23話 部活見学
昨日とは一転し、今日は時間の流れがとても早く感じた。
女性に飢えた男共の憎しみに満ちた目は相変わらずだったが、セインたちとは極力一緒にいないよう意識したお陰で特にこれといった問題は起きなかった。
俺の人生はこれでいい。上がり下がりがなく普通に生きて普通に死ぬのがベストだ。異世界に召喚されるなんていう特大イベントはお呼びじゃないぜ。
ホームルームが終わり人口密度が低くなった教室には、現在俺の他にクラスのカースト上位の女子たちがセインとエマを取り囲み質問攻めをしている。
転校してきて二日目、昨日は一緒に帰るくらいまでの仲になった二人はクラスに馴染めたと言っていいだろう。
聞こえてきた話を整理すると二人は従妹同士。出身は東京でアメリカと日本のハーフ。家庭の事情で同棲することになり一緒に転校してきたという。
セインがボロを出しそうにはなったが、そこはエマがうまくごまかしなんとか納得させることに成功したようだ。
「そういえば、二人は部活とかやらないの?」
「自己紹介の時、聖ちゃん剣道してたっていってなかった?」
「あー……そうなんだよ! 前の学校で剣道? をやってたの!」
「じゃあ今からうちの剣道部の見学いかない?」
「ごめん私たち今日これから用事あるから早く帰らないといけないんだー」
「前の学校で剣道をやっていた」――確かにセインは自己紹介の時言っていた。正しくは、「元の世界では剣士をやっていた」なんだが。
セインの言動からして剣道は名前を知ってる程度なのだろう。自己紹介が名前だけだと味気ないからとかいう理由で言ったのだろうが裏目に出たな。
「ちょっとだけ、最初だけでいいから。ね?」
「うんうん。本番じゃないから、ちょっとだけ!」
「え、ちょっと待っ」
抵抗もむなしく二人はされるがままになり、流れに身を委ねることしかできずにいた。
呆気に取られ声も出せずにいるそんな二人を、俺はただただ目に焼き付けることしかできなかった……。
ここだけ見ると誤解招くなこれ……。
女子たちの声が消えると、久し振りの静寂が教室を包み込んだ。
ちなみに俺は雫の委員会の仕事が終わるのを待っているところだ。
どちらかがこうして放課後に用事ができたりしても先に帰ったりなんかはしない。どちらが言い出したわけでもなくなんとなくそういうルールが俺たちの間には出来上がっていた。
雫は頭もいいしスポーツもできるが、部活には一回も入ったことがない。
俺と帰ることがネックになって入りづらいのかと思って申し訳ない気持ちもあったが、俺がいなくなったこの一年間も部活には入っていないとこの前聞かされた。
雫の委員会が終わる時間が5時くらい、今の時刻は4時15分か……。
セインの慌てようは相変わらずだが、エマも少しばかり動揺していたのを見るとボロが出てしまう可能性が高い。ここはひとつ、俺がボロが出ないようにフォローしてやるか。
雫が置いていった鞄に念の為置き手紙を残し、俺は二人の明るい学校生活を守るべく武道館へと向かった。




