現実との直面
意識が覚醒してから半年が経過した。
私の世話をしに来てくれている修道服を着た女性(おそらくシスターであろう)がよく話しかけてくれたので、言語がそれなりと理解できてきた。
が、私が知っている言語ではなかったため習得までにかなりの時間がかかってしまった。
なんだろうな。色々な言語と被せていってそれらの共通点からさっさと覚えようと思っていたが、どうやら私にはその才能がなかったようだな。あはは………
それと、ようやくハイハイが出来るようになった。
気休め程度の運動をしていたおかげか体力はついたようで、かなりの時間動き回れた。
やはり移動できるというのは素晴らしい事だな。
さて、移動が出来るようになったため、少しでもなにか情報が欲しい。
ということで、ベッドの柵から抜け出してこの半年で追加された椅子に登り、窓から外を見てみることにした。
…………疲れた。
うん、冷静に考えれば生後約半年の赤子がベットの柵から這い出て椅子に登るとか無理に近いよね。
まあ、なんとか椅子には登れた。
ただ、色々試行錯誤しながら登ったから体力と時間をすごい使ってしまった。
赤子の体、怖いわ。
……とりあえず窓枠に手を掛けて立ち上がり、外が見渡せる程度まで頭を上げることに成功した。
そこから見える窓からの景色は、広大な芝生の庭が広がっていた。
きっと田舎の村なのだろう。
そして、ここにシスターがいるから、この施設は田舎に建つ教会なのだろうな。
そんな想像をしていると、庭に走ってきた子供達とシスターの姿が目に入った。
………ん?まて、なにかがおかしい。
まず目を引いたのは、子供達の頭髪だ。皆色がバラバラなのだ。
いや、バラバラなのはまだわかるが、茶髪、金髪といった子に加えて、青髪や赤髪、緑髪の子がいる。
私の感覚では、場違い感が否めなかったり、違和感や不自然さが目立ってしまうと感じてしまう。
だが、子供達の頭髪は不自然さが全然なく、違和感も抱かない。とても自然な感じがするのだ。
つまり……地毛なんですかね?
……んー、久しぶりの混乱だ。落ち着け私。
ここは教会。もしかしたら「普通とは違う」子供を匿っているという可能性もあるかもしれん。
考え込む私を置いて、庭ではシスターの呼び掛けに応じて子供達が横一列に並んでいた。
「――、―――――」
「――! ――、――――、――……」
シスターの言葉のあとに続いて、子供達が一斉に目を閉じ、手に持っていた杖を立てるなり何かぶつぶつと呟いている(何を言っているのかわからないので、口の動きでどうにか捉えた)。
「―――!」
最後に気合と共に声を出した瞬間、突然杖先に水球が出現した。
……えーと、え、なに? 何も無いところからなんで水が急に出てきたんですかね? ああそうか、手品師育成とかかな? でも水って、あんな綺麗な球体になって宙に浮かばないでしょうが。
「―――!、―――――!」
こちらの混乱が更に酷くなっている前で、シスターは嬉しそうに手を叩いている。
それに合わせて水球が不規則な動きをしながら、子供達の周囲を飛び回っていた。タネらしき物は一切見当たらない。
……あれってもしかして『魔法』……なのかな?
あり得ない。考えたくない。でもやはり、ここは、この世界は……
『異世界』なんだ。
その考えを肯定するかのように、飛び回っていた水球が、上空へ一斉に発射された。
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見習いシスター メレナの日記
水無月の刻 第二十四日 晴れ
今日は本当に驚きました。
オルトちゃんの部屋に入ったら、誰かが椅子に座っていたんですよ。
誰かなーって近づいたらオルトちゃんだったんですも
の。
えっ!、って一瞬固まったのですが、すぐにオルトちゃんをベットに戻しました。
生後半年の子ですよ!なにかあったらどうなっていたことか……
一体誰がこんなことを?でも、こんなことをする人なんていませんし……
まさかオルトちゃん自身が……!?
……いや、流石にありえませんね。考えすぎました。