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12話 嫉妬

 ――何を話しているんだろう……。


 雫は教室へ向かう足を止め、うっすらと聞こえる会話に耳を澄ました。

 聞こえてくる声は拓実に修、そして今日やって来た転校生二人のもののようだ。


 利用する生徒が少ない非常階段で、よからぬ噂を立てられている四人だけでこそこそと――なにかあるに違いない。


 わざわざ教室へ行くのに遠回りになる非常階段を使ってよかったと、自分の行動を称賛する。

 

 なにも拓実が普段からよくここをランチタイムに利用していることを知って、わざわざ遠回りして通っているわけではない。えーっと、そう、今日はなんだか食べ過ぎたから、軽い運動を兼ねて遠回りしただけだ。


 そう自分に意味もなく言い訳をしている間にも会話は着々と進んでいってるようだ。

 内容こそはっきりとは聞き取れないが、修の驚きを隠せない声が聞こえてくることから、恐らく転校生たちと拓実の関係についての話だろう。


 入ってきて早々拓実に抱きついたあの転校生――確か姫宮さんだったか。

 拓実のいなかった一年間でなにかしらの関係を築いたのだろう。あの光景を思い出すだけで、雫の胸はキュッと絞めつけられる。


 赤みがかった髪に金色の瞳、愛嬌のある表情にはどこか気品も兼ね備えていて、まるで絵本の中の王女様のようだ。


 そうそう、丁度今通りかかったこの生徒のような感じの――


「――――!?」

「あ、やっぱり! ちょうどよかった。エマ、雫ちゃんいたよー!」


 突如目の前に現れた姫宮さんに面食らっていると、腕を引っ張られみんなのいる場所へと連れてこられてしまった。


「雫ちゃん盗み聞きはいけないよ~」

「……たまたま、通って……」


 罪悪感に苛まれながら苦しい言い訳をする雫を、もう一人の転校生――榎並恵真はニヤニヤしながら見つめている。


「雫、いつからいたんだ? 聞いてたのか?」


 階段に座っていた拓実は立ち上がり、明らかにオロオロした様子でそう言った。


「まあまあ。雫ちゃんにもどうせ話さないといけないしね、丁度よかったよ」

「私、にも? 」

「そう。雫ちゃんはタクミが一年いなかった理由、聞いてるのかな? 」

「具体的には、まだ……」


 拓実――呼び捨てなんだ……。


「色々心配かけただろうしね。タクミに近しい人には説明しておかないとと思って――まあ簡単に言うと異世界に勇者として召喚されたって感じだね」


 最初に拓実が言ったことと似ている。普通に考えてありえないことだが、一年前の拓実が姿を消した日――確かに雫は見てしまったのだ。みるみると目の前で地中に吸い込まれていく拓実を。

 だから全くの嘘だと断言することはできない。しかし、あまりにも非現実的すぎている。


「いまのところ半信半疑ってところかな? そうだな~見せた方が早いね」


 そういうと恵真はパチッと指を鳴らす。乾いた音が雫の耳に届くと、恵真の指先からは炎が出ていた。


「…………」

「あらら。ちょっと小さいね」


 ろうそくに灯るくらいの大きさの炎は、頼りなくゆらゆらとうごめき、恵真の吹きかけた息で容易く消えていった。


「どうも魔力がこっちの世界だと弱まってるみたいだね、参ったな~」


 傍から見るとイタい人間にしか見えないが、拓実が一年間も姿をくらましていた理由を恵真の説明が正しいと仮定するならばギリギリ辻褄が合う、気がする。


「わ、わかった。とりあえず、信じる」

「え、ほんと? 雫ちゃんは物分かりが良くて助かるよ! 修くんとは大違いだね」

「いやいや普通は信じないよ」


 はしゃぐ恵真はジトっとした目で修を見ると文字通りお手上げといった様子で修は言った。


「雫、ほんとに信じてくれるのか?」

「うん。嘘、付いてないんでしょ?」

「おう、まあそうだけど……」

「じゃあ、信じる」


 まだまだわからないことだらけだが少なくとも拓実が嘘を付いていないことは雫にはわかった。


「雫ちゃん信じてくれてありがとう!」


 そういって姫宮さんは、雫の腕を握ってブンブン振り回す。


「おい、セイ……姫宮さん。雫が痛がってるだろ、やめろ」

「ああ、ごめん雫ちゃん。タクミ、姫宮さんじゃなくて聖って呼んでよー!」

「バカ言え、これ以上変な誤解されてたまるか!」

「ええー。雫ちゃんタクミあんなこと言うの。ひどいよね? 」


 仲良さそうに拓実と話す姫宮さんは雫に泣きついてくる。


「おい、雫がいやがってるだろ」

「……いい。大丈夫」


 そんな二人の会話を聞いて更に胸がきゅうと締め付けられる。

 ――嫉妬しているのかな、私……。

 少しだけ、ほんのちょっとだけ、雫は自分のことが嫌いになった。

 


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