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第苦話 何もない森で

 高い高い森の天井から落ちる木漏れ陽はその距離をもってして尚鈍る事無く鋭利にひらめいており、異世界(メタリアトラス)の秋を彩っていた。

 

 また、爽やかさを感じる白き風に混ざる獣のかおり、木々に刻まれた爪痕は犬鬼(コボルト)の縄張りを表しており、世界(ザ・ワールド)には無い(おもむき)を出していた。

 

「相棒、その樹の先25mに人影、多分土鬼(ゴブリン)3匹。迂回して進んで。あー、さっき追い越した背後の犬鬼(コボルト)の挙動に動きがある。においでバレたかも。取り敢えず早めに移動して」

 

「あー、はいはい。しかし魔物のエンカウントを完全にゼロにするってのは大変なのな」

 

「緊張切らすな相棒、物音立てるな相棒、きびきび歩け相棒……!」

 

「はいはい、お次はどちらへ?ライフリート様よ」

 

「一応沢に入ってにおいをリセットしておけ。多分漂ってるだろうからあまり効果無いが、どの道越えなきゃならないからな。あ、森を抜ける前に水を補給しておけ、急いでな」

 

 この森には所々に沢があり、それが周辺の草原と森とを隔てている。つまり、草原にはめぼしい水源がないのだ。故に、此処で竹の水筒や身体に水分を補給しておくのは旅人として必要な知識でもあった。  

 

「はいはい、お?この木ノ実食べられそう。どうかな?」

 

「折角拾った命なんだからこんな所で死なないでくれよ……。急げ、チャッチャと歩く」

 

「分かってるって、だから頼りにしてるぜ?ライフリート」

 

「おっと、今出ていったら土鬼(ゴブリン)にかち合う。3秒くらい待機してからゆっくり前進。合図したらあっちに走り抜けて」  


「そろそろ森抜けるんじゃねぇか?」

 

「抜けるのは抜けるが、抜けたら遮蔽物がないから森を抜ける時に見付かったらアウトだぞ。静かに走って!」

 

「任せろ!いざとなったら鋼鉄の剣が火を吹くぜ」

 

「大きな声を出すな!もう……後ろに結構居るんだぞ、バレたら100匹近く追いかけてくるぞ……!」

 

「まぁ今の私ならばどうにかなるだろう……ふっふっふ!あ、森抜けたか。森の次は平原だな草原と言えば良いか」

 

「今だッ!一気に走れッ!」

 

「くぉおおおおお!」

 

 爆炎の勇者は森を抜け出して十数歩程無音で進んでいたが、背中から顔を出しているライフリートの合図で走り始めた。

 

「あっ、気付いたみたいだぞ。土鬼(ゴブリン)だからまぁこれだけ離れてれば追い付かれはしないだろう」

 

犬鬼(コボルト)だったら…!追い付かれて…!るって事か?」

 

犬鬼(コボルト)はまぁ犬だからな。常に風上に立たないと匂いでバレるし、足だって人間よりちょい速い。ただ少し用心深いから森から離れたら追ってこない。まぁ、もう安心だろうよ」

 

 ライフリートの安全宣言を受けて漆黒の勇者は全力疾走から小走りに落ち着き、やがて普段の歩行速度に戻った

 

「ふぅ……。まぁ、これだけ見晴らしが良ければ誰が襲ってきてもすぐわかるか。念のためにあと30分くらい歩いて森から離れてから食事にするかな」

 

◇◇◇◇ 

 

「と言う訳で爆炎の勇者クッキング。まず、(おもむろ)に座ります」

 

「斬新だな」

 

「そして取りい出したりますは炎の宝珠」

 

「おっとレアアイテム!」

 

「食らえ!炎ビーム」

 

 爆炎の勇者の手に持った炎の宝珠から1m程火が吹き出す。

 

「……凄いな。炎の宝珠って火が出るのか……しかもMP消費無しかよ。……ん?クッキングはどうした?」

 

「失敗した。あの鳥を落とそうとしたんだがな」

 

 ライフリートの視界の端に鳥が横切っていった。

 

「あー、なるほどね。まず炎の宝珠の使い方から知らべないといかんな」

 

「そうだな……しかし、腹減った」

 

「クレソン食っちまえば?」

 

「連続で同じものは食べたくない」

 

「贅沢だなー、と言うか面倒臭いやつだなー、相棒」     

 

「食べられる草とか木ノ実とか調べてから森に入るべきだったな」

 

「そうだな」

 

