2 金赤髪の青年 c
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ここに1人の青年が居た。
少年は周りを石の壁に囲まれ、机の前に座り、書類仕事をしている。
今年22歳になるこの青年の名は、リカルド・シン・ドバル・エルハルムといい、エルドールハルハウト皇国のエルハルム公爵家の長男坊で庶子という経歴を持っているが、現在公爵家の仕事の半分近くをリカルドが行なっているがこれでも大分少なく成ったほうだ。
なぜ仕事を半分近くになっているかという疑問が出てくるだろうが別段公爵が病気だからというわけではない。
では、何故に成るだろう。
答えは簡単だ。
公爵が何処まで出来るのか面白そうだからやらせてみたら、思ったより出来ちゃって、一時期は5分の4の仕事を与えていたほどなのだ。
公爵は次期当主について、長男でも良いんじゃね? とか思いつつも第一夫人と第二夫人にやんわりと『駄目ですよ~』とベッドの上で窘められ、特にわが子のはずなのに第一夫人が一番に拒絶した為諦めたほどだった。
そんなこんなで、次男坊の次期当主や当主予備の三男が実質的な職務をこなし始めて、大分仕事が減ってきたのが今の時期だった。
とある日、とある夜のエルハルム公爵家の食堂でそれは起こった。
公爵家の食堂は家族全員で取るのが第一夫人とその息子の案でそう言う事になっている。
公爵から見て右手に妻達、左手に子供達が座るのだが、何せ子供が11人もいるせいで目が届かなくなる為、4~9歳の子供のいる夫人は子供達の間に入り、座って面倒を見るのが通例と成っているが、この中に長男坊が混ざっている。しかも、大人気で。
「今日はルリナがルド(リカルド)兄様の隣なのー」
と、第二夫人の娘で異母妹が叫びを上げる。
それに対して、
「違う! ルリナはこの前、兄様の隣だっただろ! そしたら、前我慢した人間が隣だろ!」
第三夫人の息子レアンが、そんなズル許さない! というように声を上げ怒る。
「嫌よ! 前って行ってももう5日前の事よ! だったら、ルリナの隣でも良いじゃない!」
「『良いじゃない!』じゃ、ないっ!! 兄様は5日間仕事で外に行ってたんだぞ。その間食卓に着いてなかったんだ。5日前に隣に座れなかった僕や他の姉妹が座るのが正しいだろ!!」
食堂の講堂で小さな兄妹俺の隣の席を巡って口喧嘩をしあっている。
それ以外の小さな兄妹たちは虎視眈々と俺の隣席が一瞬でも開くのを待っている。
全く、しょうがないなぁと俺はレアンに向けて口を挟む事にする。
「という事は、レアンは俺の隣を弟妹達に明け渡してあげるつもりでルリナに言ってやる(促す)とは男だな」
「・・・・・・・」
笑顔で言って見るが、我が異母弟は、唐突に訪れる絶望に開いた口が塞がらなくなっているみたいだ。
そんな顔しないでくれ、お兄ちゃんだって俺の隣に座りたいが為に一生懸命に主張する弟妹にこんなん事いうのは心が辛いんだからな。
そして、俺の後ろで自分の意見が取られたことに優越感に浸って良い笑顔しているルリナ、俺には魔力探知と気配探知でお前がどんな顔しているか手に取るように判るから、そんな顔しないでくれ、嬉しい気持ちはあるが、悲しくなる気持ちの方が強い。
さて、目を涙で潤ませている弟の耳元に俺は囁いた。
「レアン。此処はお前がお兄ちゃんになってはくれないか?」
弟はこの言葉でピクリと微動にて動く。
「此処で、俺の席を譲れば、ルリナとお前とではお前の大人としての懐の広さをアピールする事になるし、そういう意味ではルリナの一歩上を行けるぞ!」
の、言葉で身体がピクピクと反応している。
この状況でもう一押しすれば、レアンはそこを退き、俺はある言葉をいうだけと成る。
「それに、この喧嘩を止める為にはレアンが今日は我慢してくれるとありがたいな。
もし、我慢してくれるなら、今度一日中魔法と剣の練習に付き合うと約束をしよう」
「俺、ルリナよりお兄ちゃんだから我儘は言わないさっ」
この最後の言葉に弟はビクーンと直立不動に成ったかと思うと、ピョン! っと、席を飛び降り開いた席を自分の次の順番の兄妹に明け渡した。
だが、弟の言葉に「なっ!」と言葉を上げる妹の声が聞こえたが、それを聞こえなかった振りをして言葉をつぐむ。
「さすが、それでこそ、お兄ちゃんだ! 偉いぞ、レアン」
弟妹達のお兄ちゃんという意味での言葉に、叫び声を上げたのはルリナだった。
