65話 邪魔
その後、無断で屋上に立ち入ったこととピッキング、そして嘘を付いたことを咎められ、色々な先生に非常にありがたいお言葉(説教)を頂戴し、雫たち三人には屋上の清掃という罰が与えられた。
まあ、お陰で屋上の出入りは公にされてはいないが許可され、美和子とさえかと仲良くなれたことは、怪我の功名といっていいのかもしれない。
二年生になってクラスが分かれてしまったのは本当に残念だが、時折こうして集まり、話ができるのは、友達の多くない雫にとって、すごくありがたい。
「で、拓実君のことでなんかあったの?」
「ん、ああそれが――」
雫は話せる範囲で拓実、そして最近来た転校生たちについて、美和子に思いの丈を吐き出した。
美和子は聞き上手で口が堅いので、去年からずっと雫の良い相談相手になってくれている。
「そっか、まあ学校中その転校生ことで持ち切りだもんね。雫も振り回されて大変だねえ」
「……なに、ニタニタ笑ってるの」
「いや、べっつにー。雫、ライバル多いなーって思っただけ♪」
「……いじわる」
含み笑いを浮かべる美和子の顔から目を背けると、屋上をひたすらに駆け回るさえかの姿が目に映る。
あのくらい、自分をさらけ出して生きていけたらどんなにいいことか。
「じゃあ、別の人に乗り換えちゃいなよ。雫のこといいなって言う人けっこういるよ」
「もう……そんなのできたら苦労してない。できないから、困ってるんじゃん……」
「あーかわいいなーもう! ほーらよしよし! 飴ちゃんいる?」
「……いらない」
美和子の前では、こんな感じでつい饒舌になってしまう。
普段思うだけで恥ずかしい言葉が気付いた時には口に出ているのだ。
「私ってやっぱり、重い、よね……幼稚園の頃からずっと好きで、でも好きって言えないままで、高校も一緒のところ選んで、家が隣だからって一緒に通学して――拓実の邪魔、しちゃってるんだよね……」
「……それ、本気で言ってるの?」
「え、うん?」
美和子は信じられないという様子で、雫に憐みの視線を送る。
あまりにも重すぎて引かれたのだろう、と雫は更に肩を落ち込ませる。
「はー。まあ多くは言わないよ。でも、自分のこと、邪魔だなんて思っちゃダメだよ雫。渡したくないんでしょ、拓実君のこと」
「……うん、いやだ」
「じゃあ、いいじゃん。思いっきり幼馴染の権力使って甘えちゃえばいいよ。家が隣だからこれからも一緒に学校通えばいいよ。私が思うに、恋に卑怯だとか不平等だとかないと思うね。使えるもの全部利用したもん勝ちなんだよ結局」
美和子は雫を元気づけるように、ガラにもなく熱弁してくれた。
「わかった、ありがとう美和子」
美和子に話し、アドバイスを貰ったことでさっきより心が軽くなったように思う。
――あとで、拓実たちに謝らないとな。
そう思いを馳せると、さえかがやっと走り回るのに飽きたのか、二人の元に駆け寄ってくる。
「はー楽しかった! 二人共何の話してたの?」
「んー? それはね、最近来た転校生に雫が妬いてるって話」
「ちょ、美和子……」
「焼いてる? よくわからないけど暑そー」
少しでも慌てた自分が恥ずかしい。雫は美和子と目を合わせ、思わず声を揃えて笑ってしまう。
「ん、でもその転校生なら最近よく田頭公園で見るよ!」
「へーそうなんだ。ジョギングかなんかしてるの?」
田頭公園――雫も通学の際、よく通る公園で、拓実と別れ、そして再会した場所でもある。
確かさえかは犬を飼っていて、夜に親と犬の散歩に行くことが日課と言っていた。
夜中によく出歩くとなると、美和子の見立て通りジョギングかなにかに違いないだろう。
「いや、そうじゃなくて一人でぶつぶつなんか言ってるんだよねー」
「え、ぶつぶつ? それに一人? 三人でじゃなくて?」
「うん、あのなんとなーく悪そうな人だけだよ。ほら、目元にホクロがある、」
「恵真のこと? さえか、悪そうとか、思ってても言わないでほしい。友達、だから……」
「わかった、ごめんねしーちゃん」
「うん、ありがとう」
夜中に一人で――エマのことだからなにか考えがあっての行動なのだろうが……。
しばらく考え込んだがこれといった答えが出るはずもなく、雫は思考をストップさせた。
考えても仕方ない。今度話す時のきっかけにしようと決め、雫は「今度聞いてみるよ」とこの話を終わらせにかかった。
その後、二人と何でもない会話をいくらか交わしているうちに、エマの話は雫の記憶の片隅へと追いやられてしまったのだった。




