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第6話 水浴びの少女

水着回ならぬ全裸回です。色気はありません。

 爆炎の勇者は1泊目の野宿から目覚めてトナリの村へ向かう様に歩いていた。向かう様に歩いていた筈だった。しかし、ライフリートは気付いていなかった。

 

 ――爆炎の勇者は適当に歩いていた事を……。ライフリートの「道が違うな……」と言う疑問が「まさかこいつ!」に変わるまでが凡そ半日。それから無駄にガードの硬い爆炎の勇者の思考を読んで「相棒オオオーーーー!」となるまでが10分。完全に道に迷った時であった。

 

「相棒……恐らくトナリの村を通過して北よりに進んでる。普通じゃハジメの町からトナリの村まで半日もかからないが、ハジメの町から出て今まで1日半も経ってる。ここから先はろくな村もないぞ、魔物だらけの魔の森とでっかい火山の2択しかない。今から引き返して戻るべきだ」 

 

「そうか?じゃあ、氷結の短剣と氷結の盾を生かす為にでっかい火山に行こう。まさに見えているあれだな?」

 

 遠目に見える限界の距離、西日により赤く光っているなだらかな尾根の端からもくもくと灰色の煙が上がっており、同じく西日を浴びてオレンジ色に照らされていた。地面よりも高い場所に有る山が煙を吹いている。人は此を火山と呼ぶ。

 

「相棒に話をするのは無駄な気がするぜ」

 

「そんな事はない。いつも当てにしてるぞライフリート、ほら、この毛皮のコート買わなきゃ多分凍死こそしなくても風邪くらいは引いてる。命拾いしてるぜ」

 

「逆にハイドレザーコート何か買わせてしまったから調子にのって野宿なんかするようになっちまったんじゃねぇかと後悔だよ……」

 

「さておき、腹が減った。この辺には飛蝗が見えないから、飛蝗以外の物を食わないとな!」

 

 爆炎の勇者はいわゆる魔王の荒野と呼ばれる魔王城の影響で荒れ果てた土地の外輪を歩いていた。そこは魔王城の放つ良くないエネルギーを受けて精霊の活動が低下し、サバンナの様な乾燥した気候になっており、動物や植物にとっては過酷な環境となっているので、言うまでもなく食べ物となりうるものは少ない。

 

「しかし、食べられそうなものがさっきから一向に見当たらん。何故だライフリート」

 

「西にある魔王城の影響が出るのがこの辺まで、だからこの辺から西側はほぼ食べ物はない。食べ物があるのは東側だな」

 

「ライフリート、魔王城ってのはここから西に行けば着くのか?」

 

「相棒、行くのは本気でやめてくれ。勇者の8割近くが魔王城に向かって死んだ。あと、真西ではない、此処からだと南西の方向にある筈だ」

 

「位置関係は言えるか?ライフリート」

 

「うーん、相棒の世界の物で表すと、丸い時計の中心が魔王城として、時計の長い針が届く範囲が魔王城の荒野と呼ばれている場所になる。さっきの火山は12時の文字盤を北に少し過ぎた場所。トナリの村は2時の文字盤少し過ぎた場所でハジメの町は3時の文字盤のギリギリの場所かな。6時の文字を南に行ったらミナトの町何てのもあるが、今は行き様がないな」

 

「成る程、分かりやすいな」

 

「今は1時の文字ギリギリの縁に居る。だから南東に向かって一旦村に落ち着くべきだと思うぞ?」

 

「まぁまぁ、旅は道ずれ世は情け、まずは食事といこう、探せば何かある筈だ」          

 

「相棒、足が生えてても食べられない物は五万とあるぞ」

 

「まぁまぁ、任せなさい!」  

 

◇ ◇ ◇ ◇

 30分後、歩きつつ食材を探した爆炎の勇者はライフリートの白い目を気にせず食材らしきものを集めて煮炊きし始めた。 

 

「うーん。人間の食べ物は分からん」

 

「なぁに、とりあえず煮れば大抵のものは食える」

 

「ぐーつぐつぐつほら煮えろ!バイ菌死滅しろ!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ 

爆炎の勇者クッキング

・トカゲのお風呂

・草を煮た緑の汁

 

「まずは緑の汁…ぐぅえぇ…。これは吐く手前で耐えられるな。セーフ。きっと滋養に良い草だ」

 

「そうか?相棒顔が青いぞ」

 

「次はトカゲのお風呂。スープを飲もう…ん?これは…」

 

「これは…?(ゴクリ)」

 

「クソ生臭いが…こう…鶏ガラみたいな風味があるぞコレ」

 

「どれど……ヴグェ!」

 

 ライフリートは爆炎の勇者の胸から上半身を出してトカゲのお風呂と言う名のスープに口をつける。……次の瞬間、口は兎も角鼻の孔とピット器官と目玉から勢い良くスープと体液が飛び出す。

