54話 赤面
「いや、だからその、本当なんだ……」
「わかったよ、聞いてタクミ。これは、あまりの精神的ショックで記憶喪失とかだよきっと」
「違うエマ、聞いてくれ私は――」
「あ、記憶操作の可能性もあるよねー。エマ、待ってて! すぐに私が助けてあげるよ!」
「エマ、もうやめろ。お前も薄々わかってきたんだろ。本当に助けたいなら口を閉じてくれ」
あんな別れがあってからのこれは拍子抜けにも程があるが……アリアは申し訳なさそうに口ごもるし、エマは聞く耳持たねえし、もう見てらんねえ。
「と、とにかく! 無事でよかったじゃねえか! アルガルドからこっちへはそう簡単に来られるもんじゃねえんだろ?」
「ああ、だから任務を失敗した私を殺しにやってくる、なんてことはまずないだろうな」
「じゃあ、しばらくは安心できるな」
俺の記憶が正しければ異世界へ転移する方法は、「勇者召喚・帰還の儀式」と「リオスの鉤爪による魔法陣転移」の二つだけだ。
リオスの鉤爪はアリアが持ってるし、勇者召喚は新しい魔王が現れない限り行えない。
エマができそうなことをこの前言っていたから他にも方法はあるのかもしれないが、エマも今すぐにはできないと言っていたし、とりあえずいくらかの猶予があることはまず間違いない。
「そうだな。それに、異世界転移が自在にできるならば、わざわざ単身で私を送り込ませようとはしないだろう」
「だな。じゃあこれからどうするか考えようぜ」
帰れないとなれば、アリアの生活できる場所を探さないといけないな。セインたちと一緒に住むのがベストだと思うが……そもそもセインたちどうやって生活してるんだ? 戸籍とかどうしてるんだ? 魔法でうまくやってたりするんだろうか……。
「おい、エマ。アリアはとりあえずお前らと同居してもらうのが一番いいと思うんだが……家に余裕ありそうか?」
「……うん、あるある大丈夫そうだよー。それより、アリア。本当に魔法陣に間違いがあってアルガルドに帰れなかったんだよね?」
おっ、エマが現実を受け入れ始めた。よかったよかったって……うわ、ヤバいこれ。満面の笑みで優しい声色って、完全に悪いこと考えてる時のエマだ……し、知ーらねっ!
「すまん、しばらく世話になる。ああ、不甲斐ないことに……私としたことがな……」
「じゃーん!! アリアちゃんこれなーーーんだ?」
「それは……私の手紙、か?」
「せいかーい! 正解したアリアちゃんに、私が手紙読んであげるよー。ええっと、『この手紙がお前の元に渡っている頃には、私は恐らく生きてはいないだろう』――あれ、あれ? あれれーおかしいぞー?」
「お、おい! それは卑怯ではないかエマ! 人としてどうなんだ!」
エマはいつもの調子を取り戻し、アリアは俯いた顔は上げてくれはしたが、耳まで顔を赤くしている。
「『お前とはいがみ合ってばかりだったがそれなりに悪くない時間ではあった』――アリア、そんな風に思ってくれてたんだねーうれしいなー」
「あー! 違う、違うぞ! それは言葉の綾というやつだ! お前のことなんか顔も見たくない!」
「もー照れちゃってーかわいいなー」
その後、いつも閑散としている廃墟には、しばらく悲鳴と笑い声が交互に響き合ったという――。




