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第死話 告死鳥クダン

 

「あ、さっきの勇者様じゃない?」

 

「ほんとだ…」

 

 漆黒の勇者は再び洗濯をする婦人の並ぶ川にやって来た。スライムの死骸を振り回してスキップしながら去っていったと思ったら走って帰ってくる勇者を見て婦人はどう思っただろうか?完全に危ない人のそれである。    

 

「ライフリィーーートォーー!索敵全開!コボルトォ探しやがれ!」

 

(あいよ、相棒!)

 

 胸の辺りから尾に火の灯っている飯匙倩(ハブ)のような火の精霊ライフリートが具現化して飛び出す。

 

 町の中にいる時や移動する時などは爆炎の勇者の体内に宿ってはいるが、索敵を行うに際しては外に出ている方が都合がいいらしい。さっきの索敵は胸から目と舌だけが出ていた。

 

「さぁ!お前の本気を見せてみろ!」

 

 

ゴーーーーーーー,,,ンンンンン…… 

 

 町の方から鐘の音の搾りカスのような音が響いてくる。そういえば日に何回か鐘が鳴るとか聞いたような聞いてないような…。 

   

「正午みたいだな…何かいるか?」

 

「おかしい…風が…臭い。魔物の臭いだ…かなり近い…が、温度変化がほぼ常温…いや、低い…。何か…潜んでるぞ」

 

「真面目な話か?」

 

「相棒じゃねぇからふざけねぇよ…多分さっきスライムの居た辺りに…いるぞ」

 

爆炎の勇者もライフリートに続いて異様な雰囲気に気付く。 

 

「婦人達!何か魔物の気配がする!逃げた方がいいぞー!」

 

「魔物ってスライムの事かい?」


 婦人の1人が軽口を叩いたと同時に一気に爆笑の渦が広がる。

 

その時―――

 

バサッ…

 バサッ…

  バサッ…

 

「グヴェ"ェ"ェ"ェ"ェ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"工"エ"!!!!!」


 断末魔のような叫び声が響き渡る。

 

 その叫び声の主が先程スライムの座っていた場所に降り立つ。

 

 烏の様な艶やかな翼の先に50cmはある猛禽類の爪、髪を振り乱し気狂いした女の顔、野性的かつ豊満なお碗型のG100カップの胸にチェリーピンクカラーのパフィータイプ乳首が2つ、野良犬よりひどい毛皮の下半身からは三ツ又の脚が生えていた。足の先も三ツ又の猛禽類の爪となっており、九つの爪で大地をしっかりと掴み、こちらを睨んでいた。

 

「相棒、とりあえず戻っていい?」

 

「戻ってこい、ライフリー…って早いな」

 

(あれは…猛禽女(ハイハーピィ)の亜種か…見た事無いけど告死鳥って魔物かもしれない。猛禽女(ハイハーピィ)なら鋼鉄の剣で不意打ちしたら勝てそうだけども…アレちょっと猛禽女(ハイハーピィ)より強そう…。ヤバイかも)  

 

 

「クダン…クダァァアンのヶェェンン。約束は果たされた…漆黒の…翼ワァ…託されたァァ…。今宵…。町長は死ィヌウウ。告、町長は死ィヌウウ。ソの町もォオオ。運命を共にするゥ…!」

 

(告死鳥って奴かもね!町長死ぬってよ!)

 

(軽いな相棒…)

 

(あれ、なんなの?)

 

(町長の死を伝えにきた…魔物?) 

  

「おい、漆黒の翼ってのは漆黒の勇者の事か?」

 

「………」

 

(相棒、あいつ喋り終わったら急激に体温が下がってる…んだが、もしかして死んでね?)

