74話 並行
「あ、タクミこっちこっち!」
結局、雄牙の意識が戻ってくるのに数分掛かり、俺たちはかなり出遅れる形でセインたちの後を追った。
セインたちの元へ向かう間、雄牙に「俺、なんか変なこと言ってなかった?」と聞かれ、反射で食い気味に「言ってなかったよ!」と返したのが若干気まずかったが、そのうち忘れてくれるだろう。
少なくとも俺は、雄牙が家族ことを「ママ」「パパ」「じいじ」「ばあば」などと普段呼んでいることは一生忘れはしないだろうが。
「いきなり、コレか……」
やっとセイン達に追いつき足を止めると、そこにはさっき雄牙がウキウキ顔で話していた名物のジェットコースター「天竜」があった。
レールを支える鉄骨は全て赤一色で塗装されており、乗り物自体はすごくリアルな竜のデザインで、今にもレールから解き放たれそうな勢いである。
急上昇する箇所がいくつもあり、天高く昇る竜の様をイメージして作ったとのことで「天竜」と命名されたらしい。
非常にシンプルなネーミングと目をひく外装が人気でこの遊園地では一番の人気アトラクションといわれている。
その証拠にセインたちが並んでいる最後尾はアトラクションの入場ゲートからかなり離れたところで、俺は走るスピードを緩め、息を整えつつセインたちと合流した。
「ごめんな、遅くなって」
「いいよいいよー。見ての通り順番まだまだだし、ゆっくり来ても良かったくらいだよー」
「待たせてるんだしそういうわけにはいかないだろ」
エマは「それにしても暑いねー」とパタパタと手で体を扇ぎながらカンカンに照り付ける太陽に目を眇めた。
アトラクションからずっと伸びる列は二列構成になっているため、俺たちは今、男女が横並びの三ペアになって順番待ちをしている。
前から修とセイン、俺とエマ、そして雄牙とアリアという風になっている。
修とセインはどちらも選り好みせず人と接するタイプなので、なんのわだかまりもなく仲良く話している感じだ。
エマと俺も一年以上の長い付き合いのため、特にぎこちなくなることはない。
問題はアリアと雄牙だ。
アリアは滅多に人に心を開いたりしないし(なんなら俺にも開いてないし)、雄牙は異性となると目も合わせるのも困難なほどだ。
今もお互いそっぽを向いて周りの景色に意識を散らし、時間を潰している。
そして俺の横にはその状況を見て、意地の悪い笑みを浮かべている奴が一人。
「おい、エマ。笑ってないでどうにかしようぜ」
今回のこの遊びは、セインの「遊園地に行きたい」という思いと並行して雄牙の女性への苦手意識改変を目的としている。
このことはエマにもちゃんと事情を伝え、「引き受けた。私に考えがあるから任せて」と確かに言質を取った気がするが、当の本人であるエマはこの調子である。
「あれでいいの、あれで。ほら、アリアも人に心開いたりしないからこう、相乗効果というか、ね? うまいことバチバチっとお互いい感じに悪いところを解決し合えないかなーと」
「なるほど。要するにお前はノープランなわけだ」
少しでも信用した俺がバカだった。
後ろをちらりと見ると雄牙と目が合い、ETのあの名場面「トモダチ」を一人で再現しながら俺に助けてほしそうな顔を浮かべている。