 

「な?」

 

「ゲッホグェフォ!な……じゃねーよ!吐いたゲロが身体中の穴と言う穴に詰まって○ね!」

 

「まぁ、毒だなライフリート。もしかしたら毒袋的な何かを取れば鶏ガラ出汁が取れるかもな。これは廃棄」

 

「舌が痺れてるが」

 

 ライフリートは2つに割れている下を出して渋い顔をする。

 

「おえはもうまひひへる」

 

 爆炎の勇者はライフリートの10倍近いトカゲのお風呂を飲んでいた。いわゆるその辺の毒草を舐めた者が如く唇は腫れて下は麻痺していた。

 

 余談だがおにぎりを喰はず芋の葉で包んでそれを食べた場合や、罰ゲームで夾竹桃にキスした場合も同様の状態になると言う……。夾竹桃は漆科の植物ゆえの被れであり、喰わず芋はとろろを食べる際に唇が痒くなる現象の超絶痛い版であり、毒の種類は違うのではあるが、古今東西どんな毒でも口にするとまず唇から表れるような気がする。そんな体感を感じる事がある――とある人は語っていた。

 

 さておき、この日の食事は草の汁のみとなった。どんなにクソ不味い食べ物でも毒でなければ食う。聖人のような爆炎の勇者であった。

 

「ライフリート、この辺に……何か無いか?そろそろイベントの1つや2つ起こっても良いだろうに……」

 

「うーん、あ、北東のあそこに湖があるぞ。せめて魚とか捕まえて食うとか、人間らしい物を食った方が良いんじゃないか?」

 

「釣りの道具があればなあ……」

 

「まぁ、今回は準備する間もなかったし仕方無いが……と言うか相棒は計画性無さすぎるぞ」

 

「いや、計算通り何だよ、だからそろそろイベントが起こる筈なんだ」

 

「起こるかよ」

 

 爆炎の勇者は北東に歩き続けて5分。灌木のいっそう濃くなっている場所に辿り着いた。そこには広さ20m、深さ2m程のクレーターがあり、1m程の水が貯まっている湖があった。爆炎の勇者はその湖の側に立ち、木に手をかけると、布のような肌触りを感じて思わず手に取った。

 

「ん?何だこれ?布切れ見付けたが(したた)かくさい。こりゃあ使えねーな」

 

「これがイベントか?相棒。食料見付かると良いな……」

 

「あんd……‼うぉっ、」

 

 小汚い布を拾った爆炎の勇者は湖の方向が鋭く光るのに気付き、咄嗟に身を引くと、顔の脇にある木に1本の鉄の投擲具が突き刺さった。射線から投擲された地点を見ると、水の中から裸の女性の上半身が伸びており、片手で肋骨の上に洗濯板を抱いていた。

 

「クナイか。私でなかったら見逃しちゃうね。ん、(すんすん)お前これ何処から出した?ザリガニ臭ェぞ」

 

「……ザリガニの身から出した」

 

 怒っているであろう顔に激怒の油を注いだような顔になった女はこちらに聞こえる声で答えを返した。

 

「毒か?ぬめぬめしてるが……」

 

「クナイから手を離せっ!におい嗅ぐなっ!」

 

「お前が投げたんだろ!返して欲しかったらおっぱい揉ませろっ」

 

「わかった。わかったから、だからお願いだからそれ捨てて」

 

「ほらよ」

 

 爆炎の勇者は山なりにクナイを投げて少女の近くに落とした。

 

「ん、私が落としたのは臭いクナイだ、正直に言ったから後ろ手に隠してる今洗ってるクナイくれよ」

 

(相棒、そんな事言っても異世界(メタリアトラス)人にそんなネタ通用しないし多分かなりキレてるから煽るな) 

 

「そんなものはない…………ちょっとまて………………………………よし」

 

「いや、持ってんじゃねーか!って今投げたのも拾ったの?そんなん3つもアブねーだろ!」

 

「ウルセー不審者!それ返せ!」

 

「それって何だ!このザリガニの巣か?」

 

 爆炎の勇者は拾った布をブンブンと振り回す。爆炎の勇者はスライムを振り回した事を思い出したが、特に此処では触れない。

 

「違う!それは私の……いや、そうだ!そのザリガニの巣だ……ぁ」

 

「ん?これお前のパンツじゃねーのか?お前のパンツはザリガニの巣なのか?」

 

「殺す」

 

「待った待った!そこの裸女!俺はライフリートでこいつは爆炎の勇者!こいつはまだ召喚したてであまり慣れてないんだ!悪意はないから襲わないでくれ!この臭い布は返す!」

 

 ライフリートが爆炎の勇者の胸元から半身をつき出して弁明をするが時既にお寿司であった。

 

