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お留守番魔王!  作者: 卯野きらず
2/8

お留守番は健気に2

「ああ、ですがご安心下さい。これでも現魔王様にお仕えして七百年。さらにはシェーラ様がお生まれになってから現在まで、不肖ながら教育係まで勤めさせて頂いた身です。シェーラ様がちゃんと良い子でいてさえくれれば、私も心変わりなどしませんから」


 ね?と謎めいた念を“知らなくて良いこと”の代表格に位置する側近セーレに押され、「い、良い子にしてますー!」とあたしはこくこくと直ぐ様頷いていた 。


 なんだか“教育されている”というよりは、物凄く丁寧な口調で“脅迫されている”ような気がしてならない。


 果たしてあたしは無事に大人になれるんだろうか……。


 そんな一抹の不安を覚えつつ、あたしは椅子の肘に自分の顎を乗せ、何ともだらしない態勢を取ることにした。


 すかさずセーレが「お行儀が悪いですよ」と注意してくる。


「だって……そもそも魔王のお仕事って何するの?というかあたしに出来ることってあるの?」


「まぁ何もありませんね」


 ……また即答ってどうなのよっ。


 不意にひょいと身体が浮いた。見ればセーレがあたしの両脇の下に手を差し入れ、いとも簡単にあたしを宙に持ち上げている。


 そりゃ体格差で言えば、あたしの身長はセーレの腰の辺りまでしかないし、そもそも魔族なのだから子供一人程度の重さなんて紙同然かも知れないけど、この扱いはちょっと酷いんじゃなかろうか。


 ぷらぷらと揺れる両足のまま、ぶすうとした表情で無機質な仮面を見上げた。あ、ちょっと今絶対笑ったでしょ。仮面で分からないけど。


「本当に、お小さいですねぇ……シェーラ様、ちゃんと食べてます?」


「食べてるわよっ」


 魔界、という場所では二百歳を越えてようやく一人前と見なされ、三百を越えればその一族の家督を継ぐこととなる。魔界にいる大半の魔族は、生まれた瞬間からすでに成長が始まり、十日を過ぎればすでに他の魔族と変わらない姿へと成長するのが普通である。


 だが生憎、魔界最強の魔族の王とその次に力を持つ雌の淫魔との間に生まれたあたしは、何故か生まれて十日経っても一年経っても、五十年経っても、ある日を境に子供の姿のまま成長が止まってしまったのだった。


 だからあたしの姿は百年過ぎても、中途半端な子供の出で立ちであるし、パパママや挙げ句にセーレまでもあたしのことを子供扱いしてくる。


 魔力が皆無なせいなのか、それとも物凄く遅い速さでじわじわと成長しているのか。出来れば後者であって欲しいと切に願っている毎日だ。


 セーレがあたしをじっと見つめたまま、首を傾げた。


「ふむ。それにしては体重が十年前と変わっていませんね。それに身長も」


 こ、こいつ!あたしの儚い希望を打ち壊す気だ。あとこの測定方法は毎度毎度やめて欲しいと思う。


「……ふむふむ。胸囲も変わらず、と」


 ……あたしの儚い希望と願望が目の前で音を立てて崩れていくのが見えました。


 目視で胸囲が測れるってどうなの!?


 せめてもの腹いせにと、その仮面を剥ぎとってやろうかこの変態ー!と手を伸ばすものの、呆気なくかわされてしまった。うぅー。


「……そうですね。食事の量を増やしましょうか」


 あたしはぎょっと目をむいた。


「えっ、それは無理!あれだけでも全然食べきれないのに!」


「食べないと大きくなれませんよ?――と、ああ忘れる所でした」


 何かを思い出したようにセーレが一人頷き、あたしを床へと下ろす。


「これから会議があるということをすっかり忘れておりました」


 大事な会議をすっかり忘れるってどう考えても可笑しいと思うんだけど。


「ふぅん……て、あたしは?そのう、出なくちゃいけないの?」


「おや、出るおつもりですか?」


「だって留守番を任せられてる訳だし……」


 一応魔王の娘でもあるし?


 するとセーレはあたしの頭をいつもするように白の手袋をはめた手で撫でて、口を開いた。


「いえいえ、会議に参加するにはまだまだシェーラ様はお小さいのでその必要はございません。それにご心配せずとも、大丈夫ですよ。万が一反乱など起きようものなら、この私が捻りつぶ……いえ、丁重に粛正いたしますので。どうか私めに任せて、貴方は安心して部屋の隅で絵本でも読んでらして下さい」


 先程、数分前に“ちゃっかり”発言をしたことを忘れてやいないだろうか、この男。


 あとあたしはもう絵本を読むような年頃ではない。


 色々と突っ込み所はあるものの、あたしは頷いた。


「うん。セーレに任せる」


 ま、どうせあたしに出来ることなんて何もないしねー。魔力ゼロなんて赤子も同然で、そんなあたしのことを魔界の者がどう思っているかなどあたしでも知っている。


「ちゃんとお城を守ってね、セーレ」


 幼少からそんなあたしを守ってくれたように。

 セーレが頷く。


「はい」


「あたしのこともね!」


「はいはい」


 返事は一回だから!と叫び、ついでとばかりに付け加えておいた。


「守らないとパパに言いつけるからー!」


「……その手で来ましたか」


 ふふん、信頼度より権力である。







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