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43話 私情

 リオスの鉤爪によるガリガリという音だけが二人の耳を不規則にくすぐる。


 魔法陣は完成間近、アリアはインクの役割を果たしている自分の血を無感情に見つめながら作業に没頭する。

 何回も見て暗記した魔法陣の模様を頭で思い出し、現状と照らし合わせながらゆっくりと丁寧に描いていくアリアのすぐ後ろには、頭を抱え苦しそうな表情を浮かべるタクミの姿があった。


 その姿を尻目で捉え、アリアは軽くほくそ笑む。他人が苦悩する様を見て悦に浸ってしまうのは抗えない人の性だが、それがタクミとあっては個人的な思いも上乗せされ更に気持ちが高揚する。

 

 昂る思いを抑えつけると心なしか魔法陣を描くペースがダウンしているのに気付く。

 もしかしたら鈍感で愚かな元・勇者の醜く歪められた顔を少しでも長く目に留めておきたいからなのかもしれない。


 魔法陣は繊細で模様を少しでも間違えると機能しなくなるというのも慎重にならざるをえない理由ではあるが、何度も完成形を見返し暗記したアリアにしてみれば不安要素にも数えられないただのこじつけにしか成り得なかった。


 アリアはタクミの中途半端なところが気に入らないでいる。

 頭が特別冴えるわけでもないのにいざという時だけ誰にも思いもよらない奇策を思いついてみたり――。

 勇者に与えられた唯一無二の才を発揮できずにいると思いきや、土壇場で結局使いこなしてしまったり――。

 顔は断じて平凡なくせに時折見せる真剣な表情や無邪気な笑顔がなによりもアリアの胸の鼓動を早まらせたり――。

 そしてセイン様の気持ちにだけは気付いておいてそれに応えずにいたことがなにより腹が立った。

 はっきりとした意思を示してくれていたらセイン様がはるばる異世界へ飛んでいくこともなかったし、アリアのどうしようもなく報われようもないタクミに対する気持ちにも踏ん切りがつけられたというのに……。

 さっき私情を挟んでいるなどと嘆かれたがあんなものアリアにとって私情の範疇ではない。本当に思いの丈をぶちまけていいのなら最初からしている、できないからこうやって誰にも言わず、悟らせないよう神経を使っているのだ。

 極端にしか生きていけない不器用なアリアからすればタクミのような中途半端な――よくいえば器用な生き方はとても真似できそうなものではない。

 

 ガリっと最後に短い音を立て、アリアはリオスの鉤爪を手から外した。


「描き終えたぞ。さあ、答えを聞こうか」


 未だ止まらない指から出た血を舐めながら振り返り正面からタクミを見ると尚も決断できない様子で顔をしかめている。恐らくアリアの声は届いていないだろう。


 不覚にもそんな表情に見惚れてしまったアリアは胸の高まりが収まるまでの間、もう一度声を掛けるのを待つことにした。これがタクミとの最後になるのだから少しくらいいいだろう、そう自分に言い聞かせて――


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