(日記にはこの下の分にこう書いてあった)
『この年代の子供は、少し言葉遊びするだけで気持ちよい方向に動いてくれて可愛いよね~。クスクス』
愉快そうに、楽しそうな文字で書いてあるがその文字から読み取れるモノもある。
可愛い家族に対する愛情が見える。
ルリナは叫んでいた。
「れ、レアンはお兄ちゃんじゃないわ! 私の方が早く生まれたのよっ!!」
俺は椅子をルリナの方に向けて優しい笑顔を作り、彼女の頭に手を置いて、
「うん。そうかも知れないね。
でも、俺はレアンのほうがお兄ちゃんに見えたよ」
「なっ、何でよー!!」
俺の手を弾いて、頬を膨らませて前のめりで抗議の行動を取る。
「だって、自分より年下の弟、妹達に席を譲れる心の広さは年上の資質ではないだろうか?」
そういっている間にも妹の顔が、ムググググと何かを耐えるよう我慢している。
しかも、我慢している顔が紅色に染まり目が潤んでいるのを見ると少しばかし罪悪感が出てくる。
妹としては、久しぶりに自分でいうのも引けはするが、大好きな兄が帰ってきて、兄に甘えるのを我慢していた分、甘えられる機会を逃すのと、自分をこの席から追い出そうとする兄の行動に悲しみと切なさに打ち震えている。
(日記には)
『いや~、妹の気持ちが分かるがゆえにお兄ちゃんも切なくなって、罪悪感パネェー。
けど、こんな可愛い妹の顔見れるのは少し嬉しい気がしたんだよね。立ち悪いけど、愛されているなーとか思ったよ』
俺はそっと、今にも泣きそうな妹に抱きつき、引き寄せる。
「ルリナ」
「・・・・・・・・」
一言声を掛ける。
妹は暴れる事無く胸の中でプルプル震えて泣きそうになっている。
「ルリナが寂しかったのは判っているつもりだよ。でも、僕はルリナだけのお兄ちゃんではいられないんだ。」
周りにいる弟妹達を肌で感じながら今目の前の妹を感じる。
少しフーと息を吐き、妹の耳元に口を持っていく。
「ルリナ」
ピクリと、全身を振るわせる。
(日記)
『この瞬間俺は思ってしまったんだ。妹は耳が弱い!』
妹はダンマリである。
だから・・・・・だから、続ける。
「可愛い僕のルリナ」
妹はピクピクしている。
(日記)
『妹の反応が可愛く死ねる気がする』
いや、マジで! ハァハァ。
(読んでいるもの達(歴史学者))
『『『コイツ、変態だぁーーーーー!!! ついでにスケコマシだぁーーーー!!!』』』
「お兄ちゃんはお前を嫌いだと思うか?」
胸の中で首を振る。
「ああ、そうさ、お兄ちゃんはお前の事が大好きだ」
数秒の時間の後頷く妹。
「でも、兄は他の兄妹もルリナと同じくらい大好きなんだ」
妹はさっきの倍の時間を要して頷く。
それから、そっと顔を上げて、俺を見る。
妹の小さな口がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「・・・兄様は・・・・ルリナのこと・・・ 好き ・・・」
(日記)
『妹が可愛すぎて死ねる。』
『妹が可愛すぎて死ねる。』
『妹が可愛すぎて死ねる ぅ っ !!!』
(歴史学者)
「・・・・もう此処は読まず、先見ませんか?」呆れたような冷静さで意見する。
「つーか初代大公って、アホの子なの?」思ったことを思ったように行ってしまった人。
「おい! 28代目がいるの忘れてるだろ! お前ぇ!」横にさっきから大公がいるのを知ってて焦っている人。
「俺のご先祖! ただの変態だったーーーーぁ!!!!」28代目大公の叫び。
俺は妹の心のこもった言葉に、拒否の言葉を入れる。
「いや・・・・・ 好き では、ない。・・・・・」
妹はその言葉に又、涙腺から涙が出始め、我慢する顔をする。が、俺は続ける。
「大好きの間違いだよ」
妹の頭を撫で、その手を妹の潤んだ瞳にの涙を拭いもう一度、「大好き」だよ。と言ったら、顔の下から上に真っ赤になって、俺の膝から飛び降りた。
きっと、嬉恥ずかしさと羞恥心で一杯に成ったんだね。全く可愛いなぁ。
飛び降りたルリナは俺と顔を合わさない。けれども、妹は顔を背けつつも、俺に語りかけてくる。
「兄様。る、ルリナだって、もう年上のお姉さんだもの、席ぐらいは譲るもの!」
そうプリプリ嬉恥ずかしさを隠すように言い、席を正して、本来俺と隣になって座るはずの妹に席を譲るのだった。
(日記)
そうそう、言って居なかったが・・・・・・というか大公歴見てるのは一族のもの達かい?