「ちょっと休憩がてらクソ町長(ジジィ)の本読むわ。確か食べられるもの載ってた気がする」

 

「おー、調べとけ調べとけ、この先にある森も抜けないといけないからな。どうやってももう少し森で過ごす事になるから今のうちに少し寝とけば?で、交代で休もう」

 

「ライフリートの見張りは信用ならないんだよな……まぁ良いか。死んで困るのはライフリートとこの異世界(メタリアトラス)の人々だけだしな」

 

「いや、良くないでしょ見張るよ!」

 

「…………」

 

「もう寝たか、相棒こー見えて案外図太いんだな」

 

 爆炎の勇者は草原に横になるなりあっと言う間に熟睡に個を落とした。この入眠速度は度重なる野宿を経て、生き残るために手に入れたものだった。

◇ ◇ ◇ ◇

「相棒、起きろよ。そろそろ交代してくれ」

 

「あー、おはようライフリート。何時間くらい寝た?」

 

「ふむ、3時間かな。という訳で俺も3時間くらい休ませてくれ」

 

「わかった。その間は本でも読んでおこう」

 

 爆炎の勇者は手慣れた作業でいつもの本を具現化してペラペラとページを捲る。

   

前にやった選挙制度の復習だ。

・議員は貴族院と衆議院に分かれて政治を行う。

・貴族院は四大貴族より2名づつ推薦され、残りの3名の枠を衆議院より推薦される定員11名。

・議決は6名以上の賛成を持って許可される。

・衆議院は数百名の議員によって運営されるが、その決定は大統領1人によって行われる。

・衆議院は村長、町長、男爵以上の貴族によって運営される。

・大統領への立候補は侯爵以下の爵位保持者か、町長や村長経験者のみとなる。

・大統領選挙の投票は各村や町の村長、町長と男爵以上の貴族によって行われる。

 

 つまり、選挙に介入するためには町長・村長・貴族との繋がりが大切と言う事 。それは間違いない。だから、まずやるべき事は2つ。

 首都に着く迄の間、通りがかる町や村の町長村長と仲良くなる事。

 そして、男爵以上の爵位を手に入れる事。これは“あれ”を使えば恐らく出来るだろう。

 

 この2つが充分に出来たのならば、アメリアの首都アメリアの政治には介入出来る。何が悪政か善政か判らないが、それは追々見極めるしかないな。

 


 次は実際の政治の運営方法。

 

・国家の方針は貴族院・衆議院(大統領)・王様の3権のうち2権が揃う方針が選ばれる。

・戦争・友好等の条約の締結も2権の合意が必要となる。

・通常時は王様が政治を行う権限を持つ。

・大統領指定者及び貴族院議員は王様の承認を経て大臣となる権利を得る。

・尚、叙爵や爵位譲渡は王様の権限となる。

 

 つまり、大統領と貴族院と王様の3権がアメリアの政治の三権三分立となるのか。確か日本の三権分立は司法と立法と行政だったかな。その三権を大統領と貴族院と王様で、分割せずに分け合ってるのか。叙爵を王様権限で行うと言うのは先ずは王様に忠誠を誓う必要がある、比較的王様の権力を落とさずに権力を分散させる良い手ではあるな。貴族院として大貴族の受け皿もある。そして民衆の権力である大統領権力も1人あたりの権力で言えば王様の次に強い。このシステムを導入させたと言う先輩の勇者は物凄い頑張ったんだろうな。

 

 政治の頁はもう無いのか。……爵位、爵位についてはあるな。

 

 爵位について。

 

 爵位は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・準男爵・騎士の7段階に別れている。王様はその上の役職となる為に含まれない。公爵は四大貴族の当主のみがなる。そして騎士と準男爵は入城規制免除以外貴族としての特権は無く、実質は侯爵・伯爵・子爵・男爵の4段階となる。

 

 爵位を持つ者は領地を持つ。四大貴族は首都アメリアを4分割した土地と幾つかの遠隔地を治める。侯爵・伯爵・子爵・男爵はそれぞれ国内国境線内の複数の土地を治め、町や村を治める町長や村長を配置する。形式的に準男爵と騎士も領地を持つが、村を作る程の面積はない。貴族は領地内において司法権と地方自治権を持つ。

 

