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10話 誤解

「タクミ聞いてる?」


 尚も俺の腕を離さないセインは上目遣いで心配そうに俺を見る。


「お、おう聞いてるさ。とりあえず変な誤解されちゃってるから腕、離してくれないか?」

「腕? ……ああ、ごめん! つい……」

「いや謝ることはねえけど……」


 我に返ったセインは途端に頬を赤らめモジモジしだす。


「まあ俺たちは普通の知り合いってことでいいんじゃないか。現にそうだし」


 これ以上変な誤解されたらたまったもんじゃねえぞ全く……。


「そう、だよね……私たち普通の、ただの知り合い……だもんね」


 おいおいそこでしょんぼりなんかしちゃうとちょっとまずいんじゃないのかなー……。

 

「あれは只ならぬ関係だね……」

「雫ちゃんも入れて三角関係なんだよきっと」

「青春ってやつだ。やばいドキドキしてきた」


 最近の女子高生は顔だけじゃなくて話も盛るからかなわないぜ全く。もうお手上げだ、好きにしてくれ。ああ、俺の日常が崩れていくぜ……


「まあみんなそこまでにしてさ、次移動教室だし準備でもしようよ」

「ああ、そうだった。ありがとう(しゅう)くん」

恵真(えま)ちゃん(ひじり)ちゃん案内するよ」


 投げやりになる俺の耳に届いたその声で女子たちは二人を連れて教室を後にする。


「朝から大変だね拓実」

「し、修……ありがとう」


 雄牙(ゆうが)と同じく小学校からの幼なじみである篠崎修は爽やかな表情で声を掛けてくる。


「転校生とは知り合いなの?」

「ああ、ちょっとだけな」

「そうなんだ。あの様子じゃクラスにも早く馴染めそうだね」


 そういって修は、それ以上エマやセインとの関係について聞いてこなかった。

 俺が言い淀んでいるのを察してのことだろう。興味がないわけではないだろうが、修は俺が一年間いなかったのにも対して詮索してこなかった。

 ただ、今みたいに面倒ごとに直面するやつをさりげなく助けてくれるヒーローみたいな存在なのだ。


「でも本当に拓実が帰ってきてくれてよかったよ、ねえ雫?」

「……なにが?」

「いやだって雫さ、拓実がいないときずっと元気なかったでしょ? 今は元気そうでなによりだよ」


 本を読んで今までの一連の流れに全く無反応だった雫に、修は急に話を振りやがった。


 修と俺、そして雫、ついでに雄牙は昔からの知り合いということもあってよく話すが、みんなの前でヒーロー的存在の修は心を許した相手にしか見せない、からかいたがりの顔がある。


「そんなことない」

「ほんとかなー? まあ今だって本読んでるフリしてこっちの話聞いてたんでしょ?」

「ちがっ……ちがう」


 修の視線で本を逆さに読んでいたことに気づいた雫は慌てふためき向きを正す。なんてベタなことをするんだ雫……。

 それにしても雫は俺がいないとき落ち込んでくれてたのか……。申し訳ない気持ちもあるけどなんかその、嬉しいな。

 

「もういい」


 キッと修を睨むと雫はポケットから笛を取り出した。あれは確か小一の頃、全員に渡された防犯用のホイッスル。何する気だよ。

 

 ピィーー!! と雫が笛を鳴らすと廊下から一つの足音が近づいてきた。


「呼んだか雫!」


 足音の主――結賀(ゆいが)雄牙(ゆうが)は雫の足元に片膝を付き、命令を聞く態勢に入った。なんじゃこりゃ。


 あちこちの教室をまわり、俺と美少女転校生であるセインとの関係を変な誤解をしたまま言いふらしていた雄牙は、乱れた呼吸を整えながら雫の声に耳を傾けている。

 だがさっきより息が荒くなっている。異性である雫が近くにいるからだろうか。どんだけ女の子慣れしてないんだこいつ……。


 雫は恨めしく修をチラチラ見ながらなにやら耳打ちしている。


「ええ、嘘だろ」

「俺たちの友情が……」


 などと声を漏らす雄牙は最後に「わかった」と言いまたもや教室の外へ向かっていった。教室を出る直前、

俺と修を睨んだ気がしたが、気のせいであってほしい。


 しかし、それは気のせいではなかった。雄牙は俺と修が転校生であるセインとエマと恋仲を匂わす発言をしながら再び学校中を走り回っていった。

 

 修を見ると顔をこわばらせ苦笑いするのが精一杯な様子。

 雫はそんな修を見て満足げな顔で教材を準備し教室を後にした。


「やってくれたね雫」

「自業自得だろ修。まあ仲良くやろうぜ」


 四の五のいっても仕方がない。数分後に始まる授業の準備をダラダラと済ませ、修と俺は教室を後にした。

 移動中、他クラスの男子たちの視線が痛かったのはいうまでもない。


 

 



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