 

「ドリャアアアアア!!!」

 

 突然の爆炎の勇者の咆哮、そして飛びかかりの横殴りの斬撃、すでに事切れているであろう告死鳥の首は折れてひしゃげる。斬撃の衝撃を完全に止められた爆炎の勇者は、その剣を思いっきり引く。すると残る筋肉質な首の総てを切り裂き、首を落とした。すると大地をしっかりと掴み込んでいた足の爪が緩み、そのまま前倒しに倒れた。首からは見たこともない真っ青な液体が吹き出している。            


 はたから見ると、爆炎の勇者が告死鳥の隙を見て首を切り落とし倒したのだが、固まって一向に動かない爆炎の勇者を見て婦人方が爆炎の勇者に声をかけた。

 

…その間、爆炎の勇者とライフリートはこんな事を問答していた。

 

(私、人の首をはねてしまった…?)

 

(相棒、よく聞け、あれは化け物だ)

 

(おっぱい…あったよ?)

 

(相棒、よく聞け、化け物にもおっぱいはある。牛にも豚にもありはする)

 

(あのおっぱいを吸う子供達も居たのかな…?)

 

(告死鳥の…まぁ告死鳥かどうかは分からないが、告死鳥と言い切っていいのかわからんが…何か言いたい事を言ったらすぐ死んじゃうみたいだから、彼女子育て無理だと思うよ?多分子供居ないよ!処女!処女!清らか!)   

 

(あれ生首、どう見ても女の人の…) 

 

(ほら、下半身見ろよ、小汚い犬みたいや毛皮だろ?) 

 

(チャッピー…)

 

(チャッピー?ああ、あー、すまん。小学生の頃飼ってた犬?そんなトラウマもあるのか相棒。ややこしいな)

 

「あのー、勇者様。先ほどはすいませんでした…。私たちを救っていただき有り難う御座いました…。もし宜しければ、この魔物、私達が解体屋までお運びいたしますか?」

 

 洗濯をしていた婦人達が下手(したて)に発言した。

 

「あ、ああ、頼む!どうやって運ぶか考えていたよ。ふはは、ありがとう」

 

(しかし、気になるな…漆黒の勇者…これ町長に報告した方がいいんじゃないの?)

 

(そうするかー)  

 

「では、私達は先に帰っております…」

 

 爆炎の勇者の手には人の首をはねたような感覚が残っていた。しかし、厳密に言えば人の首よりはるかに硬い魔物の首の感触だったと、後で他の魔物を狩った時に知る事となる。


 女性達はてきぱきと洗濯していた布の必要なさそうな物を集めて魔物を包み、あれよあれよと町の方へ消えていった。爆炎の勇者は逞しい女性達を…見た。

 

「洗濯を川で行っていた桃太郎時代の      

お母さんだもの、家畜の解体だって日常的にあるだろうし、精神的にも肉体的にも強いよな」

 

「女は血に強いとか言うしな。俺は蜥蜴だからわからんが…」

 

 ライフリートは胸から顔を出して呟く。

 

「ん?蛇じゃないの?てっきり飯匙倩

(ハブ)だと思ってた」

 

「よく見ろ、ほら、ちっちゃいけれど手足付いてるだろうが」

 

「ちっさ!」

 

「うるせー!」

 

◇ ◇ ◇ ◇


 町への帰路は足取りの軽いものではなかったが、何とか帰って再び解体屋の前に立つ。

 

「よっしゃあ!解体屋ァ!今度の大物はどうだァ!」

 

「ああ、あれ…は値段つかない…かな?」

 

「まぁな!大物だからさぞかし高値なんだろうな!」

 

「いやその…すまん。珍しいっちゃ珍しいが珍しすぎてよく分からん。特にこっちで使える素材がない。つまり…タダ…同然かな?」

 

「へ?いや、ほら羽根とか皮とかひっぺがしたり骨とか肉とかさぁ!」

 

「羽根はまぁ、羽根ペンやら何やらに使えそうだな。だが、大型の魔物解体費用500Gを差し引いて…ほぼ相殺、いや少しは払えるかと思うが…うーん。どうだろうか」

 

「皮!肉!おっぱい!」

 

「お前…この生首何に見える?」

 

「人間の生首」

 

「その通りだ。お前ならこいつの生皮剥いで着たいか?」

 

「…」

 

「正解!沈黙するほど着たくない。つまりはこいつの皮はいらない」

 

