67話 没頭
「ただいまー」
家の中に入ると、なにやらリビングからはしゃぐ妹たちの声が聞こえてくる。
そのせいか、いつも返ってくるはずの「おかえり」が聞こえてこず、少し寂しい気持ちになる。
「おい、お前らなにしてるんだ?」
閉ざされているリビングのドアをノックし、扉の向こうにいる妹たちに声を掛けるがそれでも返事がない、ただの屍のようだ。
ちなみに環のバストアップ体操の一件以来、リビングのドアが閉じていれば、必ずノックしてから入るようにしている。二度とあんな気まずい思いはしたくないからな。
「入るぞ」
あっち側に聞こえているかわからないが、そう断りを入れて、俺はリビングのドアを開け、中の様子を伺った。
妹たちは、どうやらテレビゲームに興じているようだった。
コントローラーを握りしめ、あぐらをかいてテレビの前に陣取っている。
テレビ画面を見ると、荒れた大地のようなステージで、キャラクター二人が攻防を繰り広げている。
恐らく、最近発売され話題となっていたゲームだ。
元から用意されていたキャラクターを使用するのではなく、自分たちで一からキャラクターを作り上げ、ゲーム展開をしていくというものだった気がする。
話しかけても返事ねーし、いっとき見とくか。
テレビから少し離れたところにある座椅子に腰を掛けると、俺は携帯をいじりながら妹たちのゲームを傍観することにした。
「あ、間違えた! ヤバい!」
「やった! アイテムゲット!」
「よし、ゲージ溜まった!」
「あー負けちゃったー。もう一回!」
なにかと違うとこ多いけど、こいつら、ゲームの実力はおんなじくらいだな。
妙が勝ったら次は環が勝って、妙が負けたら次は環が負けて――やっぱり双子なんだな。攻撃パターンとかほとんど一緒だし。
そんな二人の微笑ましい姿に俺が割って入る余地は無く、ますますヒートアップする二人を、俺はただただ眺めていた。
――しかし、しかしだ。一言だけこいつらに言いたいことがあったりなんかするわけだ。
このゲームはさっき言った通り、プレイヤー自らキャラクターを作り上げることができる。
テレビ画面に映るキャラクターの容姿を見てみると、一人は髪を二つ結びにした出るとこしっかり出ているチャイナドレスの女性。
柔らかい表情に女性らしい体つきは見るもの全てを虜にしてしまいそうだ。
もう一人はボディースーツをしっかりと着こなしているスパイ風の女性。
体のラインは細く、華奢に見えるが、真剣な眼差しと全身黒のその姿は画面越しでも気圧されてしまうほどだ。
で、ここからが本題だ。
俺は勿論、チャイナドレスを妙が使用し、スパイの方を環が使用していると思っていた。
既存のキャラクターならまだしも、これは一から作られたキャラクターだ。
等身大の自分とはいかないまでも、大体は自分の容姿に寄せるが一般的だと思う。
だから、俺はそう高を括り、二人のバトルを見ていたのだが、どうも違和感があった。
チャイナドレスが劣勢でも妙は喜んでるし、スパイが勝っても環は悔しそうにしている。
さらに、キャラクターの体力や必殺技のゲージなどを示すバーのところにあるプレイヤー名をよく見れば、チャイナドレスの方に「TAMA」、スパイの方に「TAE」と表示されている
このことから、論理的思考に基づいて答えを導き出すと、チャイナドレスを環が、スパイを妙が一から作り出し、今こうして使用しているということになるわけだ……プレイヤーの見た目と真反対じゃねえか。
いや、いいんですけどね。なにも、自分の見た目に寄せて作れとかそんなルールないし。
理想の自分をせめてゲームの中でも! って思うのは悪いことではないですはい。
ただ、二人の普段の悩みとか知ってる俺からしたら、なんだかいたたまれない気持ちになるわけですよ……。
そんなことを俺が後ろで思っているなんて知る由もなく、二人はその後もひたすら無邪気にゲームに没頭した。




