76話 派手
今雄牙の横にいるのは――確か赤羽有愛と言ったか。
百七〇近い身長に長くツヤのある髪の彼女は、着ているスーツのせいもあってかとても大人びた雰囲気を醸し出している。
何故スーツを着ているのか疑問に思うところではあるが、話し掛けるという選択肢を持ち合わせていない雄牙には、せいぜい頭の中で都合のいい解釈をすることしかできないので、このことに対する思考を停止した。
そのうちみんなとの会話の流れで答えが出てくるだろう。
もしかしたらさっき彼女らと対面した際、あまりのかわいさにあっけに取られていた数十秒間にそういった話が出ていたかもしれないが、まあ、そのときはそのときだ。
腕を組んで視線をどこか遠くの方に飛ばしている彼女は、この長い待ち時間の間、一度たりともこちらに視線を向けないでいる。
といっても、雄牙も横目でちらりと様子を伺うばかりで顔の向きを変えてまで見ることはしていないので、傍から見るとお互いずっとそっぽを向いた状態である。
気まずいと言えば気まずいが、雄牙は二人の間に立ち込める灰色がかった空気は慣れっこだった。
女子に関わらず、雄牙の自他共に認める派手派手しい外見は、間違いなく相手にマイナスの先入観を植え付ける。
目を合わすまいとそっぽを向かれたり、誰に聞かれたでもないのに取って付けたような言い訳をこぼし雄牙から離れて行ったりと、大体はこの二パターンだ。
外見を変えればこの気まずい空気の解決に至るかもしれないが、そうしないのはそれ相応のメリットが存在するからである。
この派手な見た目は、雄牙を雄牙ではない、もっと大きな存在へと変えてくれるのだ。
従来の自分と全く違う外見は、雄牙を新しい自分に生まれ変わったと錯覚させてくれる。それにより、今までの自分では到底出来なかったことも成し遂げられるのではと思わせてくれるのだ。
現に、雄牙はこの仮初の恩恵を受け、クラスの男子たちを束ねる存在になることができたし、以前より積極的に行動するようになった。
異性に話しかける勇気こそついぞ湧いてはこなかったが、この重苦しい空気を味わうことを引き換えに得たものとしては割に合ってると思っている。
「みなさん、前へ進んでくださーい!」
係の人の声に反応し、列がほんの少し前進する。その時、すぐ前にいる拓実とチラッと目が合った。
話し掛けようと口を開こうとすると、拓実は含みのある笑みと心配そうな瞳でなにか雄牙に訴えかけ、すぐに目線を外された。




