63話 鍵穴
「あははっ、びっくりさせちゃったかなごめんね雫ちゃん。そんな警戒しなくても先生に言ったりなんかしないよ?」
「……誰?」
「誰って……一応おんなじクラスなんだけどショックだなあ。まあいいや、私は三島美和子。まだ四月だし、覚えてないのも無理ないかもね。一応学級委員だし覚えといて損はないと思うよ!」
知られていなかったことが余程ショックだったのか、笑顔を崩しながら美和子は自己紹介をしてくれた。
「で、こっち落ち着きのない子が……っていない!?」
「うわー屋上ってこんななってるんだー! きったなーい!」
美和子の横に、つい今までいたらしい女の子は、いつの間にか雫の背後のドアに顔をひっつけ、屋上を眺めている。
「澤口、さん?」
「あっ、しーちゃんじゃん! なんでここにいるの?」
「へー二人共知り合いなんだ。そうか、出席番号近いもんね」
そう、「澤口さえか」と「東雲雫」。
出席番号は一つ違いで、雫の前の席にさえかは座っている。
雫の性格上、こういった底抜けに明るい性格は基本受け付けないのだが、
「わーい! しーちゃんあったかーい!」
「ちょ、ちょっと……あんまり引っ付かないで」
「あ、ごめんね――いや、だったよね?」
「そ、そういうつもりじゃ……急に来たからびっくりしただけで、別に嫌では――」
「ほんと!? しーちゃん大好きー」
「…………」
こういった具合に、いつもうまく丸め込まれてしまうのだ。
緩急の付け方が絶妙、というか。
なにも考えてなさそうに見えて、ほんとはものすごい策略家なのではと勘ぐってしまうほどだ。
「ほら、雫ちゃん困ってるよさえか。その辺で終わり」
「んーわかったよー」
「で、その、三島さんは、なんで声、掛けてくれたの?」
美和子に言われ、やっとさえかが離れてくれたところで、雫はやっと話を本題に持って行った。
「三島さんってカタいなー。美和子でいいよ雫ちゃん。たまたま廊下歩いてたらガチャガチャ音が聞こえてさー、音のする方来てみたら雫ちゃんが屋上行きたそうにしてたから力になれるんじゃないかと思って」
「力に?」
「そう。じゃーん! 『ヘアピン~~』」
某国民的アニメの効果音風に、美和子はポケットからヘアピンを取り出した。
「それで開けるってこと?」
「そうそう! まあ見てて。こういうの慣れてるから」
美和子はヘアピンを変形させ、鍵穴へと差し込んでいく。
一つの躊躇もない手つきは、さっきの発言を大袈裟なものにさせていない。
その真剣な眼差しは、かなりの場数を踏んできたのだろうと思わせると同時に、深くは追及しないでおこうと雫の心に決めさせたのだった。




