勇気を出して誘ってよかったと思う。あの時の俺グッジョブ。


「で、もう続編も決まってるらしくて」

「マジかよ。観に行くしかないな」

「うん。えっと、だからその……」


 雫は急に下を向きもじもじし出す。


「ん、なんだ?」


 しばらく見守っているとゆっくりと顔を上げ、恐る恐る、


「その時も、い、一緒に行こうね? なんて」


 時間がピタリと止まったような感覚に陥る。魔法かと錯覚したが雫に時間停止魔法を唱える術はない。ほんの一瞬のできごとの筈なのに、映画くらい長く感じ、それでいてもっと長く続いてほしいとさえ思った。


「いやもちろんみんなも誘って、ね?」


 そこで時の流れが正常に戻る。雫はぐいと残ったコップに入った水を飲み干し、その流れでレジへ向かった。返事もしないまま、俺は慌ててそれに付いていった。


◇ ◇ ◇


「ここ、懐かしい」

「な。俺も久しぶりに来た」


 ショッピングモールを出て、再び電車に乗った俺たちは駅から徒歩数分ほどの神社に来ていた。

 小規模な神社なので人は少なく、たくさんの自然が参道を覆っている。その木漏れ日で俺たちの影が埋もれて見えないほどだ。


「今年もお祭りあるのかな」

「あるんじゃないか。去年はあったのか?」

「あったらしい、よ」

「あったらしいって?」

「だって、行ってないし」


 雫はふい、と端の方に寄って歩き出す。ここの祭りには毎年、雫と妙と環の四人で一緒に来ていたのだ。俺がいなかったから去年は行ってなかったらしい。なんの気なしにひどいことを聞いてしまった。それにさっきの件、なにも言わないままでいる俺に呆れてしまっているようだ。慌てて俺も端の方に寄り、足並みを揃える。


「ここ参道、だから」

「ん?」

「真ん中歩いちゃダメだって。おばあちゃんに言われたの思い出した」

「え、ああそういうことか」


 確か、真ん中は神様の通り道だから端っこを歩くのがマナーって昔言われた気がする。それで端っこに移動したのか。


「怒ったと、思った?」


 雫は俺の顔を覗き込み、詰め寄る。


「ねえ、思った?」


 完全に胸の内を読まれていて、途端に恥ずかしくなる。顔にでも俺の気持ちが書いてあるんだろうか。


「あれ、拓実怒った?」

「怒ってない! 断じて」

「ああダメだよ。そっち真ん中だから。端にいなくちゃ」


 雫から距離を取ろうとするも、これも読まれていて先手を打たれる。


「またみんなで来ようよ」

「そう、だな」

「なに、その返事」

「俺、去年も来ようって約束してて、実際は無理だったから。また約束破っちゃうかもしれないしと思って」


 祭りの帰り道、毎回来年もみんなで来ようなと言っていたのを思い出す。その言い出しっぺである俺がいなくなり、去年は行かなかったという。

 それ以外にも、俺は守れもしない口約束をしてばかりだ。


「マジメ、のくせに優柔不断」

「その通りです」

「はい、じゃあ」


 雫は小指を立てて俺の顔に近づけて来た。急に迫ってくる指に驚いてのけ反ってしまう。


「口約束が嫌なら、はい」


 早く、と小指を更に近づけて来たのでゆっくり小指を近づける。


「指切りげんまん嘘ついたら…………一緒に」

「ああ、すまん」

「「指切りげんまん嘘ついたら、針千本飲ーます。指切った」」


 しばらく沈黙があって、雫がニヤリと笑う。


「これでよし」

「小学生以来かも。やったの」

「楽しみにしてる。針、集めとく」

「約束破る前提かよ! ていうかものの例えだろ針千本は」

「あと『げんまん』も『拳万』、って意味らしいよ。おめでとう」

「めでたくないわ!てかそうなのか。一万回殴るってことか?」

「そう。私、頑張るね」

「なんでそんなやる気なんだよ腕回すな。わかったから、絶対守るよ」

「期待しないで待っとくね」


 雫は意気揚々と前へ進んでいった。俺の体はすぐには動かず、いまだに小指を立てたままだ。


 追いかけねばと思い立ったところで見られている気配がして辺りを見渡す。すると、一人のおじさんが俺をにらんでいるのが見えた。

 手には携帯。ラフな格好でいる中年太り気味のおじさんは散歩でもしていたのだろうか。俺から目を離そうとせずじっと観察している。そして俺のひっこめずにいた小指を凝視しているのがわかった。

 

 前にいる雫と俺の小指とを何回か視線を移すと、疑惑が確信に変わったようで、唾をその辺にペッと吐いてけだるそうにそのまま去っていてしまった。距離があったので俺に唾がかかったわけでもないが、なんとなく服の肩らへんを数回はたいてから、雫の元へ向かった。


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