第7話 ギセイ村へようこそ!
「相棒、あれは……あの形でよかったのか?」
「良く分からんが、仕事は大切だろうよ、向こうが言わなきゃ此方からは言うまいよ」
「うーん、人間は分からん。何故あれで片が付くんだ?」
「まぁ、気にすんな。世の中そんなもんよ」
「何か誤魔化されてるような……」
爆炎の勇者は湖から出て服を脱いで絞る。そして、町長から貰った服に袖を通しつつハイドレザーコートを羽織り、薪を集めてライフリートの尻尾から火を借りて焚き火を仕立てる。
「寒い……」
「夕暮れに水浴びなんかするからだぞ相棒……」
「パンツマンも水浴びしていたではないか……」
「相棒、パンツミルカじゃなかったか?あと、今気付いたんだが、あの女荷物持ってなかったよな?もしかして近くに村があるんじゃないか?」
「村がある?……じゃあ行こう!とりあえず……日が暮れたから今日はまた野宿だな」
「まぁ、良いけど……良いけどさ?」
「寝ろ、ライフリート。私が寝る時は起こすから見張りをしてくれ」
爆炎の勇者は手頃な岩に腰を掛けめめて、昨日に引き続き町長に貰った本に目を通す。
「選挙制度とは。選挙制度とは勇者のもたらしたシステムで、投票によって議員を選出し、その議員によって国家の方針を決定するシステムとなる。議員は貴族院と衆議院に分かれて政治を行う。貴族院は四大貴族より2名づつ推薦され、残りの3名の枠を衆議院より推薦されて定員11名となる。議決は6名以上の賛成を持って許可される。衆議院は数百名の議員によって運営されるが、その決定は大統領1人によって行われる。
衆議院は村長、町長、男爵以上の貴族によって運営される。しかし、その意見はすべてその長である大統領1人に集約される。大統領への立候補は子爵以下の爵位保持者か、町長や村長経験者のみとなる。投票は各村や町の村長、町長と男爵以上の貴族によって行われ、決められる。
国家の方針は貴族院・衆議院(大統領)・王様の3権のうち2権が揃う方針が選ばれて国家運営を行う。戦争・友好等の条約の締結も2権の合意が必要となる。しかし、通常時は王様が政治を行う権限を持つ。大統領指定者及び貴族院議員は王様の承認を経て大臣となる権利を得る。
尚、叙爵や爵位譲渡は一定の基準に沿って判断されるが、王様の権限となる。
――か。まぁ、王様の権限は絶大だが、絶対ではないな。大統領と貴族院を抑えればある程度の権力は得られるか……。
まずは、男爵の爵位を取得しないと政治介入は難しいか……な。そもそも、悪政が行われてるかどうかもまだ分からんからな、取り敢えず首都を目指しつつ立ち寄った村や町では恩を売っておくか……。
魔物とか魔法については……これかな。ふむふむ……。
魔物とその発生。魔物は動植物が魔素の汚染に耐えきれなくなった場合にその動植物が変化して誕生する。人間も昆虫も然り。土地土地によって発生する魔物の種類に片寄りがあるが、その原因は動植物の分布であってさして大きな違いはない。魔素は夜や暗い所に自然発生し、また月よりも降ってくる。その正体は闇の精霊の瓦斯とあるが、その辺を知る者は少ない。
精霊。精霊は火水土風の四大精霊と雷を含む五大精霊、毒を含む六大精霊、光闇を含む八大精霊に分ける考え方があるが、まだ確立こそしていない。眉唾物ではあるが、火水土風光と雷毒金障闇の五大精霊が反目し合う十大精霊が真理と言う集団もいる。
純粋な精霊は火の運行水の運行等自然が自然であるための法則を司り、殆ど意思を持たないが、亜種と呼ばれる精霊は意思をもつ場合がある。その精霊はまさに今、勇者諸君に繋がっている精霊だ。意思が強い程、力は失われているため、諸君はさほど強い力を持たない精霊を使役しているのだと思われる。しかし、その知識は何物にも変えがたい力になるだろう。
精霊語魔法。精霊は深いところで繋がっており、言語は統一されている。その統一されている言語と共に共有されている魔法は精霊語魔法と呼ばれている。これは人間にも使えるので、要チェック!いわゆる魔法使いはこの魔法をよく使います。
……ほぅ……。
ふむ……。
