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87話 謝罪

「あ! 二人共ここにいたんだ!」


 不規則に吹く風の音に支配されていた屋上に、元気のいい足音が聞こえてくると、さえかは現れた。


「さえか……」

「しーちゃん久し振り! 遅くなってごめんね!」


 雫には今、さえかが幸運の女神にさえ見えていた。

 あとで屋上に来てとついさっき連絡して顔は合わせているので、久し振りでもないがそんなことはどうでもよかった。

 いつにも増して怒っている美和子の機嫌を直すにはさえかの力が必要だ。


「で、何の話してたの?」

「聞いてよさえか。雫ったら私に自慢話してきたの」

「自慢話?」

「そう、自慢話。それもとびっきりの」


 さえかに泣きつき、美和子は雫がさっきした話をし始めた。

 口を挟もうと思ったが、美和子は話を捻じ曲げたり誇張したりせず、最後まで話したので結局なにも言えぬまま説明は終わった。


「ね、自慢話でしょ。どう思うさえか」

「自慢って……そんなつもりじゃ」


 考え込むさえかを雫は見守った。珍しく眉間にしわを寄せ難しい顔をしている。雫はさえかを信じていた。きっと自分の気持ちに共感してくれると。

 しばらくしてさえかは顔を上げ、いつもの明るい笑顔に戻る。雫が息を飲むのと同時にさえかは話の感想を端的に述べた。


「うーん、よくわからないけど……しーちゃんめんどくさっ」

「め、めんどく……」


 途端に膝から崩れ落ちる。あっけらかんといってのけたことが、雫によりダメージを与えた。すぐに否定できないのは、雫自身もそう思っていたからかもしれない。

 

 ゆっくりと顔を上げると美和子と目が合う。ほらね、と言いたげに笑みを浮かべている。雫は思わず視線を逸らし、精神的ダメージが回復するのを待った。






「ひ、昼休みに自慢話を聞かせ、不快な思いをさせてしまい……申し訳ございません」

「まだ声が小さいけど、まあいいでしょう」


 七回目の謝罪でやっと及第点を貰い、雫はとりあえずほっとした。

 美和子の顔もさっきまでより柔らかくなっているのでこれ以上の要求はしてこないだろう。


「今度からはちゃんと相談したいときに声掛けてね」

「はい……」


 力無く答え、雫は再び俯いた。悩みを聞いてもらおうと軽い気持ちで声を掛けたのになんでこんなことになっているのか……。


「あ、やっと終わったの? 美和子あんまりしーちゃんいじめちゃダメだよ」

「違うよさえか。私は雫に常識を教えてあげたの。これが私たちじゃなかったら集団リンチものだよ。むしろ寛大な心に自分で拍手したいよ私は」

「そうなの? じゃあしてあげるよ!」


 二人は拍手をして、お互いを称え合う。それに倣い、雫も音が鳴らない程度の控えめな拍手をした。

 すると十秒もしないうちに昼休みの終わりを知らせるチャイムの音が響き、拍手の音が掻き消された。


「あ、昼休み終わっちゃった」

「ご、ごめん……」

「もー美和子のいじわるー」

「いや、今のは流石にそんなつもりないよー。ま、悩みとかは相談乗るからまた言ってね」

「あ、ありがとう……」


 美和子は満足げに頷き、出口へと向かう。それに雫とさえかも続き、軽い談笑を交えながらゆっくりと階段を降りて行った。


 そして二階まで降りたところで、拓実の姿が目に飛び込んできた。いつにも増して急激に鼓動が早くなる。


「あ、噂をすれば、だね」

「キョロキョロしてるけど誰か探してるのかな?」


 拓実は辺りを見回し難しい顔をしている。その様子を立ち止まって観察していると、


「あ、雫探したぞ」


 とこちらに近寄ってくる。


「その、今週の土曜空いてないか? よかったらどっか遊びに行こうぜ」

「え、あ……」

「もしかして予定あるか? それならまた、」

「空いてるっ! その、行きたい、です」

「よし、わかった! じゃあまたな」

「う、うん」


 拓実はさえかと美和子に向けて軽く会釈すると反対方向に駆けて行った。

 なにも今言わなくてもいいのにと心の中で呟くつつも、雫は胸を躍らせずにはいられなかった。

 しかもこれはいわゆるデートの約束。これこそ美和子の言っていた悩み相談にあたるものだろう。


「美和子、その……早速相談がってあれ?」


 振り返るも、後ろにいたはずの二人の姿は見当たらない。


「美和子、しーちゃん置いてっていいのー?」

「さえか、あれはもう雫じゃない。あれは俗にいう『イチャイチャ見せつけクソカップル』だよ。雫はいなくなっちゃったの」

「えーよくわかんないやー」


 いつの間に階段を降りたのか、二人は雫を置いて教室へと歩を進めていた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 雫は久し振りに声を目一杯張り上げ、誤解を解くべく二人の後を追った。


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