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お留守番魔王!  作者: 卯野きらず
8/8

お留守番は健気に8

 シェーラ?可愛い名前だね。

 なーんて更に言われれば、にやけ顔が止まらない。変顔になっているのがバレないようあたしは両手をほっぺたでぐにぐにやりながら、おにーさんに問いかけた。


「お、おにーさんのお名前はなんて言うんですかっ?」


「ん?俺はコンラートだよ。コンラート・エヴァット」


 コンラート!素敵なお名前ですね!

 息が整ったのか、よいしょと彼は上半身を起こした。

 そして首を傾げる。


「んー、参ったなぁ」


 え?なんで?危機は去ったのに。あたしもコンラートの真似をして首を傾げてみたら、彼は困ったように笑った。


「うん!?」


「ああ。いやさ、実は俺、仲間とはぐれちゃってさ」


「ほうほう」


「その……シェーラも誰かとはぐれてこんな所に来ちゃったのかなぁ。と思って」


 いやいや全然。はぐれて来たどころか、いい子にお留守番を即刻放棄して大脱走の真っ最中だったのですがっ。


 でもそんな事を言ってしまえば、いい人っぽいコンラートのことだ。セーレみたいにあたしをお城まで強制送還するかも知れない。せっかく魔王城の外まで来たのだから、今回ばかりは行けるとこまで行ってみたかったあたしはしばし迷って、うんうんと頷くだけにした。ま、ケルベロス達とはぐれたのは事実だしねー。


「そっかぁ。じゃあ俺と一緒に来る?一人でここに居ても危ないからね」


「……いいの?」


 正直、ケルベロス達が居なくなった今、帰り道も分からなければ行先も分からないという、認めたくないけれどいわゆる迷子状態に陥っていたあたしには、その提案は願ってもみないことだった。


 しかも魔族の人なら外界への入り口も分かるだろうし、お城の位置だって把握しているはず。いざとなったらどちらかの場所を教えてもらって、一人で……うん……行ける……はず。


 コンラートは立ち上がってあたしに手を差し出した。


「よし。とりあえずは俺の仲間を探しに行こうか」


 わーい。

 魔王の娘は旅のお供(美青年)を手に入れた!


 ******


 コンラートに手を引かれ、てくてくとあたし達は歩く。


 途中、何度か小さな魔物に出くわしたのだけれど、その度にコンラートがあたしを抱えて全力疾走して逃げてくれるおかげで、今の所は先程みたいな危機的状況に陥ることは全くなかった。逃げ足、やたら速すぎる。


「俺、戦うのが昔から苦手なんだよ。その度に逃げてたらいつのまにかこんなに速くなってたんだよね」


 何度目かの片手お荷物状態(あたしはキャリーバックかな?)のあと、手足をぶらぶらさせながらなんで戦わないの?と聞いてみたら、そんな答えが苦笑いと共に返ってきた。


 へぇ。珍しい。普通、魔族と言えば好戦的な輩ばかりが大半で、顔を見合わせればどちらの力が上かどうかばかりを張り合おうとするし、子殺し、同族殺しは日常茶飯事。だから魔界ここは万年争い事が絶えないのだけれど。


 敵前逃亡は種族の恥。とまで言われるぐらい苛酷な世界だ。彼もさぞ苦労したに違いない。


 分かる。分かるよ。その気持ちっ!


 あたしも何度、「あ、これ絶対勝てないヤツだ」と思って出くわす魔獣、魔族から命からがら逃げたことか。大体、どうしてあいつらはこっちが弱い相手と判断したらすぐに喧嘩を挑もうとしてくるんだろう。弱い者虐めはよくないと思うのですよ!


「……辛かったよねえ。うんうん!」


「なんだか涙声になってない?大丈夫?」


 過去の苦い歴戦の数々を思い浮かべながら同情するつもりで言ったら、何故か逆に心配されてしまった。


 大丈夫!あたし精神面(メンタル)だけは強いから!


「そーいやコンラートはどこの(種族の)人なの?」


 ふと、今まで気になっていたことを質問した。


 パパは魔神。ママは淫魔で、セーレは確か鬼神族だったかな?クレイドはゾンビだし。テシアは一応人間だけれど……まああれは例外。


 ちなみにあたしは魔神と淫魔の子だけれど、どちらかの種族の特徴や能力を持ってさえいれば、その種族の括りになるらしい。なお、まだどちらか分かってないのは仕様ですとも。ええ。成長しきってないですから。


 そういったふうに、魔界にも色んな種族がいる。ツノが生えていたり、一つ目の巨人だったり、両手が翼だったり、上半身は人間でも下半身が蛇の姿をしていたり。と様々。


 大抵は種族特有の外見的な特徴ですぐに判断が付くのだけれど、コンラートはどこを見てもその特徴が見つからなかったのだ。


 まあ、そういった外見的な特徴がない種族も稀にいるのだけれど。


 コンラートは、まず片手お荷物状態のあたしを地面に下ろしてから肩をすくめた。


「うーん、俺孤児だったからなあ」


「え、ごめんなさい」


 思わぬ発言にあたしは慌てて謝った。聞いちゃいけないことだったかも。確かに孤児ならば親の種族なんて分かりっこないし、あたしみたいに大きくなっても特徴や能力がなかなか出現しなければ、何処の種族だなんてすぐには答えにくい。


「いや、いいよ。慣れてるから。あ、でも強いて言えばルーエント、かな」


「ルーエント?」


「そう。知らない?」


 あたしは頷いた。初めて聞く種族の名前だ。魔界は広いから、あたしが知らない魔族がいたりしてもおかしくはないだろう。もしかして足が速い種族なのかも知れない。


 そう考えながら、あたしは、あたしと彼は、互いにとある勘違いをし始めていることに全く気付いてはいなかったのだった。






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