……。
ふぅ、まぁ今日はこの辺で寝るか……ライフリート!」
「んあっ?」
「交代だ、寝かせろ」
「うぬー、寝ろ」
◇ ◇ ◇ ◇
「すいませーん」
「んあ?」
目が覚めると3人程のお姉さんに囲まれていた。
「どうしましたか?」
「あー、ライフリートぉ……寝てんのか、おい、起きろ!」
「んぁ?」
ライフリートは起きない。多少声を掛けられた位では起きないのか、んにゃろう、恥かいた。
「すいません、見張りをたてて眠ってたつもりなんですが……この蜥蜴全然役に立たなくて……」
「旅人さんですか?」
「勇者です。君達はどこから来たんですかい?」
「あー、勇者様!北に向かえばすぐに私達の村が見えますよ。畑が見えたら直ぐです」
「そうか、ありがとう!何かあった際は爆炎の勇者様に清き一票を頼むぞ!」
「はーい」
「何あれー」「清き一票って何ー」なんて声を背中に受けながら、役立たず蜥蜴の尻尾を掴んでその場を去る。この状況で寝てるとは良い度胸だ。
なかなか起きない蜥蜴を振り回しながら起こしつつ、北に向かって歩いていると、簡単な木の柵があり、その向こうには収穫を終えた後のような畑が並んでいた。落ち穂拾いと言うか、ガサゴソと何かを拾っている血色の悪そうな人もちらほらと見える。何処の世界も貧しい人は居るものだ……。
爆炎の勇者はその内の1人に近付き、話し掛ける。
「この村は何て言う村なんだ?」
「ここはギセイの村と言います。へぇ」
「ほう、何か犠牲にしてんのか?」
「よくわかりやすねぇ……。この村は人を犠牲にして成り立っておりやす」
「人……?生け贄でもやってんのか?」
「よくわかりやすねぇ……。この村は毎年火山に生け贄を出す事によって成り立っておりやす」
「ほう、なかなか酷いな」
「よくわかりやすねぇ……。この村はもう未来は無いでやすよ」
「村長は何処だ?」
「村で1番大きな家におりますだ」
「わかった、ありがとう」
爆炎の勇者は落ち穂拾いをする死んだ目の村人を後にして進んで行く。防風林だか何だか知らないが、村を囲む小高い並木を通り、村の中へ入る。そして村の中心にある1番大きな家へと向かった。
「村長いるか?」
「何だ?私が町長だが……」
「生け贄を出しているとは本当か?」
「いきなりなんだ君は、まぁ生け贄を出しているのは本当だが、何かね?と言うか君は何者だね」
「私は爆炎の勇者だ、生け贄について困ったことがあれば聞こう」
「いや、困った事はないが」
「本当に?」
「本当に」
「一体何に困ってて何に対して生け贄を出してるんだ?」
「あー、生け贄はザルドレイク火山の赤竜様にだよ。いつか魔王を退治して下さる良い竜さ。力を蓄える為に生け贄を差し出しているのだよ」
「良い竜が生け贄を欲するのか?」
「知っていると思うが、かつて世界には4匹の竜が居て、その4匹の竜と勇者様で魔王を魔界へ撃退した伝説がある。魔王城が出来る数百年前の話だがな、その時に竜様は全員死んだと思われていたが、生きている竜様が居たんだ。それがザルドレイク火山の赤竜様さ、今も大怪我をして居て、動けなくなっているから5年前から生け贄を送っているんだ。こっちの自発的な生け贄だよ」
「ほう、詳しく聞かせろ」
「赤竜様が発見されたのは5年前、生け贄は半年に1回、これ迄5人の処女を送った。最後に送ったのは今日。ああ、赤竜様は勇者様が使った炎の宝珠なる物を持っていたな」
「ほう、今日送った女の名前は?」
「パンツミルカだったかの」
「ザルドレイク火山への行き方は?」
「ん?何しに行くんじゃ?」
「行ってフラグ回収……じゃなかった、赤竜様のエサになってこようと思ってな。別に処女じゃなくても良いんだろ?」
「そうじゃが……まぁ、良いじゃろ。此処から真っ直ぐ行くと鳥女の巣に当たる。じゃから、大きく迂回して進む。山頂近くになれば赤竜の隠れ家になるから鳥女は来なくなる。それまで逃げ切れば大丈夫じゃ、じゃあ達者での」
「おう、もし、生きて帰ったら爆炎の勇者に清き一票を宜しく!」
「何の事か分からんが分かったからさっさと行け、邪魔じゃ」
