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75話 免疫

 ――拓実の目に自分はどう映っているのだろう。

 雄牙は強張る体をそのままに、目だけをキョロキョロと動かした。

 

 仲良く腕を組んで歩いたり、恋人つなぎ? とやらで手をぶんぶん振りながら歩いたり――カップルと思しき人たちは、人目に付くことも恐れず、お互いの愛を確かめ合うようにそう言った行動を取っていた。

 

 雄牙にはとてもじゃないが、できない所業であることは明白だった。

 そもそもああやって長時間異性と目線を触れ合わせること自体、雄牙にはできそうもない。

 有名な歌の歌詞に、「見つめ合えば素直におしゃべりできない」というのがあるが、そもそも前提に掲げている「見つめ合う」という行為が雄牙には無理難題で、その先のおしゃべりに到達すらできていないのが現状である。


 どうしてこんなにも異性への免疫が欠落しているのか、その理由は単純で、家族に異性が一人もいないから、というのが挙げられる。

 小さいころから父子家庭で育った雄牙には姉も妹もおらず、頑固一徹な父と五つ歳の離れた兄の三人家族で生活していた。

 

 母は雄牙が物心つく前には他界してしまい、父は再婚する気もする人もないままで、不器用ながらも男手一つで二人を育ててくれた。

 そんな父譲りの女性への免疫の無さを自覚し始めたのは、小学校の高学年の頃だった。


 それまでは、男と女という性別の違いを感じることなく本当に誰とでも仲良く接していた雄牙だったが、その時期になると女性の体の成長は子供である雄牙にさえ顕著に映り、同時に言い知れぬ感情が芽生え始めたのだ。

 

 その感情は中学に上がってからも留まることを知らず、やがて目を合わすことも困難になったというわけだ。

 兄の真似をして見た目を派手に飾り、自分を大きく見せようと努めたが、それは逆効果でより異性との距離を感じさせられた。


 中々重苦しい口調でさも重大なことのようにここまで話してきたが、なんのことはない、思春期にはけっこうありがちなことである。

 

 思い切って友達にこの悩みを打ち明けた時もみな、大小はあるが異性への意識が芽生え始めたと話していたし、それを乗り越えるからこそ恋愛というものが輝かしく美しく見えるのだろう。

 それに雄牙には、ただ一人異性で会話することのできる人物がいる。幼馴染の東雲雫である。


 かろうじてではあるが、なんとか薄目であれば目を合わせ、話すことが出来る。

 何故話ができるのかというと、雄牙は雫の秘密を握っているのが大きく関係していると思われる。

 雫は拓実に昔からずっと好意を寄せているのだ。本人から直接聞いたわけではないが、見ていれば容易にわかる。

 普段無口な雫だが、拓実の前だと口数も相槌も増え、感情の昂りに連動して後ろで組んでいる手をもじもじと絡み合わせる。

 拓実にこそ気付かれていないだろうが、修には悟られているに違いない。

 

 そんな光景を普段から目の当たりにしているからか、どうも雫にだけは言葉を交わすことができるようだ。

 異性として見るというより、恋路を密かに応援する仲間として雫を見ているからかもしれない。


別に雫に特別な感情を抱いている訳ではない。ただ、そういった自分の恋心と葛藤している雫が雄牙の目にはものすごく輝いてみえるのだ。


それと同時に、いつか自分もこんな風に相手のことで頭がいっぱいになれるような恋愛をしてみたいと思うのだった。


――って、考えるのはいつもできるんだけどな……。


無意識に頭を掻くと、緊張で硬直していた体が動いたことに気付く。

近距離に異性がいると、体が固まってしまうのが長年連れ添っている悩みの一つでもある。

全く、将来が危ぶまれるなと他人事のようにため息を一つこぼす。



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