「おっぱいは…?」

 

死体(これ)に欲情するか?」

 

 ……。

 

「ごめんなさい」

 

「まぁでも、運が悪かったな。普段だったらこの町にはネクロマンサーが居るんだが、今ァ居ないんだ。仮にネクロマンサーが居たらもしかしたら高値で買ってくれるかもしれないんだが…俺達にはあまりわからない世界だからな…。とりあえず氷漬けにして保管しておくから、売れたらお金取っておくよ」

 

「お…おう。頼んだぞ」

 

「あと、ありがとう。うちの母ちゃん達を助けてくれたんだってな。これは少ないながらお礼だ」

 

◇1,000G手に入れた!

 

「分かってるじゃねえか!貰っておくぞ!」

 

 爆炎の勇者は道を尋ねつつ町長の元へと向かった。町長の家は町長の家とは思えない程…普通の一軒家だった。来客があるようだが、こっちの用件が先だろうとドアノブを捻り、ノックせずその領域へと押し入る。  

 

「おい!町長!」

 

 中に入ると冒険者風の若者とが4人と町長が深刻そうな顔をして話をしている。冒険者はこの町に居ないんじゃなかったか?

  

「お、おう!白煙の勇者殿!」

 

 思い出したように町長が声を上げる。 

 

「点々が足りない。点々が」

 

()(えん)の勇者殿!」

 

「ふざけてるけど町長、今夜中にはこの世と縁を剥がされるぞ。つまり死んでまうぞ」

 

「…知っとるよ」

 

「へ?知ってるの⁉情報早いな!」

 

「町長…こちらは?」

 

 冒険者のリーダーらしき黒髪短髪の糸目ヤローが常識人っぽく質問する。 

 

「ああ、こちらは昨日召喚したばかりの爆炎の勇者だ」

 

(言えんじゃねぇか町長(クソジジィ))

 

(まぁ、多分誰が来ても言うお約束みたいなもんなんだろ?)

 

 まぁ、そっちがそうくるならこっちも紳士に勇者らしくしてやるかと思い立ち、笑顔を作りつつ対応する。 

 

「どうも、もしかして冒険者ですか?」

 

「はい、中級冒険者クランのストレイドギー団長(リーダー)のギドと言います。よろしくお願いします」

 

「同じく副団長(ふくリーダー)のアルスだ。勇者様に会えて光栄です」

 

「えっと…ヒラのミリアムって言います。魔法使いしてます」

 

「同じくヒラのラミザリアと申します。ネクロマンサーしておりましゅ」

 

 ギド・アルス・ミリアム・ラミザリアか。名前が階段状になるから覚えやすいな。まぁ、もう会う事もないだろうが…ん?ネクロマンサー? 

 

「お前ネクロマンサーか!死告鳥買わないか?死にたてホヤホヤ!」

 

「あー、死告鳥って…あの山にいたー?あれは違うんだっけラミザリアちゃん」

 

 ミリアムと言う金髪の少女が口を開いた。何やら内輪の話っぽいが、あの化け物と戦った事があるのか? 

 

「現物を見てみたらわかるかもしれません…もしかして解体屋ですか?」

 

 ラミザリアと言う黒髪ウエーブのネクロマンサー少女がそれに答える。 

 

「ああ、もしよかったら見てくれ」

 

「じゃあ行ってきます!」

 

 ラミザリアと言うネクロマンサーの少女は自己紹介も程ほどにすっ飛んで走っていった。足はえーなーと思ったが、何気にみんな身体締まってんな。女ですらこう…陸上部みたいな筋肉をしている。

 

「所で町長、告死鳥が漆黒の翼が何だとか今夜町長と一緒に町が滅びるって言ってたぞ。大丈夫かこの町?数年に1度しか魔物による死者が出ないくらい平和じゃなかったのか? 」

 

 話は端折(はしょ)るに限る。まずは核心から伝えてやろう。私は勇者だからな。

  

「ああ、そうか。まさかの今夜に迎えが来るのか…。知っていたよ。こうなる事は…。町の人にはすまん事をした」

 

