72話 入場
「ぼ、ぼく、おうち帰る……」
「今更何言ってんだよ」
「もう入場料払ったんだし、諦めるんだね雄牙」
遊園地の入場ゲートをくぐったあたりで雄牙は駄々をこね始めた。
入る前は外から見える名物のジェットコースターに目をキラキラさせ、事前に持っていたパンフレットを広げ、乗りたいアトラクションに印を付けたりしていたが、入ってからセイン達がいると伝えると、帰りたいと言い始めたのだ。
「ママ―あのお兄ちゃん、ジェットコースター怖いのかな?」
「しっ、見ちゃいけません」
引き返そうとする雄牙を俺と修で引っ張っていると、俺たちより後から入ってきた小学生くらいの子供に指を差された。
母親は軽く注意するとそのまま何事もなかったように子供と共に遊園地の奥へと消えて行った。
「ほら、お兄ちゃん、ジェットコースター怖いなら無理に乗れとはいわないからさ」
「ジェットコースターが怖いんじゃねーの! 女子がいるのが嫌なの! てか修はいつものこととして、拓実お前騙しやがったな!」
「いやー苦手を克服させようと思って今回は俺も心を鬼にしたんだよ。俺も辛いんだよ? でも親友の為と思って……」
雄牙は異性への免疫がほとんどない。
その為、女子との会話はほとんど皆無で、目を合わせるなどもってのほかである。
普段は赤い髪に悪い目つきで近寄りがたい雰囲気を出しているため、特に問題なく過ごしているが、本人的にはほんとは仲良くおしゃべりしたいと思っているらしい。
なので今回、苦渋の選択ながらも無理矢理雄牙と異性との接触を起こす為、この計画の遂行に踏み切ったのだ。
なにも、普段学校で調子乗ってるやつがあたふたするのを見てスッキリしたいと言う邪な考えを起こしたわけではない、断じて違う。
「親友の為って――人の心配してる余裕あんのかよ、お前らだって彼女いねーじゃん」
「お前、言ってはならねーことを……」
「そんなこといっていいのかな? 拓実!」
「おう!」
痛いところを突かれ、言い返すこともできず、俺は修の合図で雄牙を羽交い絞めにする。
「おいやめろ! くすぐったいって!」
修は慣れた手つきで抵抗できない雄牙の腋をくすぐる。
雄牙は声も漏らすまいとしばらくは耐えていたが、やがてダムが決壊するかのように奇声を上げはじめた。
「謝る? 謝る?」
「わかった謝るから! ちょもうやめてくれ!」
「よし、あと三分ね」
「いや、死ぬっ……」
俺たちがこうしている間にも、遊園地の入場ゲートからは続々と来園した人たちが目当てのアトラクションへと向かっていく。
そのほとんどは俺たちとすれ違うと冷ややかな視線を浴びせてくるので、少しばかり辛い気持ちになる。高校生にもなってなにしてるんだ俺。
「あ! いた、拓実たちだ!」
「えー人違いだよー」
「エマの言う通りですセイン様。あんなに人目を憚らず欲求を満たしている輩に知り合いはいません、目の毒です。見なかったことにしましょう」
聞き覚えのあるその声も、周りと同じく俺たちに冷たい視線を送りながら通り過ぎていった。