爆炎の勇者は村長の家を出て前へと進む。その眼は淀みなく、第1村人を発見すると話し掛けた。
「食事できる場所はあるか?」
「こんの村じゃあ宿屋も食事屋も無いだよ、でもそこのスケロクさん家なら金を出せば食事を出してくれるかもしれねえ」
「ありがとう」
爆炎の勇者はスケロクさんの家に入り、声を掛ける。
「すいませーん!金は出すのでご飯くれますかー?」
スケロクさんらしき男がキッチンの様な土間から顔を出す。
「おま、誰だ?旅人か?」
「勇者だ、爆炎の勇者と名乗っている。もし、出来るなら食事をいただきたい」
「どれだけ分必要かね?」
「出来るだけ急いで貰ってだな、1,000Gで都合してくれる分くれると助かる。今からザルドレイク火山へ行くからな」
「それは難儀なこって……。ここはパン食でなく米食中心だからおにぎり位しか出せる物がないがええか?」
「パパー、あたちのご飯は?」
「おめーは炊きなおししだ飯を食ええ。まずはお客様の食事から作るっど!」
「いやぁ、すいませんね。急に来てしまって……。時間がないもので……」
「取り敢えず、炊けてるご飯でおにぎり作りますだ。キツイ梅干し入れでおくんでギリギリ明日の朝までは食べられるかも知らんだ、今食べる分は塩おにぎりにしとくだ、3個3個だな。月桃の葉っぱに包んでおくからな」
「迅速な対応助かる!」
「ほれ、持ってけ」
「うむ、1,100Gだ、素早い対応だからおまけ100Gも付けておいたぞ!」
「ありがとうございますだ、また来た際には寄って下せぇ」
「とおちゃーん、腹減っただよー」
◇ ◇ ◇ ◇
民家での食料調達を終えた爆炎の勇者は、その辺の井戸で勝手に水分を補給し、真っ直ぐザルドレイク火山へと向かった。
「相棒、赤竜ったらどう足掻いても倒せる相手じゃねえぞ。いくら熱耐性+20があっても氷結の盾と氷結の短剣があっても、一撃持たずに死ぬぞ?!」
胸から顔を出したライフリートが真剣な顔をして言う。
「なに、話をしに行くだけさ、それに勝算も無い訳じゃない」
「いやいやいや、勝算とか言うな戦う気満々じゃねえか!竜だぞ!多分50m位あるぞ!」
「なあに、私の卵もあるし、勝算はあるさ?ライフリートよ、見ておけ、私の勇姿を……」
「卵……卵……あ!きたねぇ!心を閉ざしやがって!相棒!心が読めねぇ!こんな所だけ器用だな!」
「まぁ、ともかく行ってみようじゃないか、多分悪い事にはならないはずだ」
「言い出したらテコでも動かねぇな……まぁ勝手にしろ。どうなっても知らんぞ」
「今のうちに休んでおけ、次は居眠り=死の世界だからな」
「……分かった。相棒が言うなら仕方ねぇ……寝ておくぞ」
「ふんふーん、パンツミルカ、パンツミルカ、こんな面白い名前で仲間にならない訳がない……!楽しみだなぁ!はっはっはっはっは……!」
爆炎の勇者は眠るライフリートを胸の中に抱え、道中からその景を支配しているザルドレイク火山へと向かう。1時間ほど歩くと、腰を下ろすに丁度良い岩があったので、休憩がてら座って塩おにぎりを食べる。
食べたらば休む間もなく歩き続ける。見える風景が灌木の原野から段々と岩の割合が増えてくる。坂道を上るようになってからは、火山らしく木が全く生えていない禿山となった。
「こんな所では隠れる間もなく鳥女に狙い撃ちにされてしまうではないか!」
「相棒よ、そこで俺の出番だぜ、熱探知で鳥女の居ないルートを探してやるぜ!もう少し夜になれば多分、鳥女も活動を控えて眠るだろうから、そうなってから移動しよう」
「お、良いサポートじゃないか、ライフリート君。流石っ使い魔だよ!」
「死にに行くようで嬉しくないがね。まぁ毒を下せば皿までよ!」
「はは、じゃあ私は少し休むが……見張り……今度こそとちるなよ!」
「任せなさい!」
爆炎の勇者は大岩の陰で仮眠をとった。目が覚める深夜0時からの1日が爆炎の勇者の最も大変で長い1日になる事を知ってか知らずか……。
大変!爆炎の勇者は赤竜のブレスで黒焦げに!さて爆炎の勇者の生死は……!?
次号!爆炎の勇者死す!
みんな見てくれよな!