使(ファミ)(リア)共々喧嘩売ってるのかテメー!」

 

「上等だゴルァー!きっとライフリートさんもキレてんぞー!」

 

「待て待て!キレてない!(これ)は返す!落ちてたから拾っただけだ!争う意思はない」

 

「早く寄越せゴルァー!」

 

 裸の少女は胸元のレーズンを隠す意思なく前進してくる。これは「どうせこいつは死ぬから見せても構わない」と言った気概が感じられた。

 

「まぁて!まぁて!こいつは腹が減って気が立ってるだけなんだ!こいつは返す!うりゃー!」

 

 ライフリートは爆炎の勇者の胸から出ている上半身を引っ込めて代わりに尻尾を出し、爆炎の勇者の左手から布を引ったくって湖へと放り投げる。     

 

「……これで良いかー?そこの裸女よー!」

 

 ライフリートは会話のボールを投げ返した。それはlevelの低い勇者にとっては厄介な爆弾で、爆発すると死亡のリスクすらある危険なボールであったが、ライフリートの気転により相手にパスする事に成功した。

 

「チッ、兎も角さっさと行けよ、こっちは水浴びしてるんだ」

 

 

「……嫌だね。私も水浴びする」

 

 爆炎の勇者は学生服を脱ぎ始める。

 

 ライフリートは世界(ザ・ワールド)の言葉を検索する。一難去ってまた一難。いや、一難は何とか投げ返したのだが、その一難に自分から突っ込むのはその言葉は適当でないな。

 

 「虎穴に入らずんば……」いや、虎は居ても虎児なんか居ない。「自○?そうか、これは自○だ」……ライフリートがその答えにたどり着くと、爆炎の勇者は学生服を脱ぎ終わった所で、肌着をつけたまま湖へとずんずん降りて行く。

 

 

「相棒ー!相手は武器持ってるんだから変に逆上させてやんなよ!」

 

「嫌だね。良い事はしてるつもりはないが、悪い事もしてねぇ!私は自分の意思で水浴びするね」

 

 爆炎の勇者は学生服のみを脱いだ状態で湖に飛び込む。

 

「まぁ、それは自由だ、好きにしろ。但し、着替えてる時はこっち見んなよ」

 

 ライフリートは胸を撫で下ろした。

 

「見ねーよ!洗濯板ァ!」

 

「ふざけんな誰が洗濯板ダァア!」

 

 語気の荒さは喧嘩腰でも裸の女はザブザブと陸に上がって服を着始めた。

 

(相棒、服そのままだし、下手したら盗られるぞ)

 

「まぁ……盗まないだろ。されて嫌な事はするなだ」

 

(ん?相棒の鞄盗られてるぞ)

 

「あんの洗濯板ァアアア!」

 

 空腹の爆炎の勇者の怒号と共に1人と1匹は土手を掛け上がり、爆炎の勇者の荷物を持って悠々と歩く服を着た女を追い掛ける。

 

「あーら、その年で加齢臭?くっさい荷物はここに捨てとくわよ?」

 

「相棒……加齢臭は町長家から持ってきた服じゃね?」

 

「そうか、じゃあ着る前に洗っとくか」 

  

「やーいやーい!お前の町長加齢臭~」

 

「…………」

   

「何よ!何か言いなさいよ!」

 

「お前友達いないだろ」

 

「な……あ、いるし!」

 

「名前言ってみろ」

 

「ぇ……」

 

「目が回ってるぞ、人間は物を思い出してる時は左上を見るんだ、覚えときな」

 

「だから何なのよ!」       

 

「私の名前は爆炎の勇者だ。友達になってやろう。奇遇にも私も友達がいないんだ」

 

「はぁ?蜥蜴のこそ泥の間違いじゃない?アタシはパンツミルカ。と……友達になってももう会う事もないでしょうけどね」

 

「ん?私と一緒に旅をするんじゃないのか?」

 

「は?何この急展開。何をどうしたらそんな事になるの?」

 

「予言しよう。パンツミルカ、お前はいずれ私の仲間になるだろう」

 

(相棒、何か根拠はあるのか?)

 

「フラグだ、こうなったら敵にしろ味方にしろ必ず深い関係になるのが務め!そしてパンツミルカなんて面白そうな名前で敵にするには惜しいからな。これは遮蔽物の無い場所で水浴びしたお前の責任だ!」

 

「まぁ、爆炎の勇者様だかこそ泥だか知らないが、その……友達になってくれたのはありがとう。だが、私には仕事が有るんでな、恐らくもう会えないだろう」

 

「いや、会えるさ。仕事が終わったらな」

 

「じゃあな」

 

「おう、またな」

 

……ライフリートは後に語る。人間はよく分からない生き物だと。

 


 

 

大体週2回更新位かもしれません。

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