「ん?何やら色々知ってるみたいだが、説明してくれるか町長(クソジジイ)?」

 

 (おい、ルビ振り間違えてんぞ…いや、副音声間違えてんぞ)

 

「それは…分かりました。話しますぞ…長くなるがのぅ…」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

「…成る程。長い話を要約すれば、町長は初めての召喚に失敗してルシフエルなる魔王を呼び出してしまつて、そこで町の西側にある魔王城の主をぶっ殺してくれたら魂をやるって約束したんだな?」

 

「まさに!身も蓋もないが…まぁ概ね当たっておる」

 

「それで、その魔王城の主を討伐&町長の死期の引き金がフォルネスの宝珠の使い手漆黒の勇者が現れる事だったんだな?」

 

「まぁ、そうだのぅ。まさか町まで無くなるとは…」

 

「じゃあ簡単だ。町長はここで死んで残りの住人は全員避難だ。それが最善なんだろ?」

 

 黒髪短髪糸目リーダーのギドが片目を瞑りながら口を開く。何か話しづらい事でもあるのか。

 

「実は爆炎の勇者様が来るまで…その話を町長としていたのですが、住人だけでなく町長も救えるのではないかな…と言う話まで進んでおりました」

 

「ん?町長(クソジジイ)死なずに済むの?」

 

「はい、たまたまうちのパーティーメンバーが大天使の羽根の数段上の謎の羽根と言う超S級アイテムを持ってまして…。それで魂っぽい物を作りまして…町長の身体に入れておいて、敵さんにそれをもって行って貰えれば…と言う作戦です」

 

 アルスという金髪ツンツンのイケメン副団長が重ねて言った。

 

「どうやら契約は町長の死と、町長の魂を貰う…だったらしいので、町長の(所有する偽の)魂を貰って貰ったならば、自尊心(プライド)の高い魔王はまた奪いに来るなんて滑稽な事はしないんじゃないかなと思いまして…。あとは町長が余生を送る身体さえあればと言うところまで来てました」

 

 成る程、言いにくそうな事情はこれか。死体が欲しい訳だな。ネクロマンサーってのはエグい事するぜ……ん?

 

「身体?身体。はぁ、身体…?」

 

ドォオオン!

 

 町長家のドアが蹴破られたと思ったらそこに人よりも幾ばくか大きい鳥の魔物が…って、告死鳥じゃないか!

 


 ギドと言うリーダーが私の言いたい事を告げる。

 

「どうしたラミザリア?それは…」

 

「町長さんあったよ!今日からこの身体使いましょ!」

 

 

「これ…これ!?」

 

「は…?」

 

「へ…?おっぱい!」

 

 ああ、やっぱりこの反応で良いんだな。まさか町長の魂を告死鳥に移植するとかイカれてる。おっぱいに驚いてる副リーダーのアルスって奴はかなりスケベとみた。

 

「ほう、お碗型ですか」

 

(相棒、町長が一番スケベな気がするぜ)

 

「どうかな!?」

 

 ラミザリアと名乗った黒髪ウエーブの子が笑顔でいい放つ。もはや使える死体なら何でもいいって事か。

 

(ほら、意見求められてるぞ相棒) 

 

「いやいやいや、ハゲの町長(ジジィ)がGカップのハーピィだぞ!?」

 

(これでいいかライフリート?) 

 

(突っ込みに回った相棒を始めてみたぜ!)

 

(それが言いたかっただけかよ!)

 

一瞬空気ごと冷えたような沈黙を切り裂いて町長がしみじみと呟く。……頬を赤らめながら。

 

「良いのぅ、新しくやり直してみるかのぅ」

 

 ラミザリアとか言う奴は満面の笑みでこう言い放った。

 

「決まり!家に帰って色々やって来るね!」

 

 ラミザリアだったか?黒髪ウエーブの少女は再び死告鳥を担いで走り去っていった。その後を他のメンバーが追い掛けていく。嵐は去ったか。 

 

 

 

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