目覚め
しばらくタイトル詐欺が続きます。
長い目でご覧ください。
ブラックアウトした視界からゆっくりと光が入ってくる。
光が入ってきた……つまり、「目を開けた」という事実を理解した俺はすぐに意識を覚醒させた。
俺の中によぎったのは最期の記憶で、確かに瀕死の体と傷の痛み、爆弾を起動させた時の感覚が残っていた。
俺はすぐに自分の体を確認しようとした。が、治療中のため包帯を巻いて、ベットに寝かせられているのだろう。
うまく体を動かせない。
「あぁぁー、うあうあうあうぅっー!」
少しイライラして声をあげた俺の耳に入ってきたのは、赤ん坊の声だった。
……えっ、何故、俺からこんな声が出てきたんだ?
混乱している俺の顔を、一人の女性が覗き込むようにこちらを見てきていた。
おそらく、今の声を聞いたのだろう。
俺は自分の状況を聞こうとしたのだが、その前に女性が口を開いた。
「ーーー・・・ーーー・・・・」
ダメだな、全く聞こえない。
いや、わからない言語を使われているような気がする。
世界中飛び回っていたから主な言語は理解していたつもりではいたのだが、女性が話す言語はどの言語にも当てはまらないような気がしてならない。
そんなことを考えていた俺をよそに、女性は俺を……簡単に抱き上げた。
……ちょっと待て、少なくとも女性が成人男性を簡単に抱き上げられる訳がない。
だが、女性は俺を苦もなく抱きかかえ、あやすように体を揺すっていた。
そう、それはまるで幼子を扱うように。
あやされながら俺はふと横目で、窓ガラスに映る自分の姿を確認した。
そして、全てを理解した。
(嗚呼成る程、非現実的だが理解したよ。)
窓ガラスには女性に抱えられる黒髪の赤ん坊がうっすら映っていた。
前世の記憶を持ったままの「生まれ変わり」。
その言葉が、俺の中によぎった。
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意識が覚醒してから1ヶ月がたった。
生まれ変わりの混乱も収まり、やることがなくなってしまった。
俺の部屋に有るものは、俺が寝てる高さの低いベッドに机とクローゼットと窓からの景色のみ。
まさに食べるか寝るかしか出来ない部屋である。
残念なのが、食事のレベルが低いことと、明かりが電気でなく蝋燭なところだろうか。
それに、今まで電化製品の類いを見ていない。
そこまで生活水準が低いところなのだろうか……?
……やはり、情報を早く集めたいものだな。
さて、そんな流れるように過ぎていった一ヶ月であるが、俺の体は順調に成長していた。
話している言語は分からないものの言葉ははっきりと聞こえるようになったし、体も少しは動かせるようになった。
しかし、言語は未だに把握出来ていない。何処の言語なのだろうか……
あと、ハイハイなどの行動は未だ出来ないので、体を動かして体力をつけないとな。
それと、重要な点が一つ。
どうやら俺は性別:女として生まれたらしい。
これからは「俺」ではなく、「私」とした方がいいかもしれないな。
と、外見では冷静を装いつつも内心は全力で焦っているという今現在全く必要のないことをしながら、その考えを振り払うように私は眠りにつくのであった。
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見習いシスター メレナの日記
弥生の刻 第九日 曇り
今日から日記を書くことにしました。
多分1日の内にあったことなどを確認用として記録していくだけのものになりそうですが……
それでも、私はこれを日記と言い張ります!
ここ最近は暖かくもなって仕事が増えました。ここは教会と孤児院が両立されているだけあって大忙しです。
さて、本日のお仕事は……
弥生の刻 第十日 曇り
今日の朝、教会の門の前に赤子が捨てられていました。
ここらでは珍しい、黒髪の女の子です。
私はこの子を引き取ろうと神父様に相談したところ、神父様は快く許可してくださいました。
神父様には頭が上がりませんね。
「子供は皆、神の子である。私達は子供達を神の子供として育て、神に私達の思いと努力を見てもらえばきっと、神は私達を救ってくださるだろう。そして、私達が育てた子供達がまた、新たな神の子を育てることを願おう。」
神父様のお言葉を胸に、この子を精一杯育てましょう!
……後日もう二人子供を保護してしまいまして、神父様に「もう少しペースは控えて」と言われてしまいました。
そこらへんも考えねば。
卯月の刻 第十日 晴天
黒髪の子……オルトちゃんが来てから1ヶ月が経ちました。
オルトちゃんはとっても静かで、おとなしい子です。
……いや、本当に。泣かないし騒がないし行儀がいいんです。
びっくりですよ。ほぼ同時期に来た二人と比べると怖いくらいに落ち着いてます。
なんか別の空気をまとっているような気がしてならないんです!
もちろん、いい意味の空気です。
彼女の成長が楽しみです。
さぁて、明日もお仕事頑張りましょう!