ああ、いや、他意はないんだが、この当時レアンとルリナは第2・3夫人が同時日に産気づいて、出産し、その後父と我が母も関与して、どっちが早く生まれたか判らないと情操教育が面白くなりそうという理由からどっちが先に生まれたか教えられていなかったりする。ついでにあの2人が成人した後も内緒にしていたから、どっちが歴史的に上か知らないのであれば俺が、この場を借りて言おうと思う。
『レアンが・・・・・・』
って、歴史書だと此処で破かれていたりするがそれはしないでおこう。
(学者達)
『『『う、うぜぇ~』』』
「うぜぇ~」28代大公
『『『口に出して言いやがった』』』
(日記)
『ホンで、レアンがその日の夕刻頃に生まれ、その8分後くらいにルリナが生まれたんだ』
正直8分の差って、無いに等しいよね~。
ああ、そうそう聞いてくれよ。
俺はこの時、六つ(12個)の視線を感じた。
はっ! と顔を上げてみてみると、
上の弟2人が、恨めしそうなもの欲しそうな視線を俺にというかルリナに向け、我が公爵家の当主(父)はニヤニヤと見てきて、それに俺が何かイラつく視線で見返して、母達三人は、
実母がニコニコと今にも吹き出しそうな笑顔と、
第二夫人の呆れたような、スケコマシを見る目で、
第三夫人は良くアレだけの事をこの場で言えますね。的な感心した笑顔を俺に向けてきて、正直イラットしたけど、笑顔で
「母様たちも大好きですよ」
といったら、我が実母は案の定動じずニコニコし、第2・3夫人は鳩に豆鉄砲食らった顔をし、父はその母達を見て笑っており、上2人の弟たちは変わらず、もの欲しそうな目をこちらに向けてくる。
はーぁと弟達の愛が嬉しいが、年下の弟妹達に向ける嫉妬心は考えようものだとも思う。
全く、後でお説教だ。
「ルーカス、レイン。 顔っ! 後で話をしよう」
弟2人(次男、三男)はビクリと驚き、互いの顔を見合わせ、下を向いている。
おい、捨てられた犬みたいな落ち込みかたすんな。といいたいが、お前らが内心嬉しがっているのは知っているんだぞ。何せ、お兄ちゃんだからな。
「それはそうと、父上食事にしましょう」
俺は、他の事を置いておいて長引いた話し合いにより、お預けとなっていた食事を始めることに成った。
俺の言葉に父の公爵は一つ頷いた。
頷く姿を見ていた執事やメイド達が動き出す。
父を順番に第二夫人、第一夫人、第三夫人、嫡男(次男)、三男、俺、下の弟妹達と目の前の食卓に皿やフォーク・スプーンと順に置かれ、準備が整い次第温かい料理が運ばれてくるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
食事時は家族団欒とその日あったことや面白かった事を話すという風習は身分の高低構わず当り間の日常だろう。
そんな中、俺はそうそうと思い出す様にあっさりと当たり前の様にある一言を言った。
その日と事が俺の人生を大きな始まりと成るのだった。
「そうそう、父上。
ルーカスもレインもほぼほぼ公爵家の仕事を出来るようになって着ました。
まあ、まだ、危ないとも、もう少しとも、思う現状では有りますが、要はやりなれもございます。
もう少し・・・・・そうですね。後1ヶ月ほど彼らを見守ったら、私は全ての仕事を彼らに任せて、冒険者に成ろうと思いますのでどうかその方向でよろしくお願いします」
この発言の少し後、父と弟二人は飲んでいたワインを三人一斉に「「「ブゥゥワッハッ!!!」」」と吹き出したのはいうまでもない。
そして、父の目の前の料理と2人の目の前に座るそれぞれの母にワインが襲い掛かったと教えておこう。
ですが、料理にも母達にもそれは掛からなかった。それは何故なのか、皆で考えてみよう。
(学者と大公)
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」