79話 模索
――あと半分くらい、か。
雄牙は目を細め、残るコースがどれくらいあるか確認した。
急降下時のフワッとした感覚が恐怖から爽快感にシフトし、やっと心に余裕ができたところでふと横に目をやると、歯を食いしばり目を瞑る有愛の姿が映った。
拓実たちとの会話であった通り、こういった乗り物はダメなタイプらしい。
さっきまでのキリっとした表情は跡形もなく、恐怖に顔を歪めている。
雄牙も今でこそジェットコースターを楽しめてはいるが、小さい頃はまさに今の有愛のように目も開けらてられないほどに恐怖していた。
降りた後はわんわん泣いて、しばらくして泣き止んでも恐怖は頭の中にこびりついて離れてくれなかった。そんな昔の自分と今の有愛の姿が思わず重なってしまう。
そう思うと無意識に雄牙の手は、握っていた安全バーから離れて隣に座る有愛の手へと向かっていった。
そして目的地へと辿り着くと、離れないようにしっかりとその手を掴んだのだった。
そこまでを終えて、雄牙はふと我に返り自分の行動を省みた。
――自分は何をしているんだろう、これってセクハラに値するんじゃないのか。
異性の手なんか生まれてこの方握ったことなんかない。ましてやほぼ初対面でジェットコースターに怯え切っている最中である。
パニックに陥りしばらくしてとりあえず手を離そうと力を入れる。しかし、雄牙の手はピクリとも動かず有愛の手を離れてはくれない。
おかしいなと思い、勇気を振り絞り有愛の表情を伺うと、目は相変わらず瞑っているものの、さっきよりも少しだけ落ち着いた表情をしている。
雄牙は状況を整理しようと未だ握ったままの手に神経を集中させる。
すると、雄牙の手の他に、別の力が加わっているのが分かった。
有愛が急に握られた手を振り払うことなく、逆に握り返してくれていたのだ。それも雄牙の手に食い込まんばかりの力で、だ。
頭の中でそう結論を出すことは非常に容易いことだが、実際にその状況に置かれてみると、とても信じられない気持ちになる。
有愛が握り返してくれたことにも勿論びっくりしているが、なによりも今の自分がそこまで動揺していないことに雄牙は驚いた。
異性と目を合わせることさえままならない自分が、どさくさではあるが手を繋いでいる。そもそもこうやって隣り合わせでジェットコースターに乗れていることも驚きである。
異性への免疫が付いてきたのか――いや、違う。さっき三人と会った時あまりのかわいさにあっけに取られてしまっていたしこれはない。
じゃあ、有愛に女性としての魅力がないのか――それはもっと違う。中性的な顔立ちで言葉遣いも荒々しい部分が垣間見えるものの、言動の節々にはしっかりと年相応の女の子らしさがにじみ出ていてとても魅力的だ。
――ではなぜこうも自分は穏やかな気持ちでいられるのだろうか。
有愛の思いのほか華奢な手をしっかり離さないように握りながら、雄牙は残りのコースを楽しむことも忘れ、納得のいく答えを模索した。
しかし、ジェットコースターを乗り終えその手が離れてもそれらしい答えは出ることはなかった。




