8話 本当の理由
――あれ?
さっきエマは確かに時間停止魔法を解除したはずだ。
だがなぜかみんな未だに動かないままでいる。
「とまあおふざけはこれくらいにして――タクミ、ちょっといいかな」
「ああ。てかエマ、なんでまだみんな動いてねーんだ? さっき魔法解除したよな?」
エマは机に寄り掛かり俺の肩に手を置いている。なんでこんな密着してるんだ……。
「うん、一旦解除してすぐまた発動したけどね」
「なんの意味があんだよ」
「セインには聞かれたくないことなんだよ、今から話すことは」
「セイン?」
セインは教壇でにっこりとした笑顔のままクラスメイト同様に動きを停止していた。さっきまでセインも動いて一緒に話していたはずだがどうしてだろう。
「なんでセインも止まってるんだ?」
「今使ってるのはね、私が独自に編み出した新しい魔法。術者が触れている人間だけ魔法の効果を受けないのが特徴かな。だから今は私とタクミだけ動いてるんだよ」
あ、だから肩に手置いてんの。なんか誘惑されてんのかと思ったよ……。
「じゃあ本題にいくね――私たちはアルガルドから無断でこっちの世界――ミラクレアにやってきたわけなんだけど、もちろん国王様たちはお怒りになられているわけ」
「まあだろうな」
「セインは婚約も破棄するし、タクミに会いたいって聞かなかったからそりゃあもう大変だったんだよー。だから私が独断で連れてきたのさ。で、タクミにはほんとに申し訳ないんだけど、どっちか決めてほしいんだよね」
独断で連れてきたって……さらっと言ったけど何やってんだよエマ。
許可なく異世界に行くのは国の掟に背く行為だったはずだが大丈夫なんだろうか。
「どっちかって……今度は何をだよ」
「セインと結婚するかしないかを」
「…………」
エマの目は真剣なものに変わった。聞き間違いか確かめるまでもないようだ。
「今すぐにとは言わない。アルガルドに帰るにはそれなりに準備が必要になってくるからね。そうだなあ、再来年の三月。だからえっと、高校の卒業式だっけ? それまでに決めてほしいんだ」
「……もしそれを断ったらどうなるんだ」
「うーん。その時なってみないとわからないねー。まあまだ時間はたくさんあるし今は心の奥に留めておくだけでいいからさっ」
「再来年の三月まで……か」
「よし、今度こそ話は終わり! わかってると思うけどセインにはこの話はしないでね。 じゃあ魔法解くよ!」
「え、おいちょっと!」
俺の返事も待たずにエマは魔法を解いた。途端に周りはいつもの喧騒を取り戻した。