 爵位を持つ者は権利と共に義務を負う。領民の幸福の追求。魔物や他国からの侵略に対する防衛義務。納税の義務。

 町長のメモがある。貴族のなり手は少ないらしい。理由は面倒だからだそうだ。

 爵位特権は全爵位の持つ入城規制の免除、準男爵から持つ領地内の裁判権、男爵から持つ謁見申請の優遇、子爵から持つ国家資料の閲覧権、伯爵から持つ魔法貸与権、侯爵から持つ城内移住権がある。

 分かりにくい物として魔法貸与権がある。これは、緊急時に備えて国家内に保管されている極大魔法を3つ迄借り受けられる権利。有事の際には借りる事が出来ない場合もある。返却は相応の触媒や現物返却にて行われる。利子等はなし。

 

 ともかく、何となく想像する貴族の制度とあまり変わらない感じだな。

 

 疲れた。取り敢えず採れる食料の予習をしておこう。食料不足はゲームオーバーに繋がりかねん。……………………。あと、地図も確認しておこう。ザルドレイク火山から森を抜けるまでは……30km?余裕だな。山から見えた道は

 

 そろそろライフリートを起こすかな。

 

「ライフリート、おい、トカゲ、起きろ」

 

「寝みぃ」

 

「もう暗くなって周囲が全然見えない。教われても知らんぞ」

 

「うーん、精霊使いが荒いな」

 

「具体的にはそろそろ飢え死ぬレベルの空腹だ。今日は草しか食ってない。秋の木の実は覚えた。森を進みながら多少は食えるものをさがそう」

 

「そうだな。良かったじゃないか。食料を持ち歩かないとこうなるって良く分かっただろ?」

 

「想定内だ、行くぞ」

 

 爆炎の勇者は暗闇の森を抜けていく。月の光は半分も欠けてしまっているが、ライフリートのピット機関による敵のサーチ精度が高いため、難なく森を通り抜けていく。ライフリートの的確な誘導がもたらす結果として、敵との遭遇や、その危険性に備える為の神経や不安による消耗を抑えられていた。それが食べられる果物の採取にも繋がった。

 

「右に5m、そこの角を斜めに。……北に向かってる筈なんだが、星が見えづらいから、そこの高い木に登って周りを見てみる。そこで休憩してろ。今は動いている魔物は居ない」

 

「あいよ」

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

 

「順調みたいだ。あと半分くらいで正規の森ルート近くに出る。朝までにはザルドレイク火山の麓から見たあの道付近に出るぞ」   

 

「長いな」

 

「地図見たろ?森の中の移動での30kmと平地の30kmは違う。あと、敵を回避しながらだから実質50km以上は歩いてるんじゃないか?」

 

「存外大変なんだな」

 

「失礼な、高等テクだぞ」

 

 以降も休憩と蛇行を繰り返して何とか深い森を抜ける事が出来た。

 

◇ ◇ ◇ ◇     

 

「抜けたな」

 

「そうだな」

 

「しかし、疲れたが収穫はあったな」

 

「まぁ、その辺のトカゲとか草を食われるよりはましだな」

 

 爆炎の勇者の言う収穫は蛇の実と呼ばれる小型の寄生植物の実で、秋頃に1cm程の赤い実をつける。その実は魔素の濃い地域でも魔素を溜める事がない稀有な植物で、なおかつ可食可能と言う便利植物でもあった。しかし、味は苦菜とカニステルを2で割ったような不可思議な味がする。栄養素としては微量のミネラルと微量の水溶性ビタミン、5㌍程度の熱量が含まれる。植物の見分け方は簡単で、白い樹皮に鱗状の模様が特徴。1つの枝に2つの実と決まっているので、収穫もスムーズに行える。実は3ヶ月以上保存可能。魔素を含まない為、魔導具の材料にもなるとか研究されている。

 

 爆炎の勇者は飢えていた。あまりに低㌍の食事「登山時におにぎり」「下山時にクレソンサラダ」「森の中で水」で、4日間の山岳森林の行進に耐えていた。その総距離は150km。現代日本に言い換えると、沖縄本島の縦断に相当する。


 そんな中、爆炎の勇者が森の中で見付けた実は40個弱。これで居てやっと大きめのおにぎり1個分の㌍だった。

 

 

「お、もしかしたら村かも」

 

「やっと村か……」

 

「ギセイの村から此処まで長かったな。4日とは言え死ぬは飢えるは、相当長い旅をしていたの気がする」

 

「まぁ、飯を食おうぜ……あ」

 

「どうした相棒」

 

「金がない」

 

「それがあったか!」      

  

長かった。


夜寝る際の「本」の情報。政治系のまとめにしました。あまり良くなかった感